何の神様だろうね4

「いや!


 触らないで!」


「ガラーシャ!


 もう大丈夫だよ!


 なんでこと……こんなに取り乱して……」


 治療しようにも魔法じゃ心は治せない。

 触られるのも拒否するガラーシャにナガーシャは心を痛める。


「そいつさっさと倒しちゃうにゃ!!」


「任せとけ!」


 この状態は完全に心の問題だ。

 治療出来ないとニャロは顔を険しくする。

 

 乙女をこんな風にした大カニや大ホタテを許せない。

 ガラーシャの不安になりそうなものを取り除くことも落ち着かせるために魔物を倒してしまわねばならない。


 変に避けるとガラーシャも巻き込んでしまいそうだったので位置を調整しながら戦っていたリュード。

 大体敵の攻撃パターンも分かってきたし攻勢に出ることにする。


 リュードは戦いながらルフォンとラストに視線を送る。

 縦に振り下ろされた大ホタテが床に当たって床が砕けて派手に石が飛ぶ。


 大カニの注意はリュードの方に向かっていた。


「くらえ、この変態カニ!」


 ホタテは魔法で遠距離攻撃できるのかもしれないけどこちらにだって遠距離攻撃できる頼もしい味方がいる。

 グンッと大カニの体が前に押し出される。


 ラストの矢が大カニの背中の甲羅にぶつかって大きく爆発したのだ。

 それでも小さな穴を開けるぐらいしか出来なかったがそれによって生まれた隙は大きかった。


 気づいたら大カニにリュードは大きく接近していた。

 大ホタテを振り下ろして攻撃しようとしたが少し遅い。


「痺れてろ!」


 思い切り突き出した剣はカニの甲羅を突き破って刃が中にまで通る。

 そして剣にまとわせた魔力を雷属性に換えると大カニからバチバチと激しく音がして電撃が大カニの全身を駆け巡る。


 大カニが体を激しく震わせてたまらず大ホタテも落としてしまう。


「ルフォン!」


「任せてー!」


 そして最後はルフォン。

 淑やかに、そしてしなやかに高く飛び上がったルフォンは黒く輝くナイフに魔力を込める。


「やあああ!」


 落ちる勢いを利用してナイフを振り下ろす。

 リュードの影に隠れ魔法が使えないが故に忘れがちであるが先祖返りであるルフォンの魔力は実は結構多い。


 ナイフに込められた魔力がナイフの破壊力を大きく増強して硬い甲羅を切断する。


「ママ凄い!」


「よっ、ルフォン流石!」


「ふふん、まーね!」


 大カニはルフォンの一撃の前に真っ二つに切り裂かれた。

 ナイフであっても日頃から鍛錬を続けてきた魔力コントロールを持ってしっかりとまとわせればバカにならない威力を叩き出せるのだ。


 リュードの電撃にびっくりしてパカッと開いていた大ホタテであるが大カニがやられたことに気づいて貝を閉じて防御に徹する。

 それがムダであるとは梅雨知らず。


「ムダな足掻きを」


 リュードが大ホタテにそっと手を向ける。

 今度は痺れさせるのではなく本気で倒すつもりで電撃を流す。


 ものすごい音がして大ホタテがパカパカと開いたり閉じたりする。

 人も電撃を食らうと勝手に筋肉が痙攣してしまうので同じようなものである。


 意外としぶとい大ホタテ。

 リュードは電撃を流し続け大ホタテとの我慢比べとなる。


 数分続いたリュードの電撃。

 いきなり大ホタテの貝がパカンと大きく開いて閉じなくなった。


 リュードの電撃にも僅かにピクピクと動くだけで反応がなくなった。


「さすが……だにゃ?」


「なんで疑問形なんだよ」


 大ホタテを倒した。

 けどなんというか微妙に喜びにくい終わり方である。


 大カニのような派手に倒した感はちょっとない。

 電撃を流し続けるという戦い方も傍目に分かりにくいし大ホタテの反応もパカパカするっていう滑稽な感じだったのも悪い。


 絵面からして戦いの勝利と言いにくい。


「いやぁ!」


「ガラーシャ、私、ナガーシャだよ!」


 あとはホタテの処理だ。

 冒険者たちが殻に閉じこもって防御体勢を取るホタテを集める。


 カニという移動手段も失ったのでなんの脅威でもない。

 もうこの部屋における銭湯は終わったというのにガラーシャは未だに錯乱状態にあった。


 首を振り縄に触られることを嫌がって部屋の隅に逃げている。


「ん……?」


 一見すると心に深い傷を負って他者を激しく拒絶しているように見える。

 しかしリュードはそんなガラーシャを見て違和感を覚えた。


 ガラーシャというよりガラーシャを縛る縄に違和感を覚えたのだ。

 単純に拘束したいならグルグル巻きにしてやればいい。


 なのにガラーシャを縛っている縄の結び方はなんというか、テクニカルなのだ。

 単に手足を縛っているのではなく体のラインやパーツが強調されるようなそんな縛り方。


 そう考えるとおかしい。

 あの場にいたのはカニとホタテ。


 ホタテは手すらなく、カニも不器用そうな爪があるのみだ。

 ならば誰がガラーシャをこんな特殊な縛り方をしたのだ。


 こんな縛り方をされたのならトラウマになってもおかしくないのだけどホタテやカニではこんな縛り方ができるはずがない。

 仮に出来たとしてこんな複雑な縛り方をする必要がない。


 辱めたいなら話は別だがカニやホタテがそんなことはしない。

 辱めることにも理由がない。


「ガラーシャ……どうしたのよ。


 せめて縄だけでも解かせてよ」


「見ないで……お願い……誰も私を見ないで……」


「みんな、一度部屋を出よう。


 ナガーシャ、君はいてあげて。


 ガラーシャ、正直にナガーシャには話すんだ」


 リュードは事情を察した。

 騒がず、取り乱さず、素知らぬ顔をして解放してもらえば誰も気づかなかったのにとリュードは思った。


 そう、あの拘束はおそらくガラーシャが自身でやったものだ。

 多分趣味なんだろう。


 誰なもバレたくない秘密の趣味。

 バレると命を取られることほどに取り乱すほどのことだったのだろう。


 きっとカニとホタテが襲来したタイミングはガラーシャにとって最悪と言えるものだったはずだ。


「大丈夫かな?」


「うん、あんなんになるなんて許せないね!」

 

 ザ・ピュアルフォンとザ・ピュアラスト。

 2人は純粋にガラーシャのことを心配している。


 リュードもガラーシャの心配はしているがその意味合いは少し違っている。

 冒険者にも何人か気づいている人がいる。


 やや特殊な性癖に近いものだから知らなくても無理はない。


「あっはっはっはっ……」


 ガラーシャの体と心を心配しているとナガーシャの爆笑の声が聞こえてきた。

 縄を解いて白状したのだなとリュードは遠い目をした。


 結構長めの爆笑。

 途中咳き込んだりガラーシャの怒りの声が聞こえたりした。

 

 程なくして笑いすぎて顔を真っ赤にしたナガーシャと自分の趣味を白状して恥ずかしさで顔を真っ赤にしたガラーシャが部屋から出てきた。


「ご迷惑をおかけしました……」


「んふっ!」


「ナガーシャ!」


「んふっ……んんっ!


 ごめんって……だって真面目なガラーシャが……ふふっ!」


「もうそれ以上言ったら絶交だからね!」


「ごめんごめん!」


 おそらくな話だがガラーシャにはちょっと危険な趣味、例えば自分を自分で縛るような趣味があるのだろう。

 こんなところに他に人もなく住んでいたら多少歪んだ趣味ができていてもおかしくはない。


 それでも他人には知られたくない趣味。

 こんな誤魔化しもできない状況で知られてしまったら取り乱すのも当然のことである。


 ひとまず秘密を吐露して落ち着いたガラーシャ。

 趣味についての話は後で当人たちにしてもらうことにして水出し部屋に戻る。


 残ったホタテはまとめて火の魔法で蒸し焼きにして倒して終わりにして倒したカニとかも集めておく。

 ナガーシャの部屋ではドラゴンを模したものであったがこの部屋には魚の頭のような大きな石像があった。


 なぜか目線が部屋の中に向くように作られていてどこから見ても目が合うような感じがして少し気味が悪い。

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