10本足の因縁1

「予想外の結末だけどこれで全てのコアルームを取り戻せたな」


 4つ目のコアルームを占領していたウツボは正しいことをする気になってリュードに味方してくれることのなった。

 アリーシャがコアルームの機能を回復して石像から水が出始める。


 ウツボが巻き付いていたのでよく見えなかったがこのコアルームの石像は口を開けた大きなクジラの石像だった。

 どのコアルームからも水が勢いよく噴き出しているように見えるけれどこれでも本来川に流れる水量よりも少なく3分の1ほどしかない。


 やはり中心部の奪還が必要なのである。

 中心部で生み出される水が大きな割合を占めていたのだ。


「中心部への緊急用ルートを解放しますね」


 城内には中心部以外に魔物はいない。

 ウンディーネたちはそれぞれ担当しているコアルームに戻って中心部のメインルームへの道を開く。


 遠回りになるけれど封鎖された道を開いて中心部まで行けるようになる。

 複雑な道になるのでナガーシャが案内してくれることになった。


『行きましょう、リュードのアニキ!』


 意気揚々とついてくるウツボ。

 間違ったことをしてしまったのでそれを正そうとしている。


 少しでもここを取り戻す手伝いをしたいと言う熱い懇願にみんな文句もない。

 結構強そうだし一緒に戦ってくれるなら心強い。


 ちなみにこれまで戦ってきた魔物たちも水棲生物。

 地上での活動に向いておらず、長く空気中にいられないものもいる。


 神によって地上で活動できるように力を与えられていた。

 ウツボもそうであった。


 しかし裏切ってしまったので神の力を失ったのだけど進化したウツボは地上でも活動できるようになっていた。

 リュードたちナガーシャの案内で城の中心部に向かう。


 道は複雑で案内がなければとてもじゃないけどたどり着くことはできなさそう。

 ぐるっと外を回るように移動して1つ内に入ってまたぐるっと回って内に入る。


 こうして少しずつ中心部に近づく。


「なんかすごい湿気ってるね」


「うん……何だか生暖かくて空気に水気が多い感じ」


 進むにつれて空気感が変わってきた。

 これまでも湿度は高いような感じはあったけどここはさらに気温が高くて空気がむわっとしている。


「温水プールみたいだな」


「プール?」


「いや何でもない」


 プールの空気感がこんな感じだったなとリュードは思った。

 プールだとこれからプールに入れるからいいけどただ気温が高くて湿度が高いのはちょっとつらい。


「この上がメインルームです」


 長いこと歩いたので疲れてしまったコユキをリュードがおんぶしていた。

 グルグルと歩いてきてようやく城の中心部までやってきた。


 広い円形の部屋に出たけれどそこに魔物の姿はない。

 真ん中には大きい穴が空いていて覗き込んでみると深くて底が見えない。


 天井から水が滴って穴に落ちている。

 壁に沿うようにして階段が上に続いている。


 階段を上がっていく。


「どう、リューちゃん?」


 体勢を低く保ち顔を覗かせてメインルームを確認する。


「……リューちゃん?」


 リュードからわずかに殺気が漏れる。

 何を見たのかみんなが顔を見合わせる。


「リューちゃん……あれって」


「ああ……同じ魔物。


 多分違う個体だろうけど違っても忘れらんないよな」


 ルフォンも顔を覗かせる。

 上も同じく広い円形の部屋で部屋の中心には水瓶を持った穏やかな顔つきをした女性の石像がある。


 石像の顔つきはどことなくウォークアに似ている。

 そしてその後ろに奴がいた。


「なになに?


 あれ知り合い?」


 ラストもそれを見た。

 赤っぽく見え丸く頭のようなボディ、しなやかで吸盤のついた8本の足。


「昔ちょっとあってな」


 忘れもしない。

 ルフォンのことを一度殺しかけた、あの魔物。


 エミナたちとヘランド王国で戦った、イカのクラーケンの後に乱入してきたタコ型のクラーケンであった。

 ルフォンまで、むしろルフォンの方が険しい顔をしているのでラストも驚いた。


「クラーケンの亜種……スパトクオと呼ばれることもある魔物です。


 10本の強靭な足を使って暴れ回り、知能も高い魔物ですが妙ですね」


「妙?」


「足は10本……あ、いえありました。


 1本なぜか短いみたいですね」


「リューちゃん……」


「ああ……もしかしたら」


 あの時の記憶が蘇る。

 リュードはルフォンを助けるためにタコの足を1本引きちぎった。


 魔物避けで何とか追い払ったが倒すことができなかった。

 足が1本不自然に短い。


 このことから考えるとこのタコはもしかしたら本当に因縁の相手ではないかと思った。

 いや、あいつはあの時のタコだ。


 ここであったが百年目。

 ルフォンを失いかけた痛みは忘れない。


「絶対に倒す」


「私も。


 ここは海じゃないから負けない」


『やーっ!』


「ウ、ウツボー!」


 まず飛びかかったのはウツボ。

 口を大きく開けてタコにかじりつきながらタコに巻きついて締め付ける。


『さっさとここから……うまっ……出ていけ!


 ……うまっ!


 悪いことはボクがうまっ……許さないぞ!』


 なんか食ってね?


『うわああああ!』


「ウツボー!」


 単なる動物として見た時にはタコはウツボにとって餌にもなりうる。

 しかしこの世界の魔物という存在においてはクラーケンはウツボよりも格上の存在である。


 進化を遂げたとしてもウツボにとって一筋縄ではいかない。

 タコはウツボを足で掴んで持ち上げて壁に投げて叩きつけた。


 痛々しくかじり取られた後があるので全くの無傷ではないがタコがあまりダメージを受けているようには見えなかった。


『うまぁい……』


 コユキがウツボの治療をする。

 壁が砕けるほどに強く叩きつけられたウツボはモグモグと口が動かしている。


 ダメージはありそうだがそれほど大事ではない。

 格上のクラーケンの体はウツボにとってすごい美味しいものだった。


「いくぞ!」


 今回は海上での戦いではない。

 海に落ちる心配をすることもなく全力で戦うことができる。


 こいつがクラーケンだなと思うのは見た目タコであるのに足の数が10本であるのだ。

 イカなのにタコ、タコなのにイカ。


「みんな気をつけろ!」

 

 太く強靭なタコの足が伸びてくる。


「早い……!」


 それぞれの足が意志を持つかのように動き、襲いかかってくる。

 巨大なタコの足は人が受けられる威力ではない。


 攻撃パターンは単純なのに力が強く早すぎて回避すら厳しい。

 何人かの冒険者たちが容易く吹き飛ばされてミルトやニャロが治療にあたる。


 クラーケンと戦った時も国を挙げての大人数でようやく1体倒した。


 リュードとルフォンはあの時より成長しているし武器も良いものを持っているけれどもともに戦う戦力は比べるまでもない。

 他の冒険者もそんなに強い人ばかりではないので注意も分散できず隙も作れない。


 何だかリュードのことをより多く狙っているような気がする。

 リュードも回避にかかりきりになっている。


「よっ!」


「いいぞラスト!」


 ラストがリュードを襲う足の1本に矢を放った。

 足に矢が刺さって魔力が爆発する。


 それでもタコの足にはダメージはないけれど怯んで隙ができた。

 その間にリュードは何本かの足を切り付ける。


 浅いがタコ全体の動きが止まってリュードに注意が向く。


「やあああ!」


 リュードが作り出したわずかな隙。

 ルフォンはその隙をついて足の1本を半ばから切り落とした。


 タコがルフォンに狙いを定めた時にはすでにルフォンはタコの足の範囲内から離れている。

 リュードとルフォンにとっては一度戦った相手。


 しかも海上に張られた氷の上という中々に状況の悪い中でだった。

 個人での状況を見ると戦いやすくはあった。


 ラストも2人によく合わせてくれている。

 しかし不利には違いない。

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