何の神様だろうね2

「今度はホタテか?」


「ホタテ?


 そういった呼び方をしているところもあるのでしょうか?


 あれはラシバイカです」


 カニを倒してさらに進んでいくと魔物の種類が増えた。


「気をつけてください。


 イナデニカよりも硬くて魔法を使ってきますので!」


 イナデニカの時もそうだけどよく知ってんなとリュードはナガーシャの解説に感心する。

 カニの後ろには大きな二枚貝が見えた。


 リュードにとってはそれはホタテに見えるが大きさはカニ同様にデカい。

 主に床に転がっているけれど天井に張り付いているホタテもいる。


 カニが突っ込んでくる。

 そしてその後ろから水の玉が飛んでくる。


 死ぬほどの殺傷力はないけれど衝撃はあって直撃すると大きく吹き飛ばされてダメージはある。

 冒険者の1人が水の玉にやられて吹き飛んだがみんなのフォローとコユキの素早い治療にむしろ興奮気味に復活した。


 ホタテは水の魔法を行使してくるみたいである。

 素早いカニの動きと上手くタッグを組んでくると思いの外面倒。


 カニに関しては水の玉が当たっても構わないようで射線が被ろうが迫ってくる。

 水属性に対する耐性が高いが故の無茶苦茶なやり方である。


 しかし水の玉の軌道は直線的。

 注意すべきことが1つ増えただけなのでそんなに怖くない。


 リュードなんかは上手くタイミングを合わせてカニにホタテの水の玉が当たるように立ち回ってすらいた。


「ちょ……ずっこくない!?」


 まずは前にいるカニから片付けた。

 そしてお次はホタテをと思ったのだけどカニを全て倒されてしまったホタテはパタンと貝を閉じてこもってしまった。


 戦いの時は開いてそこから魔法を放っていたのに近づいた途端にこれである。

 ラストが剣でつついてみるけれどびくともしない。


 ルフォンが魔力を込めたナイフを突き立てるけどわずかに傷をつけたのみ。

 リュードの全力ならいけるかもしれないけどホタテ一枚一枚に魔力を使って本気で切り裂いていくのも非効率的で無駄になる。


 無視していくのも方法の1つだけど後ろに不安を抱えて進むのも良くはない。


「うりゃ!


 おーーーりゃ!」


 リュードは荷物の中から剣を取り出した。

 普段使っているものと違って剣の厚みがかなり薄いドワーフ特製の剣。


 本当はもっと薄く透明に近い剣にしたかったらしいが耐久力の問題で薄くて軽い剣ぐらいの出来になっている。

 貝の僅かな隙間に剣を差し込んでグリグリと動かす。


 するとホタテが突然パカッと開いた。


「おぉ〜!」


「パパすごい!」


「へっ、これぐらい朝飯前よ」


 カニに続いて新鮮なホタテまでゲット。

 ちゃんときた調理器具でなく剣なので多少は雑な開け方だけどホタテは肉厚な身が詰まっていて美味そうだとリュードは思った。


 ヴァネリアでは川魚が中心だった。

 美味しかったし色々な種類もあったけどこうした海の幸(?)も少し恋しくなってはいた。


 剣を使えば貝を開くことができるけどそれも時間はかかるし意外とコツがいる。

 そんな方法よりも軽く電気ショックを与えた方が早いと気づいたのは3枚ほどホタテを開けてからだった。


 リュードが軽く電気ショックを与えるとホタテはビクンと震えて貝がパカッと開く。

 その隙に中を攻撃して倒してしまうのが早かった。


 電気ショックに使う魔力もそんなに多くないので効率的で簡単でよかった。

 近づいてしまえばホタテに移動手段はなくて攻撃もしてこないので危険もない。


 リュードにしか使えない方法だからホタテの方も予想外だろう。


「リュードさんは海のご出身なのですか?」

 

 途中にある大部屋で休憩。

 床は湿っているので倒して中身を取ったホタテの貝殻を下に敷いてそこに火を焚く。


 そして倒さないで紐で縛って持ってきたホタテをその上にセットする。

 みんな何をするのかと遠巻きに見学していたが火で炙られたホタテはブルブルと震え、そして少しずつ貝を開いていった。


 炙り焼きにされて倒されながら調理もできる。

 貝殻で身を守ってもこちらには知恵があるのだよとニヤリとするリュード。


 そんなリュードを見てミルトが不思議そうに声をかけてきた。

 最初に剣を差し込んで貝を開けさせたことといい、カニや貝を食べようとしていることといいリュードはこれらの魔物について知っているようだも思ったのだ。


 川沿いにはおらず、川に沿って下っていって海近くまで行けばこうした魔物も出てくる。

 海出身ならこうした魔物について知っていてもおかしくない。


 逆に水辺じゃないと見かけないので他のところにいては聞く機会もないはずだ。


「いや、森出身だよ。


 あっても川かな」


 醤油欲しいななんて思いながらホタテを食べる。

 異世界転生者にありがちな考えをこんなところで抱くとは。


「イナデニカやラシバイカについてはどこでお知りに?」


 マーマンは抵抗ありそうだったのにホタテは当然のように食べているリュード。

 ミルトにとっては全くもって謎である。


「んーと、たまたま知ることがね。


 あっつ、うっま」


 焼きホタテを頬張るリュード。

 海の魔物だからだろうか肉厚な身には程よい塩味がついていてそのままでも美味しい。


 魔物だから身の旨みも溢れている。

 これならカニの方も期待できそう。


 ということでカニも取り出して剥いて食べる。

 大きいとむしろ剥きやすい。


 ザックリと殻を切り裂いて中身を取り出す。

 小さかったらほじくる必要もあるけどデカいから簡単に身を取り出せる。


 多少は細かいところもあるけどここは贅沢に大きめの身のところだけを食べる。


「うみゃあ……」


「美味しいね」


「お魚もあれだけどこんなのもまたいいね」


 みんなでカニとホタテを食べて体力を回復する。

 やはりいつか醤油に近いものは探そうと決意を新たにしたリュードたちは束の間の休憩を終えて城の奪還に向けて再び動き出す。


「あ……あぁ!


 ガラーシャ!」


 カニやホタテを倒しながら進んでいき、ナガーシャがいたような巨大な扉がある部屋の前まできた。

 巨大な扉は見るも無惨に破壊されてしまっていて侵入者を拒む働きは果たせていない。


 ナガーシャの顔が真っ青になる。


「な、なんてことを……」


「ナガーシャ、下がれ!」


 フラフラと前に出るナガーシャ。

 ルフォンが慌てて止めなければそのまま部屋の中に飛び込んでいったかもしれない。


 ナガーシャが落ち着くの待ってリュードたちは部屋の中を覗き込む。

 部屋の中には多くのカニとホタテがいた。


 そして中でも大きなカニとホタテが1体ずつ。

 奴らのリーダーだろう。


 そしてその近くに転がっている青い髪の女性が見えた。

 ガラーシャと呼ばれていたウンディーネだ。


 体を縄で縛られているみたいであるがどうやら命に別状はないようでモジモジと動いていることが確認できた。


「……素早くカニから数を減らそう。


 1発かますからみんな頼むぞ」


 水に住み、水属性に強いことの裏を返すと雷属性に弱いと言える。

 リュードが飛び出して1発雷属性の魔法を放った。


 今回の場所はリザードマンのところほど床が水に覆われておらず、ちょっと湿っている程度なので直接雷をぶつけていく。

 手前にいるカニ群に当たればいい。


 みんなも飛び出してカニに切り掛かる。

 ルフォンのように魔力を込めてカニを切り裂ける人はそうして、そうでないものは思い切り剣を突き立てるようにして無理矢理カニの殻を突き破る。


「下がれ!」


 リュードの指示に従ってサッと攻撃してみんな後退する。

 戦略的にカニやホタテと距離を取る。


 ホタテは部屋の至るところにいた。

 このままでは四方から魔法を打たれることになると咄嗟に判断した。


 ホタテは基本動かない。

 だからこの水出し部屋の扉付近まで下がるとホタテと距離を取りながらカニだけを誘き寄せられた。

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