真っ赤な森を抜けていけ3
慣れない環境に気づかない間に体力を削られている。
良さげな場所を見つけたら早めに休んでしまうほうが後々のためである。
リュードは足で強めに地面を蹴り払って生えている火の草を消し飛ばす。
払われた後、火の草の下には普通の地面が出てくる。
「よし、見てろよ」
火の草のおかげでほっかほかの地面にリュードが手を当てる。
地面に魔力を込めて魔法を発動させると丸く溝になるように土がへこんで、溝に囲まれたところがわずかに盛り上がる。
お風呂部屋を土属性の魔法で作るような応用で土を操った。
そしてその溝に魔法で水を流して簡易的な堀とする。
普段の冒険でこんなことやらないのだけど今回は環境が特殊なのでしっかりとした準備をしておく。
ヒュルヒルにいる魔物は火属性に寄った性質を持つものばかりなので水辺に近寄りたがらない。
容易く飛び越えられそうな幅、足の着きそうな深さの溝程度の堀であっても越えてこないのだと聞いた。
ついでにその溝を作る時の土を集めて地面を固めると一晩ぐらい火の草が生えてくることを防げる。
水を張った溝に囲まれたところに耐火性のある布を敷いてそこの上に耐火性のあるテントを張る。
テントもヒュルヒルの木々が燃えていて明るいために分厚い布で出来ていて遮光性もある。
「はぁ〜、魔法もちゃんと練習してるのね」
テユノが感心したように水を張った溝を見ている。
四角く切り取ったようにへこんだ溝は綺麗でリュードの技量の高さがうかがえる。
「私ももっと魔法が使えたらなぁ」
溝の水に足を突っ込むルフォンがぼやく。
入れ始めた時はまだひんやりしていたのにもう水はぬるくなっている。
これ以上入れていては足湯になってしまいそうで自ら足を出す。
人狼族はなぜなのか属性変化をさせる魔法がとても苦手である。
扱えないということではないが竜人族よりもはるかに努力せねばならずそれなら身体強化などの出来ることをやった方が早くて強い。
でもやっぱり魔法が使えることに憧れはあるのだ。
身体強化術ではリュードはルフォンに敵わないけれど地味になってしまうのは仕方ない。
「ほっ!」
「おっ、それいいじゃない!」
「ひんやーり」
テントの中ではテユノが氷塊を魔法で作り出してそれにラストが風を当てて冷風にしていた。
竜人族のテユノはもちろん魔法が扱える。
そしてラストも魔法の才能があった。
先祖返りであって魔力も強いラストは繊細な魔力コントロールも出来て魔法の方も有望である。
魔法も極められる環境ではなかったので基本的なことを一通り出来るだけだったが練習すれば弓矢だけでなく魔法使いとしても戦えそうだ。
現在はリュードに剣だけでなく雷属性の魔法も少し習ったりしていた。
コユキはラストが起こす冷風を浴びて気持ちよさそうに目を細めていた。
テントの中はそうして外よりも快適になるように工夫して過ごしていた。
「あっ、ずるい」
テントに入ってきたルフォンも風の前に移動する。
氷を通って冷えた風が気持ち良い。
「こーら、テントを冷やすようなのよ?」
「そんな固いこと言わなーい」
「言わなーい」
「しょうがないわね」
テユノがため息混じりに注意するけどルフォンとコユキは退ける様子もない。
そんなに無理に退かせるつもりもない。
テユノも軽く笑ってしまう。
「肉焼けたぞー」
そこにリュードがテントを覗き込む。
手には鉄の串に刺した魔物肉。
ルフォンにあまり負担はかけたくないので今日はリュードが簡単に肉を焼いて料理した。
そうはいうが外の火でお肉を炙るだけの簡単なお仕事である。
焼いた肉を切り分けてお塩をかけていただく。
「なんか不思議だね」
肉は美味い。
リュードの焼き具合も上手で疲れた体にお肉が染みる。
けれどこのお肉も実は体を冷やす効果を持っている。
そのために食べていると体が冷えてくる。
焼きたてのお肉を食べて体が冷えるというのも奇妙な感覚である。
「んじゃ、そろそろ寝ようか」
「パパと寝る!」
普段は女性陣とリュードは別に寝る。
しかし囲ったスペースやテントの都合からヒュルヒルにいる間はリュードも同じテントで寝ることになっている。
コユキは嬉しそうにリュードの裾を引っ張って笑う。
リュードもデレデレと笑ってコユキを抱きかかえるようにして寝ることにした。
一応テントの中では見張りとして起きている人も交代で務めるがみんなで氷塊と食べ物の冷却効果のおかげで意外と快適に寝ることができたのであった。
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