ウォークアの子3
リュードたちに近い立ち位置のリザードマンたちが自分の意思とは関係なくビクビクと体を震わせる。
同時にみんなも一斉にリザードマンに攻撃する。
冒険者たちは手近なところからリザードマンを倒していっている。
ラストは冷静に相手を見て装備品がちゃんとしているリザードマン、つまりは戦士リザードマンを優先して狙っていた。
流石にリュードでも床に薄く広がった水を介して全てのリザードマンを痺れさせることはできない。
体も大きくリュードの位置から1番遠い戦士長リザードマンにはピリリとした違和感がある程度にしか電撃を感じなかった。
けれどもその違和感を無視することなく扉を叩きつけることをやめて振り返った。
すると仲間が襲われているではないか。
戦士長リザードマンが雄叫びを上げると動揺で混乱していたリザードマンたちが正気に戻る。
「ルフォン、ラスト、道を開けてくれ!」
「分かった!」
「任せて!」
この戦いにおけるリザードマンの中心は戦士長リザードマンだ。
倒さなければ相手の支柱となり、倒せれば戦いが楽に進められる。
リュードは先に戦士長リザードマンを倒すことにした。
ルフォンとラストが攻撃を強めてリュードの邪魔をする敵を倒す。
相手が割れる隙をついてリュードはリザードマンの間を抜けて戦士長リザードマンの所に行こうとする。
「邪魔だ!」
途中でリュードを止めようとリュードに切り掛かったリザードマンを殴り飛ばして戦士長リザードマンの前に躍り出た。
「見せてやるよ、本物の竜人族の力ってやつをよ!」
リュードは魔人化する。
竜人族の中では比較的リザードマンに対する感情が薄いと言えるが全く何も思っていないわけじゃない。
リザードマンよりもシャープで凛々しくて、カッコよくて美しい竜人の姿になる。
リュードは戦士長リザードマンに切りかかる。
その決着はあっけないほどだった。
理由は2つ。
1つはリュードが戦士長リザードマンと1人で戦おうとしているのを見てニャロとコユキが2人同時にリュードを強化支援したこと。
聖者と聖者級の2人の強化支援を受け魔人化したリュードを止められる人なんてまずいない。
もう1つの理由は戦士長リザードマンが全くの無防備にリュードの攻撃を受けたことである。
戦士長リザードマンは真っ直ぐにリュードの方を見つめたまま剣を受けた。
まるで少年のような輝いた目でもってリュードのことを見ていたのである。
魔物に近いリザードマンでも、いや、魔物に近いリザードマンであるからこそ魔人族の見た目に大きく心を奪われてしまったのである。
黒い剣を振るうリュードの姿を首を切られた後も熱がこもった視線で見続けていた。
「……なんだか罪悪感も感じるな」
聖者2人分の強化支援と憧れを目の前にして動けなくなった戦士長リザードマン。
なんの苦労もなく勝負がついてしまった。
あまりにも純粋な目を向けてくるものだからリュードも後味の悪さを感じてしまう。
今後蜥蜴人族に会うことがあったら優しくしてあげようと思った。
「う、わー……神さまー」
「やめれぇ、ラスト」
戦士長すらあっさりと倒してし、戦士長すら憧れしまうような美しさの竜人族。
他のリザードマンたちがどうなるか。
凄いことになる。
戦士長リザードマンを倒して振り向いたリュード。
その瞬間リザードマンたちは武器を投げ捨ててリュードに向かって平伏し始めた。
別にこんな結果を予想して魔人化したんじゃない。
何かをリザードマンたちが言っているけどリザードマンたちの言葉はリュードには分からない。
みんな遠巻きにドン引きしている。
受け入れ難いけれどどうしようもない状況に泣きたい気持ちになる。
「た、戦う気がないなら帰ってくれないか?」
リュードの言葉が伝わったのかわからない。
けれど帰れと言ったらリザードマンたちはザワザワとなって、そしてゾロゾロと帰っていったので通じていたのだろうと思う。
なんとも言いようのない結末。
リザードマンの方が竜人族にどんな思いを抱いているのかがよく分かった。
「パパ偉い!」
「リュードはリザードマンの神だったかにゃ……」
「嬉しくともなんともないわい!」
平伏して何かを言っているリザードマンにはリュードも恐怖を覚えた。
ともかくリザードマンを追い払うことには成功した。
「リザードマンの方は竜人族に憧れてるなんてよく言うけど本当なんだね」
「大人の冗談だと思っていたけど冗談だと思ってたよ」
「私も」
「リザードマンの話なんて私は聞いたことないけどね」
なんだかんだとリザードマンの話は竜人族の間で出てくる。
リザードマンが竜人族に憧れている話も一般的なものではなく竜人族の間で言われていることだった。
ルフォンも竜人族がいる村の出身なので当然聞いたことがある話だけど他の人にとっては初耳だった。
そもそもリュードが魔人化したのにも驚いた。
ただリザードマンが竜人族に憧れているという話はウソではなかったと今分かったのである。
このことを深く考えてもリザードマンはもういないし話題にされるのもリュードは嫌だった。
会話を切り上げて戦士長リザードマンが壊そうとしていた扉に近寄る。
なぜこの扉を壊して中に入ろうとしていたのだろうか。
「し、静かになった……
あ、あのー、誰かいますかー?
リザードマンはもういませんかー?」
戦士長リザードマンが何度も叩きつけてようやくボロボロにした扉。
つまりは押しても引いても開かないわけでどうしたらいいのかリュードも立ち尽くしていた。
すると扉の中から恐る恐るといった女性の声が聞こえてきた。
「囚われのリザードマンの姫様だったりして」
「んな状況意味わからなすぎるだろ」
「リザードマンは実はドレスを着て化粧したメスリザードマンを助けようとしてたのかもしれないでしょ?」
「ステキな物語っぽいがそうなると俺たち悪役になるぞ」
「リュードはねぇ、姫様を助ける王子様だよ」
「なんの会話してるにゃ」
一瞬化粧したリザードマンをイメージしてしまった。
リュードはウンディーネがいると知っているけどラストは知らないのでトンデモ予想を打ち立てた。
半ば冗談だけどリザードマンが必死になって扉を壊そうとしていたことに合理的な理由を付けてみようとしたのである。
女性の声は姫様リザードマンの声でリザードマンたちは姫様を助けようとしていた。
子供に聞かせる物語の中でならあり得そうな話だ。
リザードマンがここにいる理由の説明にはあるかもしれけれどリザードマンの姫様がこんなところに囚われている理由が必要になる。
ラストも分かって言っている。
でもさておきリザードマンにとってリュードは王子で姫様を助けるという変なお話も細かい理由付けを無視して大局だけ見たら無理矢理そう見えないこともない。
リザードマンが変な服従を見せたのが悪いのだ。
「そんで最後はリザードマンの王国で……」
「ラスト、怒るぞ?」
「ははっ、ごめーん」
あの様子ならリュードが望めば本当にリザードマンの王になれる気がする。
少し笑えない冗談にラストはやりすぎたと笑ってごまかそうとする。
「あのー?」
「リザードマンはもういないにゃ!」
そういえば中からした声を無視する形になってしまった。
ニャロが中の声に答えると少し間があって扉がゆっくりと開き始めた。
「ありがとうございます!」
中から出てきたのは透き通るブルーの髪と瞳を持った女性。
リザードマンでなくてリュードは少しだけ安心した。
見た目は普通の女性っぽいがまとっている雰囲気がただの人でないことを感じさせている。
彼女がウォークアの子でウンディーネなのだとリュードにはすぐに分かった。
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