清らかなる水を生み出す城1

「弱きを助け、この世の中に楽しさと明るさをもたらすのが私たちにゃ!」


 まさか神様が土下座なんてしないよなと思いながら依頼についてどう思うかみんなと相談する。

 1番最初に声を上げたのはニャロだった。


 ケーフィス教の教義として弱い者を助けること、常に楽しいことを追求し、明るい世の中にすることが挙げられる。

 中々ざっくりした内容だけどケーフィスを知っているリュードからするとなるほどなと普通に思う。


 本当に善なる宗教なのだ。

 だから良い人が集まっていて善行を積むことが良しとされる。


 ケーフィスに認められて聖者になるほどのニャロ。

 高い信仰心も当然あるのだけどいわゆる正義の心や他者を助ける気持ち、色々なことを楽しむ心なんかも兼ね備えている。


 めげずに立ち向かっていく心の強い人がケーフィス教の聖者には多いのである。

 リュードたちに同行している身なので自分から参加したいとか無理にいうことはなくわきまえることはする。


 けどリュードからその話題を出すならニャロはもちろん助けるつもりだ。

 降臨の影響もだいぶ弱くなってきて神聖力を使うのにも問題はない。


 食欲高めなので全快でもないかもしれないが普通の聖職者よりは能力は使える。


「どうだ?」


 ニャロはいいとしてリュードは仲間たちを見る。

 この件に関しては関わっていく理由というものがない。


 誰かにお願いされたのでもなく顔見知りがこの町にいるのでもない。

 何でもかんでも首を突っ込めばよいのでもなく積極的に関わるべきか悩ましい。


「私はむしろギルドの依頼だからいいんじゃないかって思うよ」


 お金は一銭も出せませんが困っているからお願いしますなんて都合のいいこと言われるよりギルドがしっかりと責任持って依頼として出している。

 困っているからも理由になるしお金のためだって立派な理由だ。


 お金にも困っていないからお金のためというのはちょっと薄い。

 この町のことはこの町で解決するのが1番良いことなので困っている人を助けたい気持ちはあるけどそこまで深刻でもないと考えられちゃう。


 どちらにしてもやや理由として弱いなら2つ同時に満たすことができるギルドの依頼として受けるという選択肢。

 困ってるから助けられるしお金も手に入る。


「それにさ……」


「それに?」


 ラストはコユキを見る。

 合理的な理由付けだけじゃない。


 自分の子ではなくてもコユキの前はカッコイイ自分でありたい。

 困っている人がいるなら助ける自分の姿をコユキに見せたいのだ。


 やはり背中で語るカッコ良さってある。


「やっぱりコユキにも人を助けるってことを見習ってほしいからね、私を見てさ」


 決まったー!

 と思っているのはラストだけ。


「まあ……そうか。


 ルフォンは?」


 背中で語っているのでスンとしたコユキの表情を見ていないラスト。

 ラストの頭の中ではコユキは目を輝かせてある想定であった。


「うん……やる。


 私だって!」


 やや不安げな表情を浮かべていたルフォン。

 それもそのはずで荒れた川の音が苦手で、泳げもしないルフォンにとって川の様子を見て来いなど気分の良い依頼ではない。


 川の水が怖いだなんていつまでも言ってられない。

 いざとなればリュードも助けてくれるしこれはいい機会だと思った。


 克服するためには恐怖に立ち向かって勝つことが必要だ。

 かつてルフォンにはどうしても食べられない野菜があった。


 しかしルーミオラはそれを許さず立ち向かわせるためにルフォンの口にこれでもかと野菜を詰め込んだ。

 死ぬぐらいなら野菜を食べるしルーミオラの方が怖かった。


 今じゃ普通にその野菜も食べられる。

 泳ぎはできないけど世界中に川はあるし一々恐れていてはダメだ。


 まだ川にどれだけ関わるかは分かっていないが川の近くで活動することで少しでも恐怖心が克服できたらとルフォンは思った。


「無理はするなよ?」


「いざとなったらリューちゃんが助けてくれるんでしょ?」


「もちろん」


「じゃあ大丈夫!」


 ラストやニャロもいる。

 安全を考えると安全性はかなり高い。


 川なんかに負けてたまるかとルフォンは気合を入れる。


「頑張る!」


 そしてコユキもやる気満々だ。


「よし、じゃあ依頼を受けようか」


 夢で見た青い女性が気になる。

 そのせいで少し受けたくないが気になるから受ける理由にもなる。


 リュードたちは川の上流の調査依頼を引き受けることにした。


 ーーーーー


 調査に向かうことになった人数は思いの外少なかった。

 この辺りの冒険者がいないとか実力不足とか臆病者だとかそんなことではない。


 ヴァネルアは川が近く町中にも水路が走っている。

 水と関わりが深いために水神がよく信仰されているのである。


 そのためにステュルス川は恵みをもたらしてくれる川であり神聖な川としても見られていた。

 中でも川の上流域は水神を信仰する人たちにとって聖域であると言われている。


 勝手にそう言っているだけで他の人が行くことも止めはしないがよく思わない。

 もちろん自分たちが上流域に行くこともしないのである。


 ちなみに水神がケーフィス教と仲が悪いかというとそうでもない。

 国や地域によってはケーフィス教と同じく聖派に並ぶこともあるのでケーフィスとは仲良し神様である。


 ケーフィランドではあのお城の教会に水神の教会も入っている。

 ただヴァネルアにおいては水神信仰の方が強くて聖派とまた別として水神が信仰されているのである。


 蒼き神と言われる女神らしくてなんだか嫌な予感のするリュードである。

 ヴァネルアにいる冒険者は大多数ヴァネルア出身の人で程度はあるけれど水神信仰の人も多い。


 よって聖域と言われる川の上流域に行きたがらない冒険者が多いために調査依頼を受けないのであった。

 さらに依頼を受けたのはほとんどが女性。


 水神は不純な者を嫌い、特に男性を好ましく思わないという話がある。

 だから水神信仰でない人か水神信仰でも程度の弱い人で男性でない人が依頼を受けているのである。


 依頼を受けたのはリュードたちを除いて10人。

 そのうち男性は2人。


 その2人は他の国から来た人なので水神信仰じゃないのである。

 目的は調査なのでそんなに大人数がいなくても依頼を始めることになった。


 やることは単純で川をさかのぼっていって上流で問題が起きていないか確かめるのだ。

 ということで調査のために出発。


 最初は視線が痛かった。

 その理由はコユキである。


 子連れで依頼に来たものだから周りはいい顔をしなかった。

 特にリュードは女性だらけのパーティーに1人男性で、ちょっと誰の子かも分かりにくい子供を連れている。


 けれどもそれはすぐに変わった。

 川やその周りには魔物がいる。


 コユキの支援はリュードたちだけでなく全体に広くかけていた。

 戦いが終われば簡単な傷はサッと治してくれるしリュードの実力はともかくコユキがただの子供ではないことは分かったのだ。


 神聖力の支援も治療も素晴らしい。

 最も素晴らしいのは天真爛漫で明るい笑顔だ。


 リュードやルフォンですら心を掴まれた。

 女性が多い調査隊のみんなの心をコユキが掴むのも早かったのである。


 実際にコユキの強化支援を受けてみればただのお下がりではないことはハッキリする。

 そしてお礼を言えばニッコリと笑う。


 みんなちびっ子聖者の強化を受けたくて積極的に戦ってくれるようになった。

 コユキ大人気。


「コユキちゃーん、こっちに来なーい?」


「んー、ん!」


 日が落ちてきたので野営する。

 リュードたちとは別にテントを張った冒険者のパーティーがコユキに手を振っている。

 

 少し悩んだコユキはひしっとリュードに抱きついて行かない意思を表した。

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