嵐過ぎ去り、また嵐の予感

 ルフォン、ラスト、コユキにニャロは4人部屋を使い、男であるリュードは2人部屋を1人で使っている。

 高い階層であるし暗い天気が続くのでカーテンも閉めていなかった。


 目を覚ますと朝日が差し込んでいた。

 久々の日の光を浴びながら朝のまどろみを堪能していた。


 暖かな日の光を浴びていると気持ちが良い。

 窓から青い空が見える。


 穏やかで平和。

 そう思っていたが穏やかでも平和でもなかった。


 厚い窓に阻まれて外の喧騒は聞こえていなかったけれど慌てたルフォンたちが入ってきてようやくリュードも腰を上げて事態を把握した。


「なんてことだ……


 何があった?」


「分かんない。


 起きたらもうこうだったんだ」


 ルフォンが首を振る。

 窓の外の光景、川の様子は変わり果てていた。


「昨日まであんなに雨降って荒れてたのに……」


「差が激しすぎるにゃ」


 たった1日、いや1晩で異常事態だと言えるほどに様変わりしてしまった。


「なんで川があんなに小さくなっているんだ?」


 川は大きく干上がっていた。

 あれほど川幅が広くとんでもない水量のあった川水が大幅に減っている。


 町のすぐそばまであった川の端がかなり後退して遠くなっている。

 全ての水が干上がっているのではないが普通の川なら何本も無くなっているぐらいに水がなくなっていた。


 昨夜まで雨が降りしきり不思議なグラデーションを描いていた川が見るも無惨な大きめの川になっていた。


「これは普通のことじゃないにゃ」


 それでも大河に変わりがないぐらいには大きいのだけど浅いところなどは川底が干上がって露呈してしまっている。

 もしかしたらこれが普通なことの可能性もある。


 宿の人に訊ねてみたところ宿の人も困った様子だった。

 こんなことは初めてで自分たちも困惑していると首を振っていた。


 とりあえず朝ごはんでも食べようと町に繰り出してみると町中の様子も変わっていた。

 当然といえば当然の話だ。


 町に走る水路は川から水を引いている。

 川の水が減ると水路の水が減ることは言うまでもない話である。


「かわいそう……」


「そうだな……まあ、まだギリギリ水があるから大丈夫だろう」


 川の水も枯れ果てているわけじゃないのでほんの僅かだが水路にも水は流れている。

 魚が泳ぐにもギリギリぐらいでコユキはそんな魚たちを見て悲しそうな顔をしている。


 もちろん水路を使った舟での輸送はできない。

 馬車をあまり使わないので物を運送する方法が無く、川の様子の異常のために町中大騒ぎである。


 大嵐は去った。

 しかし通常嵐が去っても川はまだ2、3日荒れている。


 外出禁止はまだ続くしこの異常事態も気になる。

 朝ごはんを食べながらどうするのかみんなで相談して冒険者ギルドに行って情報収集することにした。


 何か手伝えることでもあれば手伝ってみようぐらいの気持ちだった。

 冒険者ギルドにも結構な冒険者がいた。


 ヴァネルアそのものも比較的大きな規模の都市である上に綺麗な水があり魔物も川に寄ってくる。

 川そのものにも魔物はいる。


 特に川の中心部付近には魔物も多く出るのでそこまで行く舟には冒険者が帯同していたりするのだ。

 だから魚系の魔物もこの町では普通に食べられたりしている。

 

 戦闘力を持たない単なる魚もわずかながら魔力を持っているので魔物と言えるので境界線は曖昧だ。

 川の異常事態を受けて冒険者ギルドにも人が集まっていた。


 普段とは異なる騒がしさ。

 いざ来てはみたものの今朝起きたらこうなっていたので冒険者ギルドも状況把握に忙しい。


 冒険者たちもこれがなぜ起きたのか分かっていないので様々な話が飛び交っていた。

 リュードたちは冒険者ギルドの隅で噂話に耳を傾けてみた。


 水神の祟りだとか大災害の始まり、上流にとんでもない魔物が現れたとかくだらないものからそれなりにありそうなものまで噂は様々。

 どれも確証もないただの噂で困惑しながらもこんないつもと違う状況に刺激を感じて楽しんでもいるようだった。


 どの噂が本当か確かめるのにも上流の調査は必要なことは噂を聞くまでもなく分かる話だ。

 この混乱の最中、誰かに話を聞いても噂以上のことは聞き出せない。


 リュードたちは一度宿に戻った。

 状況を把握し落ち着きを取り戻して次の行動に出るのにその日のうちにとはいかないと読んでのんびりと日光浴でも楽しむ。


 町は混乱していても空は澄み渡って日は温かい。

 久々の日の光をたっぷり浴びて前日にとれた大物の魚を使った料理をいただいた。


 分厚い窓でもやはり雨風の音はどうしても聞こえてきていた。

 今日ばかりはそんなこともなく静かにゆっくりと眠ることもできた。


 次の日も川は元に戻っていなかった。

 それでも町の方はだいぶ落ち着きを取り戻していた。


 いつまでも慌てていても前には進まない。

 日常を装って暮らすしかないのである。


 リュードたちもゆったり過ごして昼過ぎに冒険者ギルドに向かった。

 冒険者ギルドの方も昨日よりは落ち着いて見えたが噂話は絶えず何か新しい情報でもないかと人は多かった。


 けれどもまだ動きらしい動きはない。

 迅速に動こうにも何も分からないので中々話が前に進まないかもしれない。


 これからどうするかの方策は偉い人が集まって会議でもするのだろう。

 川についての情報はないが川の氾濫の恐れなしとしてヴァネルアから出ることは解禁された旨の貼り紙はしてあった。


 ヴァネルアがどうなろうと知ったこっちゃない。

 なんて言う人はリュードたちの中にはいなかった。


 この異常事態がどうなるのか気になったしもうちょっと滞在することになった。


「人ってのはたくましいもんだな」


 さらに数日が過ぎたが水量は相変わらず少ないまま。

 水路に流れ込む水も少なかったのだけど人の知恵ってのは侮れない。


 魔法で川底の形を変えたり少し深く掘り下げるなどして町中に流れる水量を確保した。

 これによって平時よりは少なくても舟が航行できるぐらいの水量は水路に流れ込むことになったのだ。


 工夫すれば何とかはなるものだ。

 水路を泳ぐお魚が元気になってコユキも安心だ。


 しかしそろそろ不満が高まった。

 冒険者ギルドや町の支配者層に向けて行動を起こさないことに対する文句が聞こえ始めてきた。


 そんな時にギルドから冒険者に依頼が出された。


「ステュルス川上流域の調査依頼……」


 やはりかという依頼。

 川に何かが起きたとしたら見に行くのは上流になる。


 少し依頼の様子を見ていたがどうやら冒険者の集まりが悪いようだ。

 依頼料も悪くない。


 調査なので無理に戦闘もする必要はないしすぐにでも人が集まると思っていたリュードの読みは外れた。

 調査ぐらいなら受けてみようかなんて思ってもう少し様子を見て人が集まらなさそうなら宿で相談だなと考えていた。


『どうか……どうかおひとつお力をお貸しください!』


 明日みんなと話し合おうと思って寝た時だった。

 土下座する青い女性が迫ってくる夢を見た。


 神託と神様の世界に呼び出された時の間のような妙な感覚。

 とにかく寝覚めは悪い。


「受けんの、やめようかな……」


 なぜだろう。

 一気に厄介ごとの気配がしてきた気がしたリュードだった。

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