夜の訪れない森ヒュルヒル2
あまりに堂々としていて、そして冗談っぽく言うので冒険者もリュードの言っていることが本当のことだとは気づかなかった。
指名手配の人相にちょっと近いから離れる。
微妙に納得できない話でもない。
大笑いして冒険者もリュードの話を受け取っているので心配した事態にはならない。
ヒヤリとした会話を終えて冒険者と別れたリュード。
これで顔を晒していても大丈夫そうであると確信が持てた。
そのまま順調に旅は進み、ヒュルヒル手前にあるジャンディゴにまで辿り着いた。
「まさしくファンタジー、だな」
「わぁ……すごい」
「燃えてる!」
そこまで行くと夜の訪れない森という理由が分かるほどにヒュルヒルの姿が見えていた。
宿の窓からみんなでヒュルヒルを見物する。
その光景に目を奪われる。
なぜなら森が燃えているからだ。
煌々と真っ赤に森が燃えているのである。
これが夜の訪れない森と言われる所以。
一時的に大火事で森が燃えているのではなく、ヒュルヒルという森は常に燃えているのだ。
よく見ると分かる。
一般的に言う火事と違っていることに。
ヒュルヒルの木々は燃えているのだけどその燃えている場所は木の上の方で幹は燃えていない。
そして地面の一部も燃えているように見えている。
燃えているように見えているのは木の葉っぱや地面の草が生えているはずの場所。
ヒュルヒルの正体は森が燃えているのではなく草や葉がなぜなのか燃え盛る火に置き換わってしまっている、何とも不思議な森なのであった。
「明るいね……」
ヒュルヒルは日中夜問わず、長年ずっと燃え続けている。
燃えているためにヒュルヒルの方は赤く明るく見えていて、ジャンディゴまで来ると夜なのに昼のような明るさを保っている。
逃げるためにここを選んだのだけど本来ここに来ようと思っていたのはこの不思議な光景のためである。
火の神様ファフラのお願いをリュードは忘れていない。
火の神物を探してほしいというお願いを受けていた。
神物のある場所も分からないけれど神物がある場所には異変が起きているはずだとファフラは言った。
火に関わる不思議な場所は世界にいくつかある。
その中の1つとしてヒュルヒルを調べに来たのであった。
燃える森。
火の神物があってもおかしくなさそうな異常な光景ではないか。
神物がある場所よりも地獄の入り口みたいな見た目はしているけれども十分に可能性を感じさせる。
「だからカーテンがこんなに厚いのね」
テユノが窓につけられているカーテンを閉める。
非常に分厚いカーテンで、閉めると全く光が入らなくなって部屋が暗くなる。
カーテンを閉めれば暗く、開ければ明るくなる。
明かりいらずである。
「そんでどうするつもり?
まさかとは思うけど……」
こんなことになる前の予定ではヒュルヒルに神物がありそうなのかここに留まって情報収集したりするつもりだった。
今はそんなことしている暇はない。
「そのまさかだ。
あの燃える森を抜けて別の国に出る」
「あそこを?
本当にあんなところ入って大丈夫なの?」
ラストが不安そうな顔をして再度窓の外を見る。
どう見たって燃えている。
あんなところに入って大丈夫なのか。
「それが大丈夫らしいんだ」
ヒュルヒルを抜ければ別の国に出られる。
国境が曖昧で魔物が多く出る場所で兵士を国境線に置くことも出来ず、冒険者も多くいるので一人一人を監視することも不可能。
何も持たない奴隷が到底通れる場所じゃ無いので奴隷の逃走を警戒すらしていない。
「あんなところどうやっていくの?
燃えちゃうよ」
暑さに弱いルフォンは余計に不安そう。
多少の暑さなら耐えるけど燃えるような暑さはルフォンどころかみんな耐えられない。
「聞いたところによるとあの火も普通の火ではないんだ。
熱も実際の火より弱くて物に燃え移りにくい。
耐火装備や耐熱の能力を上げてくれる食べ物を取ることでヒュルヒルの中でも活動が可能になるんだ」
長いことこの燃える森と付き合ってきたジャンディゴにはヒュルヒルと付き合うための知識が蓄積されている。
ファンタジーの世界にあっても不思議な森を調べないはずがない。
森は火で覆われていて非常に暑いのだけどすぐ近くに燃え盛る火があるほどの熱さではない。
火に触れると当然熱いのだけど燃えやすい物を近づけても本物の火のようにすぐには燃えず、耐火性のものなら直接火に触れさせ続けない限り燃え移ったりしないのである。
そのために耐火装備を身に付けておけば燃えることなくヒュルヒルの中で活動することが出来る。
「だからまずは耐火装備を買いに行こう」
ルフォンは気になっていた。
街中で見かける冒険者たちがみんな似たような色や素材の装備を身に付けていることに。
冒険者ギルドで教えてもらったお店に行くとお店の大きなコーナーの1つを耐火性のある装備品が占めていた。
他のお店ではまず見ることがないラインナップの装備でそれを見てようやく町の冒険者たちの格好が理解できた。
「可愛くない……」
「確かに重たい色してるわね。
……ってそのものも重たいわね」
赤銅色というのか、暗めの重たい土色の装備が耐火装備であった。
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