海産物でも魔物です4

「逆にだよ、こっちまで来ないなら出たり入ったりして戦えばいいんだよ」


 どうにもリュードたちを待ち受けているように見えるウニとコンブ。

 しかしコアルームから出てくるつもりはない。


 そしてコアルームの前も多少広く部屋のようになっている。


「シンプルだけどいい考えだな」


 確かに言った通りだ。

 何も相手のフィールドで戦うことばかりでなくてもいい。


 危なくなったら引けばいい。

 ヒットアンドアウェイで押し引きして戦えばいいのだ。


「ルフォンワンポイント!」


「やった!」


 大ウニや大コンブはコアルームの奥側の石像の側にいて動く気配がない。

 まずはウニやコンブの数を減らして大ウニや大コンブを倒す。


「よーし、なら行ったるか!」


 リュードは軽く体を動かして準備体操する。

 

「コユキ、ニャロ、頼むぞ!」


「任せるにゃ」


「にゃ!」


 コユキとニャロがリュードを強化支援する。

 相手がどんな反応を示すのか分からないからとりあえずリュードが突っ込んで様子をみることにする。


「いざとなったらフォロー頼むぞ」


「任せてー!」


「オッケー!」


 剣を抜いて気持ちを落ち着けるように大きく息を吐き出す。

 狙いは入り口ギリギリで待ち構えているウニ。


 上半身をやや前に倒して足を前後に開く。

 グッと力を溜めて一気に走り出す。


 瞬く間にコアルームに近づくリュードは勢いに乗って剣を突き出す。

 ウニを突き刺しながらコアルームに飛び込む。


 外からじゃ確認しきれない中の様子をまず確認する。

 入り口付近で待ち構えるウニだけじゃなく中にもそこら中にウニがいる。


 結構面倒な数がいるなとリュードは顔をしかめた。


「撤退!」


 無理はしない。

 中の確認ができればいいのでリュードはすぐさま逃げ出す。


 コンブが触手を伸ばしてリュードの逃走を邪魔するがリュードはコンブを切り裂いて逃げる。


「ほっ!」


 飛んでくるウニを剣で弾き、コアルームから脱出する。


「そいつ逃すな!」


「ラストにお任せぇ!」


 リュードにかわされてウニの一匹がコアルームから飛び出してきた。

 慌てて回転することも忘れてコアルームの方に跳んでいこうとするがラストが弓を射る方が早かった。


 弓矢で打ち抜かれてウニは動かなくなる。


「中は大変そうだ」


 ウニやらコンブがたくさんいた。

 突っ込んでいって戦うのはやはり得策ではない。


 ただこの突入で分かったことがある。

 コアルームに立ち入っただけでは大ウニや大コンブは動き出さなかった。


 もっと近づかなきゃいけないのか仲間が倒されなきゃ動かないのか知らないが多少戦っても邪魔はしないかもしれない。

 もう一つは最後に飛び出してきたウニ。


 部屋から出られないのはそうされているからではなく自分の意思で出ないのである。

 大ウニ、あるいはその上からの指示がある。


 出られないわけじゃないけど出ることに対して大きな心理的な枷がある。

 それを利用してまずは入り口付近にいるウニを片付けようと思う。


 悪知恵は人の方が働く。

 入り口から飛び出して行きたくないウニは入り口から入ってくるリュードたちに向かってすぐには飛び込めない。


 だから速攻で入って速攻でウニに打撃を与えて逃げるのだ。

 ウニが力を溜めて突撃する前に何体か倒して逃げることを繰り返す。


 ずるいやり方だと言う気持ちはみんなあるけど命をかけた魔物との戦いで高潔さを求める方がバカである。


「あとは行くしかないか……」


 入り口付近のウニをあらかた倒したけれど大ウニと大コンブは動かず、他のウニも入り口に寄ってこない。

 流石に入り口付近だけで全部が片付けられるほど楽じゃない。


 大ウニと大コンブの行動パターンがわからない。

 近づいたら動き出すのか、一定の範囲内でしか戦わないのか、もしかしたらもっとウニやコンブが減れば動くのかもしれない。


 何かのタイミングで不意に動かれるのが1番厄介だ。


「……俺が大ウニと大コンブを引きつける」


 むしろ近づいてしまってハッキリと動かしてしまった方が安全かもしれない。

 リスクは大きいけどこれまでみんなもウニとコンブを倒してきた。


 リュードのような高い実力はなくともしっかりと戦うことができる人たちで大ウニと大コンブの乱入がなければコアルームにいる大量のウニとコンブ相手でも立ち回れる。

 危なくなったらコアルーム前に退けばいい。


「コユキは俺にのみ神聖力をくれ」


「分かった!」


「ニャロは広くみんなのフォロー頼むぞ」


「やったるにゃ!」


 まずはどこまで近寄れば大ウニと大コンブが動き出すか確かめる。


「ぬん!」


 コユキがリュード1人に神聖力を集中させて強化する。

 なんとなくだけどニャロの強化支援は優しく包み込むような感じで、コユキの強化支援は強く背中を押してくれるような勇気をもらえる感じがある。


「行ってくる」


「いってらっしゃい!」


「そんな軽い感じで……ま、いっか。


 いってらっしゃいリュード」


「頑張るにゃー」


「にゃー!」


 次はお前たちも行くんだぞと思いながらも微笑んでリュードは走り出す。

 コアルームにリュードが入ってきてウニたちが針を動かしてざわめくがウニが突撃し始めるよりも早く大ウニに接近する。


「意外とのんびり屋さんだな!」


 また動き出さないのかと思っていたけど結構な距離まで来てようやく大ウニの針が動き出した。

 一本一本がランスのように太い針。


「おっと、おおっと!?」


 しかし先にリュードを攻撃してきたのは大コンブの方だった。

 リュードの背の高さほどの横幅がある大コンブが振り下ろされる。


 床が砕け嫌が応にもその威力を見せつけてくる。

 その間に大ウニも動いていて針を動かして転がってくる。


 ただ転がっているだけなのに床が削れ振動を感じる。

 大きいので転がるだけでも速く、致命的なダメージを与えられる。


 あんなもの受けることもできないと察したリュードは横に転がって大ウニをかわした。


「ここでも連携取ってくるのかよ!」


 転がる大ウニの先に大コンブの触手が待ち構えていた。

 しなやかに大ウニを受け止めた大コンブはパチンコのようにグーっとしなるとリュードを目がけて大ウニを打ち出した。


「バカじゃねえの!?」


 さらに勢いをつけて飛んでくる大ウニ。

 デカい相手なのでちゃんと回避しないとならない。


 単純なやり方だけどそれが故に破壊力も高い。

 攻撃方法はなんら変わりないのにデカいだけで速さも破壊力も段違い。


「くっ……まあ、いい!」


 気の抜けないドッジボールが始まるけどリュードの目的は大ウニと大コンブがみんなの方に行かないようにすること。

 回避に集中して引きつけられるならそれでいい。


「だけどどうするかな」


 大コンブと連携して素早く方向転換して転がってくる大ウニは相手取るのに大きな問題だ。

 大ウニはデカいので針もウニよりもデカい。


 ウニもデカくて針の間を通して本体に剣を届かせるのがギリギリだった。

 つまり大ウニまでなると針の外から本体に剣が届かないのだ。


 針の隙間も大きいので入り込んで攻撃することも出来そうだけどウニを見ていると針はある程度自在に動かせる。

 入り込んだ瞬間に針を動かして潰してくるなんてことも考えられる。


 入り込むためにも大ウニの動きを止めなきゃならない。

 有効打が思いつかないのである。


「魔法で攻撃するしかないかな」


 大ウニをかわしながら倒す方法を考える。

 全力で魔法をぶつければダメージは与えられる。


 けどそれも集中を必要とするのでどの道大ウニを止める必要性がある。


「まあ動きに変化ないならこのままみんなが周りを片付けてくれるのを待つか。


 よっと」


 どうするにせよ、まずは邪魔なウニとコンブを倒すのが優先。

 リュードが大ウニと大コンブを引きつけている間にみんなでウニやコンブを着実に倒していってくれているのが視界の端で見えていた。

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