何の神様だろうね3

 ワラワラと押し寄せるカニと戦う。

 ホタテの魔法も数は多いがほとんど正面から飛んでくるので対処のしようはある。


 これならカニを倒し尽くすのも時間の問題だ。


「リューちゃん、あれ!」


「……ウソだろ?」


「ああやって移動していたのかにゃ」


 かわしきれずにホタテの魔法を食らう冒険者もいたが素早く治療してもらって戦闘に復帰出来る。

 カニの数も減ってきたし大カニや大ホタテはなぜか動かないし押し切れると思っていたら向こうも本気を出してきた。


 何とびっくりカニがホタテを持ち上げた。

 固定砲台だったホタテがこれによって移動砲台となる。


 どうやってこんなところまで来たのか疑問だったけれどこんなトリックがあったのか。

 移動の絵面を思えば可愛らしくもあるけれどホタテを掲げて迫ってくるカニは今のところ笑えない。


「こ、こいつぅ!」


 ラストの放った矢をカニがホタテを前に出して盾よろしく防いでみせた。

 カニがホタテを持ち上げたのはただの移動手段ではない。


 せっかくホタテの魔法が飛んでくる位置にも慣れてきたのに色んなところから水の玉が飛んでくる。

 そうして遠くから魔法を放つカニホタテもいればカニの素早さとホタテの硬さを生かして接近して攻撃してくるカニホタテもいる。


 ホタテの魔法だけでなくホタテを振り下ろしてきたりと相手するのが面倒になった。

 見事な協力関係。


 カニはホタテにない機動力を補い、ホタテは単調な接近攻撃しかできないカニの攻撃にパターンを増やす。

 互いが互いを上手く補完しあっていた。


 魔法を使いながら隙あらば接近してホタテや爪で攻撃し、攻撃されるとホタテを盾にする。

 なんというか、すごいめんどくさい。


「邪魔……だ!」


 剣を振り下ろすリュード。

 カニはそれをホタテで受け止める。


 しかしリュードの攻撃はそれで終わらずすぐさまホタテを強く蹴り上げた。

 カニの爪からホタテが飛んでいき衝撃でカニが後ろに転がる。


 その隙をついてカニの胴体を切り裂く。

 面倒ではあるが戦いようがないこともない。


 ホタテを盾にしているが人が使うみたいにカニに固定しているのでもなくただ前に出して防ぐだけ。

 ルフォンなんかはカニよりも素早いので上手く攻撃やホタテの盾を避けてカニ本体を攻撃している。


 他のみんなもカニ1体に対して2人以上で当たるようにしてホタテの盾に防がれないところから攻撃していた。

 上手い連携だと思ったけど案外デメリットもあった。


 カニはこれまで素早さを生かしたように戦ってきたのだけどホタテという防御手段を得たおかげで攻撃に対しての反応が回避ではなく防御を優先するようになっていた。

 その結果としてやや素早さを損なう形になっていることに気づいていない。


 あとホタテを前に出して防ぐと前が見えないのか側面に回り込むのも意外とやりやすかった。

 ホタテを持っているのと持っていないのどちらがいいとも言いがたいが慣れてくればホタテを持ってようと持っていまいとそれほど差はなかった。


 ホタテの魔法が殺傷力が低いのもある。

 マトモにぶち当たるとかなりの衝撃はあるが死にはしない。


 むしろコユキに治してもらえると思う冒険者もいるほどだ。

 ホタテは完全に無視をしてカニをどんどん倒していく。


 不思議なことに大カニと大ホタテはそれでも水出し部屋の真ん中から動かない。

 カニの数は減っていって残っているのは大量のホタテと遠距離攻撃ばかりしていたカニホタテ、それと部屋の真ん中に鎮座する大カニと大ホタテのみになった。


「ガラーシャ、生きてるー?」


「うっ……ナガーシャ?


 はっ、だ、ダメ……こんな姿見ないで!」


「良かった生きてる……待っててね、今助けてあげるから!」


 この戦いの最中もみじろぎ一つしなかったガラーシャ。

 カニを倒して余裕もでき心配になったナガーシャが声をかけるとガラーシャがモゾモゾと動き出した。


 気を失っていたようである。


「チッ……動く気はないのか」


 ずっと一貫して大カニや大ホタテは部屋の真ん中にいる。


 周りには沢山のホタテがいる。

 つまりアイツらと戦おうと思ったら周りから魔法を放たれまくることを覚悟して戦わねばならないのだ。


 自分が優位に戦える場所を分かっていて動かないでいる。


「俺が入る」


 みんなで戦うのは避ける。

 少ない人数で戦うことのリスクもあるがあまり多い人数で行ってもホタテの魔法に対する射線管理ができない。


 他の人を狙った魔法に当たるという事故も起きかねない。

 魔法は集中してしまうけど自分に向けて放たれていると分かっていた方が回避がしやすいとリュードは考えた。


「そっちもやる気か?」


 リュードがかかってくる気配を感じたのか大カニが大ホタテを爪で持ち上げた。


「いくぞ!」


「いくにゃー!」


「にゃー!」


「わ、私も!」


 リュードが駆け出し、聖職者たちが強化支援する。

 大カニもリュードに向かって前に進み出す。


 リュードの身長よりも大きなカニが前に進んでくるのだけど前に進むカニの姿は未だに違和感を拭いきれなくて気持ち悪く感じられる。


「うおっ!」


 リュードの剣を大ホタテで受ける。

 次にどうするのかと思っていたら大カニは大ホタテを片手で持って縦に振り下ろしてきた。


 思いもよらない攻撃を横に飛んで回避する。

 大ホタテが床に当たって大きく床が砕け散る。


 大ホタテの貝殻にかけたところもなく高い威力をうかがわせる。


「くそっ!」


 そうしている間にもホタテたちの魔法がリュードに襲いかかる。

 剣のような切れ味は望めないが大ホタテの振り下ろしは破壊力抜群だ。


 リュードはホタテの魔法をかわしながらなんとか体勢を整える。


「リュード、こっちは任せて!」


 ただリュードにばかり任せてもいられない。

 みんなはリュードの戦いを邪魔するホタテの処理に入る。


 みんなが近づくと貝を閉ざしてしまうが魔法が使える人でホタテを貝ごと火で包み込む。

 自分の貝殻で蒸し焼きにされるホタテ。


 ルフォンは魔法が使えないのでホタテに軽くナイフを当てながら走り回る。

 こうすることでホタテは貝を閉じて防御に入るので魔法を使うのを防ぐことができる。


「助かった!


 ……っと!」


 大カニは大ホタテを横に振るう。

 大カニが大ホタテをスイングすると攻撃範囲は広くてリュードは大きく距離を取った。


 ホタテの魔法が減ってだいぶ戦いやすくなったが素早く動いて大ホタテを振り回す大カニは意外と強い。


「しかし単調なんだよ!」


 リュードは縦に振り下ろされた大ホタテをかわすと大カニと距離を詰める。

 攻撃パターンとしては縦に振り下ろすか、横に振り回すか。


 それにホタテは本来武器じゃない。

 カニも武器を携えて戦う魔物じゃない。


 なのでしっかりと動きを見ていくととても単純でリュードはすぐに大カニの攻撃パターンを見抜くことができた。

 接近された大カニは横振りに大ホタテを振る。


 リュードは床を蹴って飛び上がり一回転しながら大ホタテも、大カニさえも飛び越えて大カニの後ろに着地する。


「浅いか!」


 大カニの背中を切り付けたリュード。

 カニだったらこれでいけていたのだが大カニはカニよりも硬かった。


 表面を浅く切るだけになって大カニにダメージを与えられなかった。


「あぶね!」


 クルクルと回転して大ホタテを振り回す大カニ。

 リュードは軽く飛び上がって大ホタテを柔らかく剣で受けてその衝撃で飛んで距離を取った。


「リューちゃん、助けたよ!」


「ナイスだルフォン!」


 そして部屋の真ん中で忘れられていたガラーシャであるがそのままでは戦いに巻き込まれる危険もあった。

 ルフォンがリュードが戦っている間にこっそりと近寄ってガラーシャのことを抱えて助け出していた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る