夜の訪れない森ヒュルヒル1
問題が起きた時に隣の国に逃げるというのはありがちなことである。
それは逃げる方も追いかける方も思いつくことである。
一通り奴隷を解放して暴れ回った奴隷たちも勢いを失って解散して逃げ出し始めた。
今頃カッチェートに近い国境では逃げる奴隷と追いかける兵士で大騒ぎだろう。
それを見越してリュードたちは逆の方向へと突き進む。
テユノやロセアの身なりも整ったし、コソコソとではなく堂々と道を行く。
このタイミングでコソコソしていれば逆に怪しく映るし、境界関係者の銀の札をリュードたちが目立つように付けていればテユノとロセアについては身につけていなくても誰も疑問に思わない。
リュードは顔を隠し気味にしているけどそれでもリュードたち一行に疑問を持つ人はいなかった。
国内の混乱も大きく、奴隷という情報だけで人を追いかけている。
ビドゥー殺害の犯人としてリュードを追いかけている人もいるのかもしれないがその影は全くと言っていいほど見られなかった。
リュードが目指しているのは闇の訪れぬ森ヒュルヒル。
何と最初の目的地である。
大きな理由は2つある。
1つはヒュルヒルが他の国にもまたがっているから。
大部分がウルギアにあるのだが全てがウルギアの中にあるのではなく隣接している国の領土にもヒュルヒルは広がっている。
つまりヒュルヒルを通ればそのまま他の国に出ることができる。
次にヒュルヒルは魔物が多く出てくるために冒険者の数が多いことである。
人の出入りが多くて様々な冒険者が集まる。
やはり紛れるなら人の中である。
他にもカッチェートから遠いところにあるとか当初の目的だったとか色々細かな理由もあってヒュルヒルに向かうことにしたのである。
急ぎつつも怪しく見えない程度の早さで移動する。
逆に国内の警備は薄くなっているので移動は容易い。
しかしここで問題が起きた。
国内で残っていた小規模な反乱も完全に鎮圧され、状況も落ち着きを取り戻し始めていた。
そうなると今度話題に上がってきたのがビドゥーの事件である。
リュードはビドゥー殺害の犯人として指名手配されてしまったのである。
懸賞金がかけられて町中に情報を求める貼り紙が至るところに見られるようになった。
ただその貼り紙を見て、捕まえるのは難しいだろうことは幸運だった。
ツノを消して接していたリュードは真人族であることになっていた。
黒髪、長身、端正な顔立ちとリュードの中でも表面的で薄い特徴だけが書かれている。
リュードの顔をまともに見たのはダッチぐらいだし、ダッチもそんなにリュードの顔を見たわけじゃない。
黒髪で背の高いやつなんてそこら中にいる。
端正な顔立ちも個人の主観によるところもあるので振り幅が大きすぎる。
ついでにツノも出しておけばもう貼り紙をの内容でリュードを捕らえることなど出来ない。
さらに貼り紙にはリュードたちは3人組となっている。
あの時に突入したルフォンと助け出したテユノのことだろう。
残念ながらリュードたちは3人組じゃない。
仲間がいるとは思わないのかと疑問は感じるがリュードたちに都合のいい勘違いなので鼻で笑っておく。
薄い上に間違っている特徴、人数も違うとあればもはや何の効果も持たない。
油断はできないけれど現在教会の関係者も装っているので変な通報をする人もいない。
「逆に平和ね」
「そうだな。
逃げている奴隷がこんなところまで来るとは予想していないんだろうな」
リュードたちは大きな都市を経由して移動をしている。
早いルートじゃないけど人通りもあって逃走者のルートではないから逆転の発想でこうしたルート取りをしている。
カッチェートから離れれば離れるほどに周りは騒ぎとは関係ないような顔をして過ごしている。
「堂々としちゃうのが1番いいんだね」
怪しい態度を取れば怪しくなくても怪しい人になる。
怪しい人でも堂々としていれば案外バレないものである。
宗教関係者を装っているだけじゃなく奴隷らしくなく身を綺麗にしていれば多分疑われることもそうない。
多少リュードを見てヒソヒソする人もいるがツノを見ると首を振っていなくなる。
真人族が犯人であるという貼り紙の情報がリュードに対してとても追い風になっている。
「よう、兄ちゃんたち。
ヒュルヒルか?」
道をすれ違う冒険者が話しかけてきた。
一瞬ドキリとしたがリュードの顔を指して話しかけてきたのではなかった。
「はい、首都の方からヒュルヒルに向かう途中です」
「首都の方が安全だろうに……
まあ首都の方でも今は奴隷騒ぎとやらで忙しいか。
探されている人だか、奴隷だかもいるんだろ?」
「そうですね。
懸賞金がかかっている人もいるみたいです。
……それに俺にとってはちょっと都合が悪くて」
「都合が悪い?
懸賞金がかかってるんだ、捕まえりゃこの先遊んで暮らせるって話だぞ」
「懸賞金がかかっている賞金首の特徴はご存知ですか?」
「ん?
ああ……軽くは」
「ちょっと似てるんですよ、私」
「…………ハッハッハッ!
そういえばそうだな!
兄ちゃん黒髪で背も高いし顔もいい。
まあ、真人族じゃなさそうだけどな!
そのツノなかったら俺がとっ捕まえてたかもしれないな!」
リュード以外にとってはとても肝の冷える会話。
朗らかに会話しているがとんでもないことを話している。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます