幻にも君を見た4
「お部屋はちょっと借りられませんでした」
「そうですか……」
「ですので他に宿を探すことにします」
「こちらの力不足でお客様にご迷惑をお掛けして申し訳ございません。
機会がございましたら是非今度はうちにお泊まりください」
ダッチはフードで顔を隠したテユノに視線を向けた。
明らかに1人増えているが余計な詮索は命取りになるので何も聞かない。
「またのお越しをお待ちしております」
そそくさとジュダスを後にするリュードたち。
「リュード!」
「パパ!」
警備兵からも見えないところまで来てラストたちが合流する。
「コユキ、まずはテユノを治療してくれ!」
「わかった!」
媚薬の影響にあったままではまともに移動もできない。
薬による悪影響なら神聖力による治療で軽減できる。
腫れた頬も治してやりたい。
「ああ……テユノ!
ごめんなさい!」
無事ではあるが無事ではないテユノを見てロセアが泣き出す。
「今は謝んのは後回しよ……
後で覚えときなさい」
コユキの治療を受けて頬の痛みが引き頭の中がだんだんとハッキリとしてくる。
どうやらこうなった原因はロセアにあるらしく先ほどまでのリュードに甘える様な声は何処へやら、地獄の底から響いてくるような声を出してロセアを睨んでいた。
リュードたちがビドゥーのところに突入している間に町中は蜂の巣でも突いたような大騒ぎになっていた。
奴隷の男はうまく扇動したらしく奴隷を解放して暴れさせるだけでは飽き足らず他の奴隷市場も襲撃していた。
男奴隷を中心に解放して戦力を増やしていっていた。
日頃から不満の高い奴隷たちはひどく暴れ回り、さらなる奴隷の解放を狙っている。
「都合がいいな」
町中は暴れる奴隷とそれを制圧しようとする兵士が争っている。
奴隷が街の外に逃げることはまだ考えられていない。
テユノを治している間にリュードは地図を取り出して脱出の方向を考える。
「……行くんでしょ?」
「もう大丈夫なのか?」
壁に手をついて立ち上がったテユノ。
まだ全快じゃなさそうだけど完全に治るまで待っていることは出来ない。
ひとまず走れそうなぐらいには体調は持ち直した。
「私を誰だと思ってるの?」
「……よし、じゃあこの町をすぐに離れるぞ」
「どこに向かうの?」
普通なら町を出て、さらに安全のためには国を出ることが求められる。
そうなるとこれまで来た道を戻って国境に向かうのが1番近いルートである。
しかしリュードはそのルートを行くのは危険であると考えていた。
「そのままさらにウルギアの中心を通って逆方向に抜けていく」
「な、なんでですか?」
ロセアが不安そうな表情を浮かべる。
早く国境を抜けて出たほうがいいのになぜ遠い方に向かっていって脱出しようというのか理解できなかった。
「近いほうが早く着くだろうけど相手だって奴隷が国境を越えて国を脱出することは分かっているはずだ。
こんな騒ぎになったら対策をしてくる。
国境線は塞がれるはずだ」
先に国境を抜け出せたらいいが失敗した場合厳しい戦いになるだろう。
それなら離れた方の国境に向かう。
そこまで逃げてくる奴隷の数は多くないだろうから自ずと警戒は緩い。
さらにリュードには考えもあった。
近い道が早いとは限らないのである。
「大丈夫。
きっとうまく行くさ」
リュードたちは混乱に乗じてそのまま町を脱出した。
途中兵隊や奴隷に襲われたこともあったがサッと倒して町の外に向かえば人は減り、町から脱出すること自体はそんなに難しいものでもなかった。
想像していたよりも騒ぎが大きくなってしまったけれど竜人族を奴隷にしようとしたのが悪い。
リュードたちは町を脱して町の外にある森の中に身を隠したのであった。
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