ボクはドラゴンになる!3
気づけばウツボの周りにはウツボの庇護を求める魔物が集まって1つの大きな集団となっていた。
しかしそんな中でウツボは悩んでいた。
いくら努力を重ねても限界はある。
成長は止まりいつまで経ってもドラゴンにはなれない。
前向きにドラゴンへの想いを糧に生きてきたけれどもあまりにも強すぎる憧れにウツボの胸には重たい気持ちが渦巻き始めていた。
ドラゴンになれないという暗い気持ちに苛まれている時に神の声が聞こえてきた。
ウツボは思わず神の声に飛びついた。
神に言われた行いが人を困らせてしまうことであるのは分かっていた。
でも甘い誘いにウツボは抗いきれなかった。
『ボクはドラゴン失格だぁー!』
石像に巻きつくのをやめて床に横になってわんわんと泣くウツボ。
今更ながらやってしまったことの重大さに気がついた。
どう慰めたらいいのか分からなくてあたふたするリュード。
「そんなに泣くな!」
ここはあえて堂々とドラゴンを押し出していこう。
「誤ったのなら正せばいい。
まだ取り返しのつかないことをしたわけじゃない。
ドラゴンだって失敗しない生き物じゃない。
大事なことは失敗したでもどうするかだろう」
『ボクはどうしたらいいの?』
「言っただろう。
正しいことをするんだ。
人なら謝ることをするんだけどその前に過ちを正すんだよ」
『でも……』
「でもじゃない!」
少し恥ずかしいけどこれで上手くいくならとリュードは魔人化した。
全身が熱くなって一回り大きくなっていく。
体表が鱗で覆われてまるで生まれ変わったようにすら感じる。
リュードは竜人族。
竜人族は竜、つまりドラゴンに関わりがある。
真相は知らないが竜人族はドラゴンの末裔だという話まであるのだ。
「お前のドラゴンへの憧れはそんなことでやめてしまえるほどの想いなのか!
お前が憧れたドラゴンはそんなものだったのかよ!」
『あ、あなたは……ドラゴン……様なのですか』
ウツボのお目々がキラキラとし出す。
リュードは竜人族であって竜ではないが見る人が見れば竜人族も竜に近い美しさがある。
特にリュードは先祖返りであり、より竜に近いとされる。
ウツボの憧れる龍ではないがウツボの聞いた話の多くも竜に関するものだから竜も憧れの対象である。
「いや、俺はドラゴンじゃないさ。
でもドラゴンの血を引き、ドラゴンの様にありたいと思う者だ」
『ドラゴンのように……』
「そうだ。
俺がここにいるのは正しいことをするためだ。
まだ正しいことはできる。
どうだ、間違いを正さないか?」
『こ、こんなボクでもイイのかな?
ただドラゴンに憧れるだけの醜い魔物のボクだけど……』
「何かに憧れて何かを目指すのに人も魔物もないだろう?
大切なのは心だよ」
『心……』
「な、なんだ!?」
ウツボの目に強い光が宿った。
ブワッとウツボの周りに風が渦巻いた。
一瞬攻撃されるのかと身構えたけれどウツボは真っ直ぐに体を伸ばして上に伸び上がった。
『大切なのは心!
ボクはもう迷わない。
ドラゴンになれなくてもドラゴンになろうとする憧れの心まで失っちゃダメなんだ!』
「コユキ!」
渦巻く風に飛ばされそうになったコユキをルフォンが支える。
『ボクはボクなりのドラゴンの道を行く!
ボクはドラゴンを目指す……そしてボクはドラゴンになる!』
風に包まれてウツボの姿が見えなくなる。
強い魔力を感じる。
「にゃー!」
弾け飛ぶように風が散りニャロが堪えきれずにゴロゴロと転がる。
『アニキ、ありがとう』
「あ、アニキ?
それにお前、その姿……」
風の中から現れたウツボの姿は異なっていた。
ウツボはウツボなんだけど、何とウツボの頭には黒く輝く美しいツノが生えていた。
『ボクに迷いは無くなった。
また1つドラゴンに近づくことができたよ』
ウツボに起きた変化は一種の進化であった。
長いこと壁にぶつかって暗い気持ちに閉じこもっていたウツボは初めてドラゴンになるということに理解を示してくれたリュードの言葉に気分が晴れて進むべき道を思い出した。
ぶつかったっていい。
叶わなくったっていい。
そこに向けて努力して自分の思い描いた理想の姿を忘れずに進んでいくことが大切であるのだ。
ただ見た目だけドラゴンになっても意味は無い。
元は見た目に憧れたのだけど今はドラゴンとしてのあり方に憧れているのだ。
外見がドラゴンでなくとも心意気がドラゴンならそれは立派なドラゴンなのである。
もしかしたら自分もドラゴンに認めてもらえるかもしれない。
ドラゴンだと認めてもらえるかも知れない。
心の成長がウツボに壁を1つ乗り越えさせた。
『アニキのお名前、聞いてもいいですか?』
「俺の名前はリュードだけど」
『リュードのアニキ!
アニキと呼んでもいいですか!』
「もう呼んでんじゃん」
リュードとウツボの心温まる謎の交流。
黙って眺めていたけれどあまりにも奇妙な光景にラストもポツリとつぶやかずにはいられなかった。
「まあ……好きに呼んでくれ」
『ありがとうございます、リュードのアニキ!』
何とも不思議なことにリュードは海のギャングの弟分を得た。
ウツボは同じくドラゴンを目指していて、魔物でもある自分にも分け隔てなく接してくれるリュードに深く感動していた。
この懐の深さこそドラゴンであると思った。
進化できたのもリュードのおかげ。
人と魔物との垣根を超えた絆が生まれた瞬間であった。
「カッコイイ!」
『ん?
……不思議な子。
褒めてくれてありがとうね』
危なくないと本能で察したコユキはウツボに駆け寄った。
リュードにもよく似た黒いツノ。
コユキは目を輝かせて純粋な気持ちでウツボのツノを褒めた。
「ええと、どういうことでしょうか?」
「とりあえず解決したってことでいいと思う」
『はっはっはっー!
背中に乗るかいお嬢さん!
ボクはドラゴンだからこれぐらい朝飯前さー!』
「きゃー!」
ウツボはコユキを背中に乗せている。
リュード本人ですらイマイチ状況が飲み込めていない。
上手く説得できれば戦いを避けられるぐらいの気持ちだったのに何が起きたのかいつの間にかウツボにアニキと呼ばれている。
誰がこんな結末予想できただろうか。
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