幻にも君を見た3
リュードだって年頃の男である。
媚薬に加えて美女2人からキスをされて頭の芯が痺れるようにグッと体が熱くなる。
「クッ……ダメだ!」
パンとリュードが両手で顔を叩く。
今ここで流されてコトに及ぶのもいけないし異変に気づかれる前にジュダス、あるいはこの町を出なければならない。
時間をかければかけるほどリスクは高くなる。
「リューちゃん、置いていこう?」
「いやいやいや、それはダメだ」
「むぅ……リューちゃんのえっち……」
「えっちじゃない……」
「あれぇ?
リュードとルフォンが見えるぅ」
「おい、立てるか?」
「んー……んーん、立てない。
抱っこして?」
「テユノ……
しょうがない。
目を覚ませ!」
「わぁ……お水だぁ」
「ごめんな!」
リュードは手のひらの上に水の玉を2つ作り出した。
ぽやーっとテユノは水の玉を眺めていて自分の真上に来ても水の玉を見たまま動かない。
1つはテユノの上に、もう1つはルフォンの上に移動させる。
パチンと指を鳴らすと水の玉が丸い形を崩してパシャリと2人の上に水が降り注いだ。
「わっぷ!」
「冷たい!」
「……リュード、ルフォン……幻、じゃない?」
水を被ってテユノの目に正気が戻ってくる。
ただまだ頭の芯はぼんやりとしていて頭を振るけど全然頭の重さが取れない。
てっきり薬と現実逃避したい意識が見せる幻なのだと思った。
気持ちの悪い男に変な薬を嗅がされて儚く乱暴される。
どうしても嫌で受け入れられない現実のためにリュードという幻を生み出しているのだと思っていた。
あんな男に奪われるぐらいならリュードがいい。
いや奪われるぐらいならではなく、リュードがいい。
幻想でもリュードが相手ならとテユノはキスをしたのであった。
「……ウソ!」
理性が戻ってきてもリュードは消えない。
ビドゥーの死体はそのままだし、リュードにキスをした事実は変わらない。
「い、いや!
見ないで!」
そして今自分が下着姿であることにテユノは気づいた。
「くぅん……」
ルフォンも濡れて冷静になった。
「テユノ、恥ずかしがってる暇はないぞ!」
気持ちは分かる。
けれども今は布団にこもっている時間すら惜しい。
おそらくドアの前に立っていた護衛が全てではあるまい。
だとしたら同じフロアの部屋に他の護衛がいるとみるべきだ。
主人の部屋で行われる情事に耳を傾けていることなんてしないだろうからまだ気づかれていないがいつ気づかれてもおかしくない。
「うぅ……うー!」
テユノも細かな経緯までは分からなくても助けに来てくれたことは分かる。
分かるからこそ余計に恥ずかしさも込み上げてくる。
「何か……服」
「これどうぞ」
こんなこともあろうかとルフォンのローブもマジックボックスの袋に入れて持ってきてある。
ルフォンが隙間からルフォンが服の端を引っ張ると吸い込まれるように布団の中にローブが引き込まれていく。
布団の中でゴソゴソとテユノが動く。
乙女の着替えを見ていてはいけない。
リュードはその間に廊下に顔を出して周りの様子を伺う。
シンとしている最上階。
「おい、そろそろ交代……」
「チッ!」
護衛交代のタイミングが来てしまった。
斜め向かいの部屋のドアが開いて中から男が顔を出してリュードと目があった。
「何者……」
「通りすがりの者だよ!」
リュードは男を殴り飛ばして部屋の中に押し戻す。
ドアを閉めて剣でノブを破壊する。
「リューちゃん!」
ローブを来たテユノと出てきたルフォンがビドゥーの部屋の前に倒れている護衛の剣を抜いてリュードに投げる。
「出てくんな!」
リュードは剣をキャッチすると思い切りドアに向かって振り下ろした。
斜めにドアを貫通して壁に突き刺さる。
「逃げるぞ!」
「開かない!
おい待て!
貴様何者だ!」
「あっ……」
エレベーターはないので階段で降りるしかない。
きっと呼び出す手段があるのだろうが今はそれも分からない。
走り出そうとしたがまだ薬の影響が強く残っているテユノは足がもつれて転びかける。
「危ない!」
「んんっ!」
リュードがテユノを抱き抱えるように支える。
媚薬の効果で敏感になっている体はリュードに触られると軽く電気でも走ったようだった。
「少し我慢しろ」
「あっ!」
「ぐぬぬ!
今だけだからね!」
走るのは無理そうだとリュードがテユノを抱き上げる。
いわゆるお姫様抱っこというやつだ。
一瞬で顔が真っ赤になり口をぱくぱくとさせて言葉も出なくなる。
顔すら見られなくてギュッと目を閉じてリュードに身を任せる。
ルフォンが怖い顔をしているけど今は緊急事態だから許してほしい。
階段を降りていく。
一階までたどり着いたらそこでテユノを下ろしてリュードたちは何食わぬ顔をしてジュダスのエントランスホールに出て行く。
転ばれたら困るのでテユノはリュードの腕に腕を絡ませて支えにして歩いている。
「どうでしたか?」
待ち受けていたようにダッチがリュードたちに近づいてきた。
少なくとも無事に帰ってきたということはビドゥーの知り合いであることは確かなのだろうとダッチは思っていた。
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