あっちの事情とこっちの事情4
本当にこんなものが売れるのかとテユノが思う工芸品を買い付けて、荷馬車を借りて行商隊と共に行動して旅路は順調だった。
行商隊の人たちもそれなりに戦えて人が通る道に出てくるような魔物なら問題もなかった。
目的の都市まであと少しというところまですんなりと来ていた。
壊れやすい工芸品ということもあってあと少しで到着する安心感がロセアにはあった。
そんな時に事は起きた。
「たぶんあいつら全員グルなのよ」
盗賊が襲いかかってきた。
人数としてはそこそこの数いたが実力はそんなに高くもない。
行商隊がしっかり戦えば勝てる相手だった。
なのに行商隊の動きは鈍く、次々とやられていく。
非常にわざとらしい動きをしていて、血も流れていなかったことを後々になって気づいた。
テユノも最後まで抵抗したのだけどロセアを人質に取られて仕方なく投降することになってしまった。
「あんたが商品なんか諦めればよかったのよ!」
たまらず声を荒らげるテユノ。
ロセアが商品も諦めていれば捕まらず逃げられたかもしれない。
何より優先すべきは自分の命なのに。
お金がなくても命があって自由ならやり直しはきく。
なのにロセアは商品に手をかけようとした盗賊にかかっていってしまったのだ。
そんなことを言うテユノだけど結局ロセアも見捨てられなかったのだからあまり人のことは言えないけれども。
そこからはあれよあれよと奴隷に転落。
幸か不幸かテユノは男性と手も握ったことがないピュアガールなので高く売れるだろうと手は出されなかった。
反抗的なので殴られた事はあったけれどそれだけで済んだ。
そしてかなり危ういところをリュードに助けられて今に至るのであった。
「こんな事なら意地なんて張らないでリュードに付いて行きたいって言えばよかった……」
本当の話、リュードが旅に出る時テユノも行きたかった。
なりふり構わず一緒に連れていってと言えばよかったと何度も後悔していたけどこんな事になるなら最初からくだらないプライドなんて捨てればよかったと思った。
実際のところリュードとルフォンと共になら村長も旅を許してくれただろう。
「……でも」
ボッとテユノの顔が赤くなる。
時系列順に出来事を思い出していてリュードに助け出された時のことを思い出した。
媚薬によって行動は制御できていなかったけれど起きた事はハッキリと覚えていたのであった。
無論リュードにキスしたことも覚えている。
単純に唇を重ねただけでなくもうちょっと大人なキスを、しかも自分から、結構長めにやった。
正気じゃなかった。
でも正気じゃない時にやった行動は本能的なもの。
奴隷にされて辛い目にあったことよりも一度交わした唇の感触を強く思い出してしまう。
「なーんもなくなっちゃった」
でもすぐにまた胸にざわりとした悔しい気持ちも湧き上がってきた。
お金も愛用の武器も無くなった。
「こんな事になるなんて……グスッ…………おかしいね……笑える…………グスッ、うぅ」
キューッといろんな感情が渦巻いて涙が溢れてくる。
怖かった、悔しかった、ムカついた。
リュードが来てくれて嬉しかったし安心した。
こんな姿を見られて情けなくて、何も持っていないカラッポの自分が悲しくて。
これまで気丈に振る舞ってきたけど一度溢れ出すと涙が止まらなかった。
「みんなごめんなさい、ありがとう……」
旅は楽なものではない。
時として旅は残酷な運命を背負わせてくることがある。
決して油断してはならない。
テユノとロセアの話を聞いて改めて気を引き締めようとリュードは思った。
「ん?」
ルフォンとラストがリュードの背中を押す。
テユノがリュードにどんな思いを抱いているかは同じ思いを持つものとして分かりすぎるほどに分かる。
今どんな気持ちなのかも分かる。
ただラストや、ルフォンでさえも特別仲のいい友達ではない。
言葉をかけて慰めるには少し関係性が及ばない。
テユノを慰められるのはリュードしかいない。
ちょっとだけ複雑な気持ちもあるけれど泣いてる女の子を無視する男でもあってほしくない。
「テユノ」
「……ッ!」
こんな時にどうしたらいいのか、リュードにだってわからない。
だからギュッとテユノを抱きしめた。
必要なのは人肌の温かさと優しさだろう。
「何もない事はないだろう?」
「もう何もないよ……」
「あるじゃないか」
「何が?」
リュードの方が背が高いので接近すると自然とテユノがリュードを見上げる形になる。
弱々しく涙を流すテユノはわずかに震えている。
「ここにはお前がいる。
生きて、ここにいるんだ」
そう、生きている限りはやり直せる。
死んだわけでも死んだように一生奴隷になっているわけでもない。
テユノは能力がない子じゃない。
生きていればどうとだって出来る。
「今は俺やルフォンだって側にいる。
困っている仲間は決して見捨てない。
一緒にやり直していこう」
「リュードぉ」
「泣いてもいいさ。
泣いて、疲れて、眠って、起きて。
辛くても立ちあがろうとするなら手を貸すよ。
辛い目にあったかもしれないけど周りがみんな酷いやつなわけじゃない」
優しい声色が胸に染み込んでいく。
「ありがとう……リュード」
リュードの胸に顔を埋める。
泣きじゃくるテユノ。
泣いたらまた前に進もう。
テテテとコユキが歩いてきてリュードのマネをしてテユノの腰に手を回して抱きしめてあげていた。
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