あっちの事情とこっちの事情1
「さてと、これからどーすんの?」
奴隷の大規模な反乱。
制圧は始まっているが町の奴隷の数は圧倒的に多く、それに比べて兵士を動員するスピードは遅い。
中には熟練した冒険者もいる奴隷たちは復讐と自由を掲げてまとまり、第一次制圧部隊をコテンパンにしてしまった。
同時にビドゥーの殺害もバレたのではあったが町の騒ぎに加えて、ジュダスは中で殺人があったことを隠そうとした。
リュードたちを探し出して追う動きも当然にあるのだけど何もかも巻き起こっている大きな流れに飲み込まれて容易く身動きが取れないでいた。
素早く町を抜け出したリュードたちは大きな流れに飲み込まれずに動けていた。
けれども今は大きな流れが国全体に広がっていっている。
少し動きを間違えれば簡単に流れに飲み込まれてしまう。
取引できる以上奴隷はある種の財物と言える。
奴隷が他国に逃げ出せば自国民損害は計り知れないし逃げ出した奴隷がそこで暴れると他国から損害についての責任を問われる。
制圧することも大切だが奴隷を逃さないようにするために国境の封鎖も進められている。
だからといって落ち着くまで待つことはできない。
リュードやテユノなんかはガッツリ顔を見られているので留まることにもリスクは大きい。
ビドゥーの影響力次第では国内に留まることの方が危険かもしれない。
深い森の中、焚き火を囲んでみんなで話し合う。
とりあえず騒ぎの中心から離れることを目的にして移動していたので細かな方針はちゃんと話し合われていなかった。
「大きな方針としてはウルギアを脱出だな。
……その前に状況を整理、まあ自己紹介でもしておこう」
ラスト・コユキとテユノ・ロセアの間には微妙に距離がある。
リュードが名前を呼んでいるので名前は分かっているけど当人から聞いたのでもないし、ほとんど知らない他人と同じである。
リュードを挟んだ知り合いの知り合い同士どうしたらいいのか分からないでいた。
テユノやルフォンの媚薬も完全に抜けて今のところ周りに危険もない。
「ええと……ラスト、コユキ、こっちがテユノにロセア。
俺の同郷の竜人族だ。
そしてサキュルラストにコユキ。
今一緒に旅している仲間なんだ。
2人とも魔人族だ」
コユキが魔人族かは微妙だけど獣人族な見た目をしているから良いだろう。
「はじめまして……って言うには遅いかな?
リュードのお友達ならぜひラストって呼んでくれると嬉しいな」
「コユキ!」
「ロセアと申します。
お見知り置き願います」
「テユノです……」
それぞれ挨拶する。
全員気の悪い人じゃないので打ち解けられるだろう。
「これから先のこともそうだが……なんでお前らあんなことなってたんだ?」
ひとまずテユノとロセアの事情を聞く。
事情も気になるがそれによっては行き先に制限がかかったり目的地があるかもしれないからだ。
「ちょっと待ったぁ!」
「なんだよテユノ?」
「そんなことより誰の子よ、この子ぉ!」
テユノがすごい怖い顔をしてリュードに詰め寄る。
ここしばらくリュードと目も合わせないテユノだったけれどこのことばかりは聞かずにはいられない。
コユキのことがずっと気になっていた。
リュードをパパと呼び、ルフォンとラストをママと呼ぶ。
いくら考えても関係性が分からない。
パパと呼ばれているのはリュード1人なのでリュードがコユキの父親であることは論ずるまでもないとは考えていた。
「コユキのことか?」
「そうに、決まってんでしょ!」
旅に出ていつの間にかこんなデカい子供こさえたなんて許せない。
別にリュードとは恋人でも将来を誓い合った中でもないけどこんな手の早い男だったなんて。
いや、自分が一緒に旅していれば今ごろママと呼ばれていたのは……なんて考えたのはきっと媚薬が残っていたから。
服を掴まれ揺すられながらリュードは思った。
お前なら分かってくれるとは思っていたのに、と。
そもそもの話、旅に出てから時間は経っているけれど仮に旅に出た直後にルフォンと子を成したとしてもコユキほどに成長するには時間が足りない。
リュードの旅立ちを知る人が冷静に考えればコユキの大体の年齢からリュードの子ではなさそうな予想がつきそうなもの。
ロセアも最初は兄貴すげぇと思っていたけどどうやってあんな大きな子を?と言う疑問から実子ではないのだろうと思い至った。
だからといってコユキは何者なのか疑問は残るけれど。
「一体どんな関係なのよ!」
激しく揺すられすぎて頭が飛んでいきそう。
「パパはコユキのパパ、コユキはパパの娘!」
シンプルかつ一切釈明になっていないコユキの説明。
「……どーいうことよぉ!」
「これは……だな」
「旅に出てルフォンに手を出したんでしょ!
それともそのラストって子?
このケダモノー!」
「違うって……」
「テユノ……落ち着いて」
「落ち着いてられるか、このすっとこどっこい!」
「す……ええっ?」
このままでは話せるものも話せない。
ロセアがなんとか止めようとしてくれたけど半泣きになっているテユノから今まで聞いたこともない言葉が飛び出してきた。
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