あっちの事情とこっちの事情3

「むぅ……」


「そ、そんな睨まないでよ」


 馬鹿正直に答える必要だってないのにとテユノは思う。

 事実は変わらないがウケる印象は大違いである。


「ま、まあ?


 それでもともかく勝って優勝したわけだし、私も旅に出たいってお願いしたの」


「こうしてここにいるってことは旅に出る許可はもらえたんだな?」


「結果的にはそうなんだけど……」


 だがしかし娘をただで旅に出させるほど村長も放任主義ではない。

 リュードの時はリュードは男だし本をよく読んだり知識もある。


 頭も切れるし、何より1人でもなかった。

 女性であるテユノを1人だけで送り出すことは村長もできなかった。


 じゃあ1人じゃなきゃいい。


「そのタイミングで僕も商人としての修行の話が持ち上がったんだ」


 同時期にロセアの方でも村を出る話があった。

 村にいるとどうしても商売の相手は限られて積める経験は少なくなってしまう。


 そのためにどこか外に出て商売を経験することが必要だと話が出ていたのである。

 そのまま外で商売を続けてもいいしお金を作って帰ってきて村に関わる形でお店を持ってもいい。


 ちょうど同じタイミングで外に出ようとしているテユノとロセア。

 テユノには戦うような力があるけれど外の知識はあまりなく自炊の力も弱い。


 ロセアは戦う力はないけれど多少商売で外に出た経験もあるし金勘定が出来て自炊も得意だった。

 未熟な2人。


 でも2人合わせるとちょうど良さそう。

 ということでテユノはロセアの行商の護衛役として旅に出ることを許可されたのであった。


「ただコイツ……」


 テユノが深くため息をつく。

 自分自身に外の知識が乏しく口も上手くない方であることは分かっているテユノ。


 だからロセアに任せて自分はしっかりと学んでいこうと思っていた。

 なのにそのロセアも実際に外に出てみるとそんなにであったのだ。


 常識的なところはちゃんとしている。

 必要なもの、ことは分かっているがいかんせん気弱で見た目も舐められやすい。


 そのくせ中途半端に知識があるものだから逆に騙されてしまうのである。

 テユノがいなかったらロセアは早々に泣きながら村に帰っていたことだろう。


 経済的に無一文になったのも一度や二度じゃない。

 テユノが冒険者として稼いだりしてなんとか旅を続けていた。


 小さくなっていくロセア。

 必要なものの購入とかは上手くやっていたのだけど全体的な評価としてはダメダメ。


 僕に任せてくださいなんて最初は言っていたのにフタを開けてみるとこれだからテユノもため息しか出ない。

 テユノにおんぶに抱っこだったのだけどそのうちロセアも奮起して行商でも利益が出るようになってきた。


 ただそこでまた問題が起きたのだ。

 今に繋がってくる大問題が。


 騙されながらも経験を積んでいって広く行商しながら旅をしていた。

 そこである男に出会った。


「シギサってクソ野郎……今思えば怪しかったのよ」


 シギサという商人でロセアがまた騙されそうになっているところを助けてくれた。

 話はそこで終わらずにたまたま行き先も同じだったためにテユノたちはシギサに同行する形で一緒に行動するのことになった。


 何も知らないような田舎の商人見習いにも優しく、色々なことをシギサは惜しみなく教えてくれた。

 弟子でもない商人に手取り足取り教えてやる義理なんてないのに知識を伝授してくれた。


 ロセアもまた軌道に乗り始めた行商をさらに上手く伸ばしたいとシギサに教えを乞い、尊敬までしていた。

 本来の予定も大幅に延長してシギサについて回り、行商だけでも食っていけそうなぐらいに利益が出始めていた。


 しかしいつまでも一緒にいるわけにはいかない。

 シギサはいくつかの国を順に巡って行商しているのであり、拠点となる家や倉庫もあるのでロセアとは活動範囲が違う。


 そろそろお別れという時にシギサの方から儲け話が持ち込まれたのである。

 とある工芸品の売買で、他の国に持っていけば倍近い値段で売れるという話だった。


 シギサは他に行かねばならないところがあってその取り引きには手を出せないのでロセアに話を持ってきたというのだ。

 確かに利益が出るので惜しい話で是非ともやってみないかと提案された。


 けれどもその工芸品も特殊なもので仕入れ値も決まっていて、とても壊れやすいものであることなどを事前に説明されてロセアは悩んだ。

 けれども倍になるなら諸経費込みでも利益は見込める。


 そしてシギサはさらに背中を押すように偶然町にその工芸品を収める町に向かう知り合いの行商隊もいるので一緒に行ったらどうだとまで言ってくれた。

 壊れやすい工芸品を2人だけで運ぶことは不安があるけれどそれなりの規模がある行商隊に同行させてもらえるなら安心である。


 ほんのりと不安のあるテユノであったけれどロセアはすっかりやる気になっていた。

 テユノ分のお金まで借りて工芸品を仕入れることにしたのであった。


「全部。


 ぜーんぶ罠だったのよ」


 悔しそうにテユノが唇を噛んだ。

 ロセアもその時のことを思い出して泣きそうな顔になっている。

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