美しき水の都2
「すごいね〜」
「確かにこりゃすごい」
意外とこの大嵐の川を見に来ても悪くないのではとラストは思った。
汚濁した川なので色味が悪く綺麗ではないが不思議な光景で他で絶対に見られない面白いものだ。
「あっ、舟で出てる人がいるよ」
濁流グラデーションを興味深く見守っているとそんな川の中に舟を出している人が見えた。
小さい舟の揺れ具合を見ると遠くからじゃ分かりにくい川の荒れ具合がよく分かる。
なぜこんな荒天の時に舟を出しているのだろうか。
それは漁業のためである。
大荒れの天候の時は大物が取れるのである。
荒れた川で取れる魚はサイズが大きく味も良い。
なのでリスクは伴うがああして荒れた川に出る者がいる。
そんなに川岸から離れることはしないが特別に許可された者だけが出られる特別な漁業だ。
「ということは明日も美味しいお魚が食べられるってことにゃ?」
「そうだな」
意図したわけじゃないが大嵐の川を見ることになってしまった。
そうなるとおじさんが言っていた通りに町は外出禁止となる。
外出禁止というよりは町の外に出ることを禁じられる。
町の水路のうちの危険なところも通行止めとなったりしていて大嵐の影響は町中に出ている。
だから町から出られない。
別に強制力があるわけじゃないが町近くの道は川に沿うように伸びているので安全を考えると町から出ない方がいい。
どうせ出られないなら前向きに考える。
色々魚料理を食べる良い機会だと捉えてリュードは川の波に乗る舟を眺める。
もしかしたら川で取れた大物が料理として並ぶかもしれない。
「さて……どれぐらい嵐は続くかな?」
急がないので構わないけれど曇天が続くと気分も晴れやかにならない。
嵐は数日続くらしい。
宿の人に聞いてみたところ例年通りなら数日で嵐は過ぎ去るというので数日ならちょうど色々食べられていい。
ーーーーー
「流石に魚スイーツは厳しかったな……」
色々なお店を巡った。
それぞれの店で色んな特徴があって面白い。
ただ数日に及ぶ大嵐は止む気配もなくて一巡りしてしまった。
しまいには何を狂ったのか魚スイーツなるものに手を出してみたけど失敗だった。
魚もスイーツも好きなニャロがゲンナリした顔してたのでどこに需要があるのか不明でならない。
そして雨が弱まることがあっても空には常に黒い雲が立ち込めていて光が差すことがない。
気分もなんだか落ち込む。
ラストも観光には向かないなと思い直した。
こう何日も荒天が続くと川のグラデーションも見飽きてしまう。
というか澄んだ川を見たのは最初だけなので荒れた川を見ている方が長くなってしまっている。
「こんなに長いのは珍しいって言ってたしね」
「代わりに大物がバンバン取れるみたいだけどな」
川も天候も大荒れだけど代わりに大きな魚が結構取れるらしい。
最初に行ったお店にもう一回行ってみたら大物が入っていた。
普通のものも美味かったけれど大物はさらに脂が乗っていて美味かった。
「んー……そろそろ魚飽きたなぁ」
ラストが体をグーっと伸ばしてベッドに倒れ込んだ。
肉が好きなラストは魚に飽きが来るのも早い。
ルフォンみたいに料理そのものに興味があればまた違ったのかもしれない。
「寝て起きて魚食べて……ムフフ……幸せにゃ」
そんな中で幸せそうなのはニャロ。
魚食って1日過ごせる。
教会で軽いお祈りするぐらいで仕事もしなくていい。
なぜならここはケーフィス教が強い勢力を持っているところじゃないからだ。
グルーウィンのような一神教ではないがケーフィスを始めとする聖教一派がメインの宗教ではなく聖者であっても特にお仕事がないのだ。
毎日雨なのは湿度も高くて多少嫌だけどただお魚食って寝るだけの日々はニャロにとってハッピーな毎日であった。
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