10本足の因縁3
「私も忘れてないからね!」
ルフォンも魔人化をする。
タコのせいで過去にリュードに心配をかけることになってしまった。
リュードの思いを知ることができたり人工呼吸でキスしたりと多少の感謝もないこともないけどやはり許せはしない。
「落ちろ!」
リュードの体から魔力がほとばしる。
先ほどは邪魔されたけどクラーケンにはやはり雷だ。
タコの足にも負けないほど太い雷がタコに落ちる。
ピンとタコの足が伸びてビクビクと震える。
眩みそうな閃光にリュードを敵に回さなくてよかったとウツボは思った。
リュードの魔法にタコのみならず冒険者も驚く中でリュードとルフォンとラストが走り出す。
矢よりも効果がありそうだとラストも剣を抜いての参戦。
ラストも魔人化をして翼を広げる。
地面を蹴り翼をはためかせてタコの頭の横を通り過ぎて最短距離で後ろに回り込む。
まだまだラストの技術は未熟でリュードのように剣に魔力を薄くまとうことはできない。
だけれどもラストも先祖返りで魔力量は多い。
無駄は多く長続きさせられないが一撃叩き込むぐらいなら全く問題はない。
「やあああっ!」
そしてそんなに無理もしない。
本当は根本からいきたいところだけどかなり太いタコの足を根本からでは切り落とせるのか不安。
狙うは真ん中。
相手の足の能力を奪いつつも切り落とせそうな太さであるところを狙う。
「ああ、惜しい!」
狙いは悪くない。
瞬間的な判断としては非常に上手いがまだほんのちょっと実力が追いついていなかった。
タコの足を切り落としきれなかった。
けれどほとんど切ることができた。
「陸の上なら怖くない!」
リュードよりも早くタコに接近するルフォン。
痺れてピンと伸びたタコの足を切り付けて輪切りにしながら根元に迫っていく。
「リューちゃんも攻撃したし許さないんだから!」
太い根本はルフォンのナイフでは厳しいが高速で何度も切りつける。
回転が早く正確な狙いのナイフはあっという間に傷を深めていってタコの足は切り裂かれた。
「今度はこっちの番だからな」
リュードは一気にタコの懐に潜り込む。
水で体を拘束するなんて特殊な手段に一撃食らってしまった。
油断したのでもないけどタコにしてやられた。
やられたらやり返す。
ピクピクと震えるタコの足。
大きく剣を振り上げたリュードは思い切りタコの足を切断する。
『ヤーッ!』
「コユキ、ニャロ、ウツボだ!」
「分かったにゃ!」
「ヤーッ!」
痺れが取れはじめ鋭い痛みに怒りを覚えて体の色がさらに赤く変化するタコ。
ここでリュードは判断を下した。
思い切ってニャロとコユキの強化支援を動き出したウツボに集中させた。
この中で1番力強いのはウツボ。
大きさ的にもタコに対して1番有効なのはウツボであろう。
残念ながらウツボの方が格下なので敵わなかったが今のタコは何本も足を失って戦力ダウンして差は縮まっている。
さらに他の魔物にはあり得ない神聖力の強化支援まで受けたらどうなるか。
『力が溢れてくるぅー!』
ウツボはラストが切り損ねた足を噛んで引きちぎって投げ捨てるとタコの胴体にかじりつく。
タコはウツボを引き剥がそうとするけれど強化支援を受けたウツボを引き剥がすには残りの足ではやや力負けしている。
『ウゥッ!』
「ウツボ!
クソッ……これ以上やらせるか!」
力では引き剥がせないと思ったタコは魔法を使った。
吸盤から水の槍を生み出してウツボの体を突き刺す。
ウツボにだけ負担はかけられない。
激しくのたうち回るように戦うタコとウツボの戦いの隙を狙ってリュードは足を切りつける。
『ウオオオオオオッ!』
絡みつき、噛みつき、食いちぎる。
ウツボは体をタコに巻きつけてひたすらにタコに噛みついて、タコは必死に抵抗して引き剥がそうとする。
魔法で傷つきウツボの体もぼろぼろになるが決してタコを離さない。
激しい揉み合いに中々割り入る隙も見つけにくい。
ただ見ているようなことしかできない状況が続く。
ニャロとコユキ、ミルトが全力でウツボを強化支援してウツボはそれに応えるようにタコと戦う。
「頑張れー!」
「ウツボさーん、やっちゃえー!」
みんながウツボを応援し出す。
ウツボはウツボって名前じゃないけどリュードがウツボウツボと呼ぶのでみんなウツボと呼んでいる。
こんなに期待されて、応援されて、支援されて、誰かのためになっていると感じて戦うことがあっただろうか。
「ウツボー!
お前なら出来る!」
『ボクは……正しいことをする!
ボクはドラゴンになるんだぁー!』
ウツボが大きく口を開けてタコの頭にかじりつく。
メリメリと音がしてタコがまるで助けを求めるようにウツボから足を離して空中をさまよわせる。
過去にリュードにちぎられていまだに短い1本の足でウツボを叩きつけるがウツボは噛みついて離さない。
やがてさまよわせる足の動きは鈍り、叩きつける勢いは無くなって力なく床に足が落ちる。
「や、やったのか……?」
タコが抵抗しなくなって動かなくなる。
「ウツボ!」
そしてタコから口を離してウツボもパタリと床に倒れ込む。
『ボク、やったかな?』
「ああ、やったよ!」
『ボク疲れちゃった……こんな風に戦ったの初めてだぁ』
「ドラゴンよりもお前の方が立派だよ。
ゆっくり休んでくれ」
『うん。
アニキ後は任せたよ』
「ああ、ありがとう」
『あったかいな……』
コユキがウツボの治療をする。
絡み合ってあちこちにぶつかり、魔法を受けたウツボは全身傷だらけだ。
「ネローシャ!」
戦ってたので口に出さなかったことがある。
ここにくるまで、あるいはここに来てからも最後のウンディーネであるネローシャの姿がない。
どこかに隠れられそうな場所もない。
「ネローシャ……ウソ…………」
ウツボと違ってあのタコには友好的な感じはない。
タコがネローシャを無事にいさせてくれるはずがなさそうだ。
絶望が胸に広がりナガーシャが泣きそうになっている。
「……ルフォン?」
みんながどう声をかけたらいいのか分からず沈黙する。
そんな中でルフォンはミミをピクピクと動かしながらタコの方に近づいていく。
少しずつ角度を変えるそれはどこから聞こえるのか分からない音の方向を探している時の動きだ。
「リューちゃん、中!」
「中……?
…………わかった!」
ルフォンはタコを指差した。
何が言いたいのかリュードはすぐに察して剣を抜いてタコに近づく。
大胆かつ慎重にタコを切り裂く。
周りは何が何だかわからないと言った表情をしている。
「……助け…………」
タコの体を切り開いていくと声が聞こえてきた。
「誰か手を貸してくれ!」
分厚いタコの身を切り裂いて開くと中に青いものが見えた。
リュードが手を伸ばして引っ張り出そうとしたけど意外と出てこない。
ここまで来るとリュードが何をしているのかみんなも理解して集まってくる。
リュードがもう少し周りを切り開いてみんなで協力して引っ張る。
「ネローシャ!」
大きなカブよろしくみんなで引っ張るとずるりと中から女性が引き出される。
青い髪の女性はナガーシャたちとよく似ている。
最後のウンディーネのネローシャであった。
「ル、ルフォン?」
「ダメ。
私を見てて」
抜けた勢いで引っ張っていたみんなが転がる。
いち早く異常に気がついたのはルフォンだった。
グッとリュードの頭を掴んで自分の方に向けさせたルフォン。
私を見ててなんていきなり気分が盛り上がったのではない。
ネローシャのところに来るまでにはだいぶ時間がかかってしまった。
タコの腹の中にいたネローシャ。
どれだけの時間が腹の中で経過したのか知らないけれど食べられてすぐということはない。
ネローシャは消化されかかっていた。
幸いなことにまだネローシャ本体は消化されていなかったがネローシャの服は無事でなかった。
つまり助け出されたネローシャは生まれたままの姿。
裸だったのである。
リュードに見せるわけにはいかない。
とっさにルフォンはリュードの頭を自分の方に固定したのであった。
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