10本足の因縁2
「だけど……」
『任せてーーーー!』
今回こちらには大きな友達がいる。
ウツボが冒険者たちを叩きつけようとした足に噛み付いて床に組み伏せる。
全体的な能力ではウツボはタコに敵わない。
けれど足数本に限るとウツボはタコと同等に戦える。
足の1本なら容易く制圧できる。
ウツボが押さえている間に冒険者たちが一斉に攻撃を加える。
『いただきまーす!』
冒険者たちが切り付けたタコの足をウツボをちぎり取る。
タコの足を頬張って食べるウツボ。
『うまぁい!
ぎゃああああ!』
タコの足が美味しくてモグモグしていたらまたも壁に叩きつけられる。
「負けてらんないな」
なぜかやたらと狙われているリュードには5本もの足が差し向けられていた。
コンブの触手とは比べられないほどに速くて力強いタコの足は高い集中を保ち常に動き回らねば回避が間に合わない。
むしろ足を引きつけることができるので都合がいいと思ったけれど余裕が一切なくて辛い。
やはりこのタコはあの時のタコに違いない。
リュードに足をやられたことを覚えていて恨みに思っている。
「リュード!」
「なっ、わっぷ!」
リュードの後ろで爆発が起きてバシャリと水をかぶる。
見ると周りにいくつも水の玉が浮かび上がっている。
タコの魔法だ。
「マジかよ」
ラストがリュードに向かって打ち出された魔法を矢で迎撃してくれた。
魔法としての威力は無くなったがただに水に戻って頭からかぶることになった。
タコもただ足を振り回すだけじゃない。
「ウツボさん!」
『ダァー!』
足だけでもギリギリのリュード。
魔法まで増えたらかわしきれない。
ウツボも水に棲まう魔物なので水魔法の効きが悪い。
魔法を食らいながらも無理やりタコの懐に入り込む。
『アニキに手を出すなー!』
たまらずウツボにも足を向ける。
冒険者たちに1本、ウツボに3本、リュードに4本。
短い1本は状況に応じて動かしている。
「私もいるんだよ!」
ルフォンも前に出る。
リュードと合流してタコの足と戦う。
「こいつ……!」
タコの水の魔法を上半身をそらしてかわす。
なんとタコは吸盤から魔法を放ってきていてどこから魔法が来るのか予見しにくい。
その上周りを足で囲まれて動きも制限されている。
魔法を切って防いだりするが威力は殺せても水は消えなくてびしょ濡れになってしまう。
魔法の方もリュードを主に狙っている。
服は濡れて重たく余計に体力が奪われる。
「クッ!」
魔法を切って水をかぶった瞬間に足が襲いかかってくる。
水に濡れて体が重くて足がリュードを掠める。
「イラつくやり方すんな!」
体力を奪ってじわじわと追い詰めてくる狡猾なやり方。
ネチネチとして陰湿で腹が立ってくる。
折を見て反撃に足を切り付けるが浅い傷だとすぐに治ってしまう。
「こっちだって黙ってやられているだけじゃないんだよ!」
もちろんリュードにも打つ手はある。
クラーケン対策といえば雷属性。
ルフォンやラストが作った隙を狙って剣に纏わせた魔力を雷属性に変えてタコの足を切りつけようとした。
「リューちゃん!」
リュードの剣はタコの足に届かなかった。
正確にはリュードが剣を振り下ろそうとした瞬間にリュードの体が動かなくなった。
横からタコの足が迫ってきてもリュードは回避行動に移れない。
剣を振り上げたままの体勢から動けなくてタコの足をまともに食らう。
「パパ!」
大きく殴り飛ばされて壁に叩きつけられたリュード。
コユキがリュードに駆け寄る。
『アニキ!
うおおおおっ!』
リュードに追撃しようとしているタコ。
ウツボは生えたばかりのツノでタコを突き上げる。
タコに巻きついて噛みつき行かせまいとする。
「う……なぜ」
全身を壁に叩きつけられてひどく痛む。
治療に多少時間のかかる骨折をしていなくてよかった。
体を拘束される魔法を受けた感じはない。
ルフォンもフォローに入らなかったことを考えると誰にもその前兆は分からなかった。
今は体は動く。
タコの足が迫り来るのが見えたので首は動いてた。
コユキの治療を受けながらリュードは考えた。
体が突如として動かなくなった原因が全く分からない。
「大丈夫?」
「大丈夫、ありがとうコユキ」
体はコユキによって治ったが動かなくなった原因が分からないと不安を抱えたままになる。
「なぜだ……」
「水です!」
巻きついたウツボを引き剥がそうするタコに激しく抵抗して時間を稼いでくれている。
「水だと?」
水の魔法の使い手でもあるウンディーネのナガーシャがリュードの動かなくなった原因を見抜いた。
「リュードさんが浴びた水はあのクラーケンが作り出したものです。
その水にはまだクラーケンの力が及びます!」
視線を落として自分の体を見る。
服はたっぷりと水を吸い、ポタポタと水滴が滴っている。
この水はタコが魔法で生み出したものだ。
魔法で作り出した物質は魔力がなくなると消えてしまうものであるがこの水は全然なくならない。
それほどまでに魔力を込めたか、まだタコの方で維持しているかだ。
この水にはまだタコの魔力が残っていてタコは瞬間的にリュードが浴びていた水を操った。
タコからは離れているしそんなに使えるものではない。
けれど単純なことはできる。
服にたっぷりと染み込んだ水がリュードの体を締め付けた。
ダメージを与えるほどの力はない。
落ち着けば振り払えるぐらいの締め付けでも瞬間的に動きは止まる。
まさかこんな手を隠しているとは。
タコは戦いながらリュードに一撃加える時をうかがっていたのだ。
ウツボがいなかったらそのままやられていたかもしれない。
「面倒なことを」
リュードが上の服を脱ぎ捨てる。
いまだに水を含んでいる服は床に投げられてべちゃりと音を立てる。
「失礼します!」
「おわっ!」
バケツでもひっくり返したような水を頭から浴びる。
「これでクラーケンの水を上書きします!
もう水が染みないように私が水を維持します」
それはナガーシャがやった。
タコの水を洗い流してリュードにナガーシャの水を纏わせる。
やるのはいいけどせめて一言先に言ってくれ。
あと水なのはいいけれどももう少し温かくならないものか。
『ファニキー!』
タコの足に噛み付くウツボをタコが引っ張って剥がそうとしている。
「散々濡らされたりやられたお返しさせてもらうぞ!」
足に噛み付いたウツボを引っ張っているのでピンと張っているタコの足。
魔人化しながらリュードが床を蹴って走り出す。
『うわあああ!』
「あっ、ごめん!」
張った足をリュードが一息に切り裂いた。
噛み付いていた足を切られてウツボh支えを失った。
タコに振り回されるウツボ。
もう何度目だろうか壁に投げつけられる。
ウツボは上位の魔物であるタコを食らって回復するという荒技を使って戦い続けていた。
多分に魔力を含み、ウツボよりも格上なタコの体はウツボも吸収が早い。
『ぐぬぬ……』
モグモグとタコの足を食いながら起き上がる。
ウツボも自分を鍛えるために様々戦い、死線をくぐり抜けてきた。
これぐらいのダメージでは諦めない。
これで3本の足を失った。
ようやく普通のタコ以下の足の本数になった。
「狙われたのが俺でよかったよ」
他の冒険者やルフォンだったらタコの一撃を食らったらヤバかった。
リュードを恨みに思っているのでリュードを狙ったのだろうけどこの中でも生身での耐久力が高いのがリュードだ。
リュードだからタコの一撃にも耐えることができた。
「いくぞ、ウツボ!」
『はい、アニキ!』
リュードも脅威だがウツボも脅威だとようやくタコは認識した。
「たこ焼きにしてやんよ!」
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