ボクはドラゴンになる!2

「聞いたことがありません。


 進化や成長を重ねていけばある程度強くなれるでしょうけど……


 あとは神に認められて神獣になればドラゴンに近いような力を得られる事も考えられなくないですけどドラゴンになれるなんてほぼあり得ない話です」


「そうだよな」


 色んな意味で孤高の存在であるドラゴン。

 他の魔物であるなら進化によってなることもあり得るがドラゴンだけは違っている。


 恐らくどんな方法を使ったとしてもドラゴンにはなれない。

 それだけ特別な存在であるのだ。


『ウソだ!


 女神様がウソをつくはずがない!』


 会話が聞こえていたのか動揺したようにウツボが声を上げる。


「こんな風に他の神様の力を奪わなきゃならないような神様が本当にあなたをドラゴンにできるとお考えですか?」


『うぅ……でも他に方法はないんだ。


 ドラゴンになれる方法なんて他には……』


 苦しそうに答えるウツボ。

 だいぶ抜けた感じはあるけれどバカじゃなさそうである。


 知能が高いが故に悩んでいる。

 心のどこかでドラゴンになんてなれないことはわかっている。


 でも強い憧れとの間にウツボは揺れ動いている。

 賢いから努力を重ねてもドラゴンになれないことはわかっているから女神の言葉にすがったのである。


『ボクはドラゴンになる……だからボクの邪魔をしないでくれ!』


 会話していて思う。

 何だか憎めないやつ。


 戦う気がだんだんと削がれていく。


「あの、アリーシャは無事なんですか?」


 ガラーシャが気になっていた疑問をぶつける。

 悪い様に見えないウツボであるけれどコアルームを奪いはした。


 それに肝心のアリーシャの姿は見えない。

 アリーシャの行方によっては憎めないウツボでも許せない。


『アリーシャ?


 ここにいたウンディーネのことかな?』


「そうです」


『それならここにいるよ』


「えっ、どこですか?」


 ウツボが顔を向けた先、ちょうど死角になっているところ。

 少しなら大丈夫だろうと入り口から身を乗り出して覗き込む。


「アリーシャ!」


「あら、ごきげんよう」


「ごきげんようじゃありません!」


 白い可愛らしい丸テーブルと白い椅子を置いてピンクのカップに入れた紅茶を嗜んでいた。


『ドラゴンは無闇に人を傷つけないからね!』


 まるで騎士に憧れる子供のようなウツボが憧れているのは善良なドラゴン。

 コアルームから出しちゃダメだけど出ないなら乱暴なことはしない。


 非常に紳士的なウツボである。


「この部屋の惨状は何があったんだ?」


「これはこの魔物さんが私を守ってくれたのです」


『ボクはいらないって言ったのに女神様が他の魔物もつけたんだ。


 でもそいつらはウンディーネを襲おうとした。


 言っても聞かないしボクのことも襲ってきたから倒したんだ』


 ウツボの周りにいる派手なエビはウツボについてきたエビ。

 そして部屋に転がっているのもエビの残骸だけどこちらはウツボとは無関係のエビだった。


 魔物の襲撃にあって隅で怯えていたアリーシャだったがアリーシャを襲おうとしたエビとウツボは戦い始めた。

 リーダーである大きなエビとたくさんのエビがいたけどウツボは圧倒的な力でエビを倒して食べてしまった。


 ウツボに助けられたアリーシャ。

 でもコアルームからは出てはいけないというので大人しく従った。


 お茶を淹れて気持ちを落ち着かせているとウツボも手を出してこないし、時々音痴な鼻歌を歌うしでアリーシャも慣れてきてすっかりいつも通りに過ごしながらコアルームで悠々軟禁状態だった。

 どうしようかと悩んだ時もあったけど抵抗しても勝てる相手ではない。


 抵抗しなきゃ可愛らしくもある同居人なので他のウンディーネに期待して待っていたのだ。


「攻撃しないから入ってもいいか?」


『むっ……それは』


「分かった。


 じゃあ武器もここに置く。


 ドラゴンなら無抵抗な相手が入るぐらい許してくれるだろ?」


『むむぅ?


 ……確かに、入るといい!』


 このウツボ良い子。


「アリーシャ!」


「あら、みなさん無事だったのですか」


「なんでそんなに優雅にいるのよ!」


「この魔物さん悪い方ではありませんから」


 ニルーシャは幼い感じだけどアリーシャはややタレ目のお姉さんタイプ。

 すっかり落ち着きを取り戻しているアリーシャは穏やかに微笑んでいる。


「よう」


『こんにちわ』


「分かっているだろ?」


『何を?』


「こんなこと間違っているって」


 リュードはウツボに近づく。

 やはり話し合いで何とかしたい。


『それは……』


「ドラゴンはこんなことすると思うのか?」


『うっ!』


「こんな風にアリーシャを傷つけて(傷つけていないけど)神様にいいように使われてそれがドラゴンのすることだと思うのか?」


『ううぅ〜!』


「信念を曲げて悪の道に進んでなったドラゴンをお前は誇れるのか?


 お前はただドラゴンになりたいのか?

 それとも心から憧れるドラゴンになりたいのか?


 見た目だけのドラゴンよりも心がドラゴンであるお前の方がかっこいいと思わないか?」


 場の勢いで説得してみているけれどウツボには響いているらしく目が泳ぎまくっている。


「ダサいドラゴンとカッコイイありのままの君、どっちがいい?」


『ボクは……カッコイイ?』


「ああ、カッコイイよ。


 ドラゴンに憧れてドラゴンになろうと努力しているんだろ。


 アリーシャも守ってくれたしそんな君を俺はカッコいいと思うよ」


 雷に打たれたような衝撃。

 未だかつて自分のことをカッコイイだなんて言ってくれてドラゴンになることに関してこんな風に考えてくれた相手がいただろうか。


 ウツボは小さい頃から賢かった。

 たまに海面近くまで浮き上がっては空を眺めていた。


 そんな時に偶然空を悠然と飛んでいるドラゴンを見た。

 元々空の広さと深さに興味を持っていたウツボは自分とは違う長くて雄大でしなやかで力強い姿で空を飛んでいるドラゴンに目を奪われた。


『ボクはドラゴンを目指してもイイのかな……』


「お、おい?」


 ウツボの目がうるうるとし出す。


『ボクはどうしたら……うわぁーん!』


「泣かせた」


「泣かせたにゃ」


「泣かせたね」


「大丈夫?」


 天使コユキがウツボを心配する。


『ボクは……ボクはぁ!』


 ーーーーー


 そして始まったウツボの人生相談。

 お相手はリュード。


 そこそこ生態系の中では上にいるウツボはたまたま周りよりも高い知能を持って生まれてきた。

 身体的な能力は他の魔物と変わらないのだけど知能の高さのためか好奇心も強かった。


 海面近くに浮き上がっては外の世界の広さに想像を広げて想いを馳せていた。

 そんな時にドラゴンの姿を見たのだ。


 今でも忘れられないドラゴンの姿は目に焼き付いている。

 なぜそんなところをドラゴンが飛んでいたのかは知らないけど気まぐれにか低く見えるようにいた。


 ウツボは一目見たドラゴンに魅かれて強い憧れを抱いた。

 その当時はそれがドラゴンだということも分からなかったウツボはドラゴンについて調べ始めた。


 魔物にも知恵を持つものや長く生きて知能を持つに至ったものもいる。

 そうした魔物がいると聞けば会いに行って話を聞いた。


 水の中に棲む魔物、しかも所詮は魔物なので限界はあった。

 けれど飛んでいたのがドラゴンであると分かった。


 それからドラゴンのことなら何でも聞いてまわった。

 面白いことに魔物が知るドラゴンの話も人の世界にある話と大きく異なることもなく善良なドラゴンについての話が多かった。


 強くて優しく人を傷つけず周りを助ける、そんな存在がウツボの中でのドラゴンのイメージになった。

 鍛え始めたウツボ。


 ドラゴンは強くて周りを助けていた。

 悪い魔物がいると聞けば倒しにいき、時には死にかけながらも理想とするドラゴンの姿に自分を近づけていったのだ。

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