真っ赤な鳥にさらわれて2

 歩いているうちに遠くに見える鳥のことなど忘れていた。

 またしても魔物の襲撃に遭い、今度はリュードが前に出て魔物を一掃する。


「リューちゃんお疲れ様……リューちゃん!」


「えっ?」


 一応魔石は回収してお金の足しにでもしておこうと思ったリュード。

 剣を収めてカバンの中からナイフを取り出した瞬間影もないほどに明るかったはずなのにいきなり影に覆われた。


 見上げるとそこに赤いものとクチバシが見えた。

 ガシッと肩に衝撃があって、鳥の足が見えた。


「あっ……」


「ええっーーーー!」


「ちょっとコイツ借りていくぜ!」


「えっ、しゃべ……ちょ、どういうことよー!」


「パパーーーー!」


 音もなく近づいてきていたのは遠くに見えていた赤い鳥。

 いつの間にかリュードの後ろにいた赤い鳥はリュードの方を足で掴むと一気に空中に飛び上がった。


「届かな……い」


「くそッ!」


 ルフォンとテユノが咄嗟に飛び上がって赤い鳥を追いかけようとしたけれど赤い鳥の方が速くて追いつかなかった。

 明らかに魔物なのに人の言葉で借りていくなんて奇妙な伝言を残して赤い鳥はグングンと離れていく。


「シュミュだ!


 そこで待っててくれー!」


 このままはぐれては会えなくなるかもしれない。

 リュードは声の限りに叫んだ。


「リューちゃーん!」


「リュードぉ!」


「パパーーーー!」


「リュードー!」


「兄貴ー!」


 ルフォン、ラスト、コユキ、テユノ、ロセアは赤い鳥にさらわれて遠ざかっていくリュードを見ていることしかできなかった。


 ーーーーー


 上空は火から離れて涼しい。

 赤い鳥はスピードもあって風が頬を撫でて結構気持ちがいい。


 ただし誘拐されている状態じゃなきゃもっと気分がよかったのに。

 ここで落とされたら危険なので暴れたりしないで大人しくする。


 抵抗するなら捕まれた時にやるべきでもう時すでに遅しである。

 ただ誘拐してきた割に肩を掴む足は優しく、赤い鳥からも敵意は感じない。


 リュードを害そうとしている雰囲気は全くない。

 どうせ出来ることはないのでボーッと眼下に広がるヒュルヒルを眺める。


 上から見るとヒュルヒルは真っ赤。

 上から見てもと言うべきか。


 真っ赤な景色に気を取られて見逃しがちであるがヒュルヒルの奥には山があった。

 下から見ると燃える木々のせいで見にくく、山も燃える木で覆われているので存在感が薄い。


 どうにもその山の方に向かっているようだった。


「なあ、どこに向かってるんだ?


 何するつもりだ?」


 どこを見ても赤いので視界に変化もない。

 手持ち無沙汰になったので赤い鳥に話しかけてみる。


 捕まれていたのであまり記憶にないけれどなんか赤い鳥がしゃべっていた気もする。


「もう少し待ってくれ。


 悪いようにはしないから」


 期待はしていなかったけど返事があった。

 低くて渋い男性のような声。


 明らかに赤い鳥から聞こえている。

 赤い鳥は高度を一度上げると山の上に降下する。


 山の上は平らになっていて木々が生えておらず、そこにリュードは下ろされた。

 下ろし方も非常に優しくて、赤い鳥もリュードの前に降り立った。


「うぉっほん!」


 赤い鳥はサッと翼で飛んで乱れた頭の羽を撫でて整えてグッと胸を張る。


「私は誇り高く、気高い不死鳥フェニックスのカーラッド・フェイズラン・パルタ・オライオン・ケーリアネオカスディラス……」


 ピカソかよとリュードは思った。

 長々と続く赤い鳥、もといフェニックスの名前。


「……ハッタシュだ!


 是非ともハッタシュと呼んでくれたまえ!」


 長い名前を言い切ってハッタシュはさらに胸を張る。

 なんならハッタシュだけ名乗りゃいいじゃないと思わざるを得ない。


 でも突っ込むのも面倒だからハッタシュと呼べばいいのだなとシンプルに理解しておく。

 煌びやかで美しく気品の溢れるハッタシュだけど、どうしてだろうかナルシスト感も感じる。


 ただ自己紹介をしてきたことで話が通じること、敵意はなくて話し合う気があることは分かった。


「人を誘拐して何の用だ?」


 知性を大いに感じさせるので目的はあるだろう。

 ただ念のために剣に手をかけてすぐに動けるように警戒はする。


「今回貴殿をこちらにご招待したのはお願いしたいことがあってことである!」


 バーンと翼を広げるハッタシュ。


「お願いだと?」


 一瞬にして色々な疑問が浮かぶ。

 魔物が人にお願いしたいなど聞く話じゃない。


 お願いの内容も気になるがそれ以前のことも大きく気になる。


「人にお願いするのにわざわざ誘拐することもないだろう」


 人と対話が出来るほどの知能がある。

 飛べるのであれば多少距離を取って話しかけてくれればそれでもよかったはずである。


 こんな風に無理矢理さらってくる必要などなかった。


「……私は美しい女性に見られると緊張してしまうのでダメだ!」


 今度は上下に羽を伸ばして明後日の方向を向くハッタシュ。

 こいつ一々ポージングしなきゃ話せないのか。


 本当はもっと早くにリュードに話しかけたかったハッタシュ。

 けれどリュードの周りには美形女子が多くいた。


 そのために近づくに近づけず、ヒュルヒルの中では1人になるようなタイミングもなかった。

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