ウォークアの子4

 その目はまっすぐにリュードに向けられている。


「あなた様がお話ありました神様お助け人でございますね!」


「神様……お助け?」


「はい!」


 出来るならそのダッサイ呼び方やめてくれ。

 ラストとニャロがウンディーネの視線の先がリュードっぽいことに気づいてリュードに視線を向ける。


 リュードはサッと顔を逸らして黙秘する。

 知らぬ存ぜぬがこういう時は1番である。


「私、ウンディーネのナガーシャと申します。


 皆様が来てくださらなければ危ないところでした」


 扉もよく持ってくれた方だ。

 あともうちょっと到着が遅れていたら扉は破壊されてリザードマンが中に雪崩れ込んできたことだろう。


「う、ウンディーネということは水の上級精霊ですか?


 まさか水の神ウォークア様と御関係が」


 ミルトが少し頬を高揚させてながら前に出る。

 知性があって人の言葉を話して人に友好的な水の上級精霊が水の神の聖域と呼ばれているところにいる。


 ナガーシャが何に関わっているのかは一目瞭然。


「そうです。


 私はウォークア様にお仕えしております精霊です」


「お1つ聞かせてください」


「なんでしょうか?」


「ここは一体なんですか、その、どんな場所というか……」


 ここまでずっと抱えてきた疑問。

 ただの魔物の巣ではないという明確な答えがミルトは欲しかった。


「ちゃんと説明はいたします。


 とりあえず中に。

 ここはリザードマンの死体が転がっているので……」


 リザードマンたちは仲間の死体も回収しなかった。

 だから扉前にはリザードマンの死体がいくつかそのままになっていた。


 視界の端にデロリと舌を出して倒れているリザードマンが映っているのは精神衛生上良くない。

 ナガーシャのお招きを受けて扉の中に入る。


「なにこれ〜」


「カッコいい!」


 入ってみると意外と広い部屋。

 壁の一部がなくて外が見えている。


 その外に向かってドラゴンの頭のような巨大な石像が置いてあった。

 大きく開かれた口からは水が噴き出していて外に流れ出ていた。


 あれが城の外に飛び出している水の正体だったのかとリュードは納得した。

 部屋の中には他にもテーブルやイス、ベッドなども置いてあって居住空間としても成り立っている。


 ナガーシャの部屋でもあるようだ。


「ここは水の神様であられるウォークア様の領域になります。


 事情がありまして聖域ではありませんが近い将来にそうなってもおかしくもない場所です。


 そして私は神の子として個々の管理を任されている水の精霊の1体です」


「では私たちがここを聖域としているのは……」


「まだ完全には聖域ではないだけで間違いでありません。


 そうした信仰心もまたここを聖域にする礎となるのです」


「そうですか……良かったです」


 ホッと胸を撫で下ろすミルト。

 魔物の巣を聖域だと崇めてはいなかったと分かって安心した。


 それどころか将来の聖域と聞いて喜びすら湧いてくる。

 そしてさらにナガーシャが今の状況を説明する。


 神の醜い争いにみんな言葉を失う。

 神様にそんな側面があると考えないのが普通であって、そんなロクでもない神様もいるよななんて考えるリュードの方が変人なのだ。


「ですのでどうかお助けください」


「もちろん、私はやります!」


 水神ウォークアを信仰しているミルトは話を聞いて二つ返事で承諾する。

 他の神に聖域を荒らされてはたまらないしウォークアの子であるナガーシャの頼みはウォークアの頼みに等しく、断る理由なんてものはミルトにないからだ。


 他の冒険者たちも多かれ少なかれウォークアを信仰しているので協力はしたいがすぐさま賛同の人ばかりでもない。

 一度ヴァネリアに戻って人を集めるのがいいとか当然の意見も出た。


 けれどナガーシャの置かれていた状況を見るとそれほど時間があるようには思えない。

 他にもウンディーネは4人いるようで今の状態は分からない。

 

 ナガーシャはまだギリギリ無事でだったが外の水が少なくなっていることから考えるとウンディーネたちに異変が起きている。

 リザードマンが来たように何かがやってきて捕らえられているはずだとナガーシャは言った。


 水神信仰でなくともヴァネリア周辺で活動している人なら間接的にも川にお世話になっている。

 川がダメになってしまったら困る。


 そして何人かはリュードのことを度々見ていた。

 ニャロとコユキという聖者を連れ、ルフォンやラストも高い実力を持つ。


 リュード自身も実力者で判断も早くて的確、リーダーシップもある。

 リュードがどう判断するのかを伺っている。


「もちろんリュードがやるならやるにゃー」


「にゃー!」


「おいおい……」


 ニャロは当然の如くリュードに判断を丸投げする。


「だって私は1人じゃ非力だからにゃ!


 リュードたちにお世話になっている身だし全部リュードに任せるにゃ!」


「にゃん!」


 コユキはニャロのマネをして腰に手を当てて胸を張る。

 やめなさい、今のニャロは最高に情けないぞ。


「2人はどうだ?」


 人任せな聖者ペアは放っておいてルフォンとラストに視線を向ける。


「困ってるなら助けてあげようよ!」


「うーん……まあここまで来ちゃってるし助けてあげるのがこの私ってところかな」


 ルフォンはにっこりと笑って、ラストはキリッとした顔をしている。


「うんうん、2人とも良い子だな」


「えへへぇ〜」


「せっかくカッコよく決めたのに!


 あっ、やめちゃダメ」


 期待していた通りの答えに嬉しくなって頭を撫でる。

 人前なことを忘れての行動だったけどここでやめると逆に恥ずかしくなるので撫でを継続する。


 口では文句言いながらもリュードが撫でやめようとすると手を取って再び頭に乗せるラスト。

 ルフォンはここらへん素直に受け入れる。


 いつの間にかラストも普通に撫でているがラストも嫌がっていないしリュードの方も人の頭を撫でるの意外と好きだった。


「こっちは?」


「にゃ?」


「コユキはともかくニャロまでなんだよ?」


「ふっ……リュードの手は大きくて優しくてあったかくて撫でられるの好きにゃ」


「すきー!」


「そうか」


「すきーにゃー!」


「がーん、なんでにゃぁぁぁぁぁ!」


「そうそう女性の頭なんて撫でられるかよ」


 いや結構撫でてるやないかいとみんなが思う。


「こっちがいいって言ってるにゃ!」


「こっちだって照れるわ!」


「撫でのカリスマに断られたにゃあ!」


「おい、変なあだ名つけるな!」


 やや一悶着?もあったがリュードが最終的にナガーシャに協力することを決め、みんなもウォークアや川のために戦うことを決めたのであった。

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