モテるデカい男

「うーん、2つ前かな?」


 多少元気を取り戻したテユノ。

 罪悪感に押しつぶされそうになったロセアが殴ってくれなんて言うものだからテユノは遠慮なくぶん殴った。


 それでロセアは頬をぱんぱんに腫らすことになるのだけどロセアも少し罪悪感が軽くなり、テユノもすっきりしていた。

 事情も分かったので心機一転ウルギアからの脱出を図る。


 特に行き先に制限もないのでこのままの計画で行くつもりである。

 無事に移動するための準備もする。


 途中の町でテユノやロセアの服なんかを買った。

 そしてテユノに必要なものといえば武器だろう。


 こんな感じで同行することになってしまったがテユノはとても優秀な戦力になってくれる。

 そのためには武器が必要だ。


 テユノの武器は槍。

 都合がいいことにリュードにはドワーフの町でいただいたたくさんの武器がある。


 ただただマジックボックスの袋の肥やしともなっているので使ってもらえるとリュードしてもありがたく、歩きながらどの槍がいいかを確かめていた。

 さすがドワーフ産の槍は質が良いらしい。


 高品質な槍がポンポンと出てきてテユノは驚いていた。

 リュードが軽く出してきた最初の槍だけでも十分に実力を発揮できそうな質の高さ。


 槍をメインに扱わないリュードなので期待していなかったがこれは真面目にチェックしなきゃならないと思った。

 手に持って軽く振るって馴染みを確かめる。


 長さ、重さ、重心、持ち手や刃の形状などで細かな差がある。

 高品質なのでどれを使っても問題ないレベルではあるが、どうせなら手に馴染むものがいい。


 中には色物もあった。

 スイッチがあって押すと刃が飛んでいったり、三節棍のように柄に関節部分があって自在に曲げられるようになっているものなんてのもあった。


「これはどうだ?」


 リュードが白い槍を手渡した。


「これ……」


 はっと息をのむほど美しいとテユノは思った。

 刃の先から石突まで真っ白で思わず目が奪われた。


 作りはシンプルで真っ直ぐな刃。

 持った瞬間から手に馴染み、軽く振り回してみると重さや重心もちょうどいい。


 まるで自分のために作られたかのようで取り回しに何の違和感もなかった。


「気に入ったな?」


「あっ、うん」


 見ているリュードにも分かった。

 体の一部であるかのように槍を振り回すテユノ。


 まるで長年使いなれているかのようにテユノに馴染んでいる。


「これ、本当にもらっていいの?」


「俺が持っていても使わないからな。


 作ったドワーフも使うべき人に使ってほしいと思っているさ」


「……ありがとう」


「礼なら作ったドワーフに言ってくれ」


「でもくれたのはリュードだから」


「……なんだかしおらしいな」


「助けてもらったんだから当然でしょ」


 村を出る時のようなつんけんとした態度はない。

 助けてくれたこともあるし旅を経て少し丸くもなった。


 なんやかんやとキスもしたしつんけんとする必要もなかった。

 それに村にいた時だってつんけんしたかったのでもなく、素直にはなりたかった。


 出来事は最悪だったけどいいきっかけだったかもしれない。

 さらに本当はもうちょっと甘えたいけどそこはまだ恥ずかしい。


「それに私だって少しは大人になるんだよ」


 でもこの思いはルフォンを倒さなきゃ口にできない。


「そうか」


 なんにしても元気になってくれたみたいでよかったとリュードは思った。


「ん?」


「むっ!」


 ちょっとしたいい雰囲気。

 そんな2人の間にコユキが割り込んできてリュードの腕に抱き着いてシトーっとテユノをにらみつける。


「嫌われちゃったかな?」


「いや、嫉妬してるだけだよ」


 リュードが優しく頭を撫でてやるとミミをペタリとさせて目を細めるコユキ。

 コユキの意図としてはリュードを独占しすぎ!といこと。


 あとはパパがいきなり現れた女性と良い感じになっていたらうれしくはないだろう。


「あっ、ルフォンずっこい!」


 ただルフォンだって強力なライバルを前にして大人しくもしていない。

 すすすとリュードに近づいて腕を絡ませる。


 驚いているテユノにチラッと視線を向けてチロリと舌を出す。

 

「えいっ!」


「おおっと!


 重いぞ、ラスト」


「おーもーくーなーいー!」


 さらにラストが後ろからリュードに乗っかるようにして抱き着いた。

 それにもテユノは驚いていた。


「あ、あんた本当にこの子にも手を出してんの……」


「えっ……いや、手を出してるなんて、そんな……」


 テユノの目が怖い。

 最低と口に出そうになるがぐっとこらえる。


 どこでなにをしようがリュードの自由だしルフォンやラストが納得しているならまだただの友人であるテユノに口の出せることでもない。

 それに魔人族は一夫多妻も認められているし妻を抱える方がいいなんて言うひともいるぐらいである。


 強い魔人族ほど多く所帯を持つべきであるとされるしリュードがモテることは当然でいいことであるのだけど。

 テユノも実際自分の父親である村長に結婚を勧めたこともある。


 村長は別にいいといったけれど村長も強い人だし1人2人妻を迎えてもいいと考えていた。

 リュードだけ例外とは言っていけない。


 だけど、なんか納得いかない。


「なーんかムカつく……」


 ただこのことにかんしてリュードに当たるのも筋違いだ。

 良い気分だったテユノは一転してむくれることになった。


「うらやましいなぁ」


 そんな様子を見てロセアはため息をついた。

 リュードは別れた時よりもさらにデカい男になった。


 体ではなく心や人として大きな男になったのだ。

 だからモテる。


 自分も女ならと考えてしまう部分だって否めない。

 片や自分はどうか。


 何もうまくいかずテユノに迷惑かけ通しである。

 リュードにも助けられて今は何も持ってすらいない。


 もっと商人として上手にやっていけると思ったのに世の中の壁は思ったよりも高った。


「はあっ……」


 ため息をつかずにはいられなかった。

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