海産物でも魔物です6

「やれ、ラストぉ!」


「あいあいさー!」


 自らの行動によって針を失った大ウニ。

 針がないので勢いもつけられないどころか動けなくなった。


 それでもまだ隠された奥の手がある可能性も秘められている。

 安全策として遠距離のラストにお任せする。


 リュードはラストの前に出て大ウニが何かの行動を見せたらすぐに守れるようにする。

 ラストは矢を弓にかけて大きく引く。


 パッと矢から手を離しても大ウニは動かない。

 ラストはまだそんなに魔力を使っていない。


 矢が震えるほど存分に魔力を込めた。


「何ということでしょう……」


「デカくて強かったけどただの魔物にゃ」


 完全な攻防一体の大ウニをどう打ち崩すか頭を悩ませていた。

 それなのに大ウニは自ら全てを捨ててしまった。


 大ウニにとっては一撃必殺の大技だったのかもしれないけど大きな代償を伴う諸刃の剣だった。

 わずかに残った針を振るけど防御も出来ない。


 ラストの矢が固い大ウニを突き破って中まで到達する。

 そして大きな爆発音。


「どうだ……?」


 イマイチ見た目だけでは状態は分かりにくい。

 体の中で爆発が起きて無事なわけないがそれで倒せたかは微妙なところ。


 ラストがもう1本矢をつがえていつでも打てるように準備する。

 グラリと大ウニが傾いていき、倒れて転がっていく。


 転がろうとして転がったのではない。

 倒れた勢いで弱々しく転がったのだ。


「終わったようだな」


「……ニルーシャ!


 どこにいるの!」


 リュードたちが大ウニと戦っている間に周りのウニとコンブも一掃されていた。

 戦いが終わってナガーシャがニルーシャを探し始める。


 ナガーシャやガラーシャの時はすぐにそこに見つけられたけれどニルーシャというウンディーネの姿は最初から最後まで見当たらない。

 戦いの最中も周りを見回して探していたのに見つけられない。


 隠れる場所もなさそうなコアルームの中、ナガーシャの声が虚しく響く。

 サッとナガーシャとガラーシャの顔から血の気がひく。


「そんな……まさかニルーシャ……」


「なあ、あれなんだ?」


 リュードたちもキョロキョロと部屋を見回してみるけど見知らぬウンディーネはいない。

 けれどリュードは部屋の隅にあるものが気になった。


 部屋の隅にはなんだかカラフルな山があった。


「あれはニルーシャのぬいぐるみです。


 時々ふらっとどこか行ってはどこからかぬいぐるみを持ってくるのです。


 自分で作る……ことも」


 隅にあるのはぬいぐるみの山であった。

 説明の途中で絶望的な状況にナガーシャから涙が溢れる。


 大嵐の直後でみんな疲れているし外出していることなんてない。

 姿が見えずなんの返事もないということはウニやコンブにやられてしまったのだとナガーシャは考えた。


 リュードは自分の背丈よりも高く積み上がったぬいぐるみの山に近づく。

 特に同じものをモチーフにしたものばかりではなく多種多様な種類のぬいぐるみがある。


 コアルームを見回していた時この山が動いたような気がしたのだ。

 このぬいぐるみの山の中なら人1人ぐらい容易く隠れられそう。


「みんな下がるんだ」


 ジッとぬいぐるみの山を見ているとモゾリと動いた。

 剣を抜くリュード。


 ニルーシャなこともあるだろうけどウニやコンブが隠れていることもありうる話だ。

 リュードを中心にしてみんなでぬいぐるみの山を取り囲む。


 ウニならばいきなりぬいぐるみから飛び出してくることもある。


「行くぞ」


 リュードがぬいぐるみの山に近づいて大きなぬいぐるみに手をかける。

 大きなぬいぐるみを思い切り後ろに投げながらリュードは飛び退いて距離を取る。


「ふわっ……あれ?


 終わった?」


 ぬいぐるみを取り除くと中に人がいた。


「ニルーシャ!


 あぁ……よかった!」


 正確には人ではない。

 なんとも眠そうな目をした青い女の子、それはウンディーネのニルーシャであった。


 体が半分ぬいぐるみに埋まっているニルーシャをナガーシャとガラーシャで引っ張り出す。

 ナガーシャとガラーシャは同じくらいの体型で年齢的にも成人の女性のような容姿をしているがニルーシャは2人よりも一回り小柄な体型をしている。


 顔も幼めで成人の女性よりやや若く見える。

 しょぼしょぼと眠そうな目をしていて危機が迫っていた様子などまるでない。


 話を聞いたところニルーシャは扉が破壊されそうになったので咄嗟にこのぬいぐるみの山の中に逃げ込んだのであった。

 幸いそんなに知能の高くなかったウニとコンブはぬいぐるみの中に隠れたニルーシャを探すこともしなかった。


 ただコアルームを占領できればよかったようでニルーシャは助かったのであった。

 そのうちジッとしていなきゃいけない緊張で疲労していたニルーシャも緊張が緩んできた。


 ぬいぐるみの中は暖かくて程よく暗い。

 どうせ動くことはできない。


 気づいたらニルーシャは寝てしまっていたのである。

 みんな呆れかえる。


 でもあのぬいぐるみの中に入ったらと少し想像してみると気持ちもわからないでもない。


「これで残るは1箇所だな」


 しかし焦って行動はしない。

 戦いでボロボロになったコアルームの修復や機能の回復をしなきゃならない。


 そうしている間にみんな休んで体力や魔力の回復に努める。

 鍋を火にかけてコンブで出汁を取る。


 リュードは小麦をこねて軽く丸めた団子みたいなものを作って出汁をとった汁の中に入れてすいとんもどきを作る。


「これ美味しい!」


 魔物コンブの出汁。

 鍋で煮ただけだけど旨味がすごい。


 ルフォンがコンブで出汁を取るという概念に目覚めた。

 コンブがあるのだからカツオブシ的なものも探せばあるかもしれない。


 コンブだけでもやや和食的な味を感じられる。

 カツオブシもあれば結構和食チックな雰囲気は再現できるかもしれないとリュードは思った。


 出来るなら醤油とか味噌とかそんなものが欲しい。

 この世界は割と前の世界と似た部分が多い。


 醤油的な調味料がある地域があると世界の食文化をまとめた本の中にチラリと書いていた気がする。

 だから希望は捨てずに探してみる。


「再……きどー!」


 大ウニが大暴れしたせいであちこち床が壊れていた。

 修理も少し時間がかかってしまった。


 最後にまだ水を生み出す石像を起動させる。

 このコアルームの石像は立ち上がった獅子のような形をしている。


 ちょーとだけ前世のどこかで見た観光名所を思い起こさせる。

 ニルーシャが石像に手をかざして魔力を込めていくと石像の目が光って口から水が噴き出し始める。


 どうにかこうにかウニとコンブを倒して3か所目のコアルームを取り返した。

 ニルーシャも咄嗟の機転によって無事にやり過ごすことができた。


「出汁って美味いな……」


 ついでに大量のコンブも手に入れたリュードはホッとコンブ出汁を飲み干したのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る