海産物でも魔物です5
リュードだってただかわしているだけじゃない。
軽く魔法をぶつけてみたりと有効打となりうる攻撃方法を模索していた。
しかし転がるウニの針に魔法が弾かれて本体まで届かない。
「まさか……」
大ウニをかわすためにはかなり大きめに回避しなきゃならない。
大コンブとの連携で絶え間なく転がってくるので休む間もなく、ほんの少しの隙を狙って大コンブそのものも攻撃を仕掛けてくる。
緊張が常に高く疲労していく中でピタリと大ウニの動きが止まった。
何をするのかと思ったら大ウニは針を動かしてその場で回転し始めた。
ウニもするのだ、大ウニがしないことの理由なんてない。
ドンっと大ウニが大砲の弾のように発射されてリュードに向かって飛び出した。
高速回転する大ウニは殺意の塊と言っていい。
針で穴が開くのではなく、高速回転のせいで削り殺されてしまいそうな大ウニを横にかわす。
「うわぉ……」
思わず漏れる感嘆の声。
当然のように大ウニが飛んでいった先には大コンブが待ち構えている。
柔らかく大ウニを受け止めた大コンブは大ウニの勢いを利用して大きく触手を振り上げた。
「リューちゃん!」
ズドンと大きく揺れてルフォンたちもリュードの方を見た。
大コンブは回転する大ウニを上から振り下ろした。
床が大きく陥没してそれでも止まらぬ回転が床を削っている。
「大丈夫だ!」
巻き込まれたら絶対助からない。
リュードはギリギリ大コンブによる大ウニの叩きつけを回避していた。
「早く周りを片付けてくれると助かる!」
「分かった、もうちょっと待ってて!」
大ウニと大コンブは1人で倒せるほど甘い相手ではない。
みんなの協力がなくては倒せない。
リュードがそうしてギリギリの回避を繰り広げている間にルフォンたちはウニとコンブを倒していく。
ルフォンもウニの動きに慣れてきた。
「ほっと!」
「いいよー!」
ナイフの腹を当ててウニの軌道を逸らして受け流す。
それもただ受け流すのではなくラストに側面が向くようにしている。
ラストは受け流されて飛んでいくウニの回転していない側面を矢で打ち抜いて倒す。
リュードのためにも早く倒さなきゃならない。
焦りはあるが焦って事を仕損じる方がいけない。
ルフォンはコンブを狙いながらもラストの位置を把握して飛んでくるウニを受け流してと忙しなく動く。
ラストもルフォンの後ろに付くように動いて高速で飛んでいくウニの側面を狙えるように位置取っている。
ただみんなの働きにはニャロも大きく関わっている。
ニャロは全員に強化支援している。
視野を広く保ち1人の欠けもなく同じように強化するのはコユキには出来ない。
それどころか高位神官であるミルトにも難しい。
普通の聖職者にはできない離業。
その上直接前に出て戦うルフォンにはラストより厚めに強化支援するなど状況に応じた分け方もしている。
実は若手の聖職者の中でも注目株のニャロ。
強い神聖力と繊細な神聖力のコントロールは容易く至る境地ではなく、その実力が遺憾なく発揮されている。
ミルトも必要なところに強化支援してくれているのでそういったところも考慮している。
「ルフォン、避けろ!」
リュードの声が聞こえ、ルフォンがいる場所に影が落ちる。
上に何かがいる。
ルフォンはそれを確認することもなくリュードの声に反応して大きく飛び退いた。
直後、ルフォンのいたところに大ウニが落ちてきた。
全てのウニとコンブがやられていくの黙ってみているほど大ウニと大コンブもバカではない。
ウニとコンブの数が大きく減っていることに気づいた大コンブは大ウニをルフォンに投げ飛ばした。
床が砕けて石が飛び散る。
「向こうも合流してきたか」
リュードが大ウニの側にいるルフォンに駆け寄る。
かなりウニとコンブを倒したけどまだ邪魔になるぐらいにはいる。
「ルフォン、ラスト、俺たちはデカいのからやるぞ!」
大ウニを無視しては戦えない。
他の冒険者の邪魔にならないようにさらに戦力を傾ける必要がある。
「みんなは小さいのを頼む!」
小さいのったって小さくはないけど大ウニに比べれば可愛いもんだ。
「まずはデカいルデガシダからだ!」
「りょーかい!」
狙うは大ウニを補助している大コンブ。
大ウニと違ってこちらなら攻撃が通るがどうか悩まなくてもいい。
「ん……なんだ?」
当然大ウニの動きも気にしているのだけど大ウニの狙いがどこに向いているのか分からない。
邪魔してこないならこのまま大コンブを先に倒してしまうつもりだった。
「……みんな伏せろ!」
縦回転ではなく横回転し始めた大ウニ。
別の何かが来ると察したリュードが叫ぶ。
新たなる攻撃。
なんと大ウニは針を飛ばして攻撃してきた。
リュードの声に咄嗟に反応しきれず冒険者の1人の方が針に貫かれる。
「リュードさん!」
大ウニに比較的近いリュードとルフォン。
回避行動を取る時間もなく一瞬でウニの針が目の前に迫る。
危ないと思った瞬間目の前に水が勢いよく噴き出してきた。
ナガーシャとガラーシャがウォーターウォールという魔法で壁を作ったのだ。
大ウニの針は下から噴き出してくる水に弾かれてリュードとルフォンに届かない。
「助かった、2人ともありがとう!」
「お気を付けてください!」
油断していたものではないがまさかこんな攻撃方法を隠していたとは思いもしなかった。
本当に侮れない相手である。
これからを考えるとまだ他のコアルームもあるし魔力を温存しておきたいところ。
けれどそんなに余裕を持って戦っていられない。
魔力を温存してケガでもする方がバカバカしい。
リュードを叩き潰そうと伸ばされた大コンブの触手を雷属性の魔力をまとわせた剣で切り裂く。
「結構長いこと戦ってるがいい加減終わらせようぜ!」
再び大ウニが針を放つが分かっていれば対処のしようもある。
距離を取り冷静に針をかわすと今度はまた大コンブの触手が叩きつけようと伸びてくる。
「待ってたぞ!」
リュードは叩きつられた大コンブをかわして大コンブに突き刺すように剣を振り下ろした。
そのままリュードごと触手を引き戻した大コンブ。
触手を引き戻す速度に乗ったリュードは空中で剣を引き抜いて空中で一回転。
「させないよ!」
リュードを叩き落とそうとする大コンブにラストが矢を放つ。
かなり多めに込められた魔力が破裂して大コンブの触手を爆散させる。
「こっちもいるんだからね!」
派手に戦うリュードの方に大コンブは気を取られていた。
しかしその間にルフォンが大コンブのすぐ近くまで接近している。
両手のナイフに魔力を込めて大コンブの本体の塊を切りつける。
鋭い痛みに大コンブの触手の動きが緩んで大きな隙が出来上がる。
「食らえ!」
電撃ほとばしる黒い剣。
落ちる勢いそのままに大コンブの本体に剣を思い切り振り下ろす。
狙いはルフォンが傷つけた場所。
瞬く間に電撃が大コンブの全身を駆け巡り、触手の先までビクンビクンと大きく跳ねさせる。
「さて、あとはデカいウニ……えっ!?」
ずしゃりと崩れ落ちる大コンブを背にして振り返ったリュード。
大ウニの姿を見てリュードが驚愕する。
次の瞬間所詮はウニの浅知恵だったかと思った。
そこにいた大ウニの姿は変わり果てていた。
誰かがやったのではない、自分の行動の結果で。
大ウニの針が無くなっていた。
回転するための上と下の針を除いた側面部分の針がゴッソリ無くなっていた。
そりゃ当然の話だ。
針は大ウニの体の一部。
それを飛ばせば無くなるのは言うまでもない話であった。
残念ながら一度打ってしまった針はすぐには生えてこない。
つまり大ウニは今なんだか不思議な残念な生き物になっていたのである。
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