別れ、そして再会
町を1つ丸々巻き込んだ事件であるので冒険家ギルドと教会が国から協力要請を受けて共同で調査が行われることになった。
もう呪いをかける人はおらず呪いも解かれたけれど確実なことは言えない。
カイーダも証言はしたが半分廃人のようになっていて不安要素が取り除けないのである。
その上肉屋のコーディーは姿をくらませてしまった。
単なる肉屋なのでそう遠くにはいけないと思われるが素人であったカイーダが呪いを使えた以上コーディーも同様に警戒されていた。
そのために呪いに対抗できるほどの聖者であるニャロに白羽の矢がたった。
つまりここでお別れということである。
「せんせぇ!」
「コユキ……!」
ママですよと言っていた時は非常に冷たかったコユキも姉のように接してくれるニャロ先生にはとても懐いていた。
コユキは別れを惜しんでニャロをギュッと抱きしめる。
ニャロもウルウルと来ているけれどここは大人な最後を見せてあげようと必死に涙を堪える。
「やっぱりだめにゃああああ!」
しかしそんな態度も一瞬ですぐに涙腺が崩壊する。
号泣しながら離れたくないとコユキを強く抱きしめる。
「教えられることは教えたと思うにゃ。
あとはさらにレベルアップした練習とかはこれに書いておいたにゃ。
あとはコユキの練習次第。
パパとママの言うことをよく聞いて頑張るんだにゃ」
「にゃ……」
「お手紙書いて教会に届けてくれたら私のところにもちゃんと届くから書いてほしいにゃ……」
「うん、分かったにゃ」
「ふふ、にゃをつけてくれて嬉しいにゃ……」
「にゃー……」
「困ったらいつでも教会に来るにゃ。
どこにでもコユキのためなら飛んでいくにゃ!」
「約束?」
「うん、約束だにゃ!」
なんだかんだニャロはいい先生でコユキにいい影響を与えてくれたと思う。
教え方も上手かったしコユキの神聖力使いはみるみると上達していた。
ニャロそのものの能力も高くて戦いではニャロの強化はとても助けになった。
出発したコユキの姿が見えなくなるまでニャロはずっと大きく手を振っていた。
今度コユキに字を教えてやらなきゃいけないなとリュードは思った。
ーーーーー
ニャロを護衛して送り届けるという予定がなくなった。
大きな目的地としては当初の予定通りに闇の訪れぬ森ヒュルヒルに向かうつもりではある。
けれどルートはニャロを送り届ける予定だった国に寄らなくてもよくはなった。
ニャロを送り届ける予定の国に寄るのは闇の訪れぬ森ヒュルヒルがある国までの最短ルートではない。
他の国を通って最短で行くことも考えねばならない。
ギルドとか行って聞いてみると危険な国だとかそういうこともあるので情報収集も必要だ。
コユキもちょっとションボリしているし何か美味しいものでもある国に寄り道してもいい。
「いたにゃああああ!」
「んん?」
聞き覚えのある声と語尾。
振り向くとそれはニャロであった。
「先生!」
「コユキぃー!」
ニャロとコユキの感動の再会。
抱き合う2人。
しかしながらニャロと別れてからまだたったの数日しか経っていないぞとリュードは思った。
「ニャロ!
どうしたんだ?
何か問題あったのか?」
これから呪いについての詳細な調査があってニャロはそのバックアップをする予定だったはず。
なのにどうしてここにいるのか。
「逆にゃ。
問題がなくなったにゃ」
「どういうことだ?」
「私よりも呪いに詳しい専門家の聖者がいたにゃ」
実は呪いに関する書物を処分するにあたってカイーダの父親はただ捨てるのではなくて人にあげるつもりだった。
その相手は教会に所属する聖職者でニャロとは別の宗派に所属している人だが呪いの研究を行なっている聖者であった。
忙しい人が故にカイーダの父親の話か伝わって会いに来るまでに時間がかかってしまった。
結局カイーダの父親が生きている間には来ることは叶わなかったのだけど今会いに来ていたのであった。
ニャロよりも知識があって神聖力にも問題のない人が調査に加わることになった。
ニャロがいる意味がなくなったのである。
聖騎士を付けてもらって国に帰ることになったのだけどまだ数日先に出発しただけなら追いつけるとニャロは思ったのだ。
昔からお転婆娘だったニャロは馬にも乗れた。
見るとニャロのはるか後方からニャロが乗り捨てた馬を引き連れて聖騎士が慌てて追いかけてきていた。
「ということでまた一緒にお願いしたいにゃ!」
「にゃー!」
コユキも嬉しそうだし呪いの事件がなきゃそのまま送り届けるつもりだった。
当然文句はない。
再びニャロが加わることになって旅の工程も考え直す必要がなくなった。
「コユキもまだまだ先生が必要だしな」
「ありがとうにゃー!」
聖騎士たちは次の町に着くまで護衛してくれたがニャロがリュードたちがいるから護衛はいいということになった。
困惑したような聖騎士だったけれども教会に戻って確認したところリュードたちなら大丈夫だと上から言われて別の地に向かうことになった。
聖騎士も暇じゃないのだ。
そしてリュードたちはのんびりと歩いて旅を続ける。
「にゃ、にゃにゃー」
「にゃーにゃーにやー」
寂しそうだったコユキもすっかり元気になった。
ニャロと一緒に謎のニャーニャー語で歌ったりしている。
「それでどこに向かうにゃ?」
「そうだな……ちょっとばかりルートを変えて進もうと思っている」
「へぇ、どこ行くにゃ?」
「ちょっと魚でも食べようと思ってな」
「お魚!
大好きにゃ!」
「目指すは水の都と言われているヴァネルアだ」
降臨を使ったことは教会にも報告済み。
代償があることは分かっているのでニャロはしばらく教会のお仕事はお休みとなる。
だからそんなに急ぐ旅でもなかったものが全く急がない旅になった。
「やーさしいんだから」
ラストがリュードの脇腹を肘でつつく。
ただ魚を食べたいからだけではない。
ニャロとコユキをもっと一緒にいさせてあげようと思った。
ラストはその思惑を見抜いていたのである。
「コユキもニャロもハッピーでいいだろ?」
「でも誰にでも優しいと勘違いしちゃうぞ、リューちゃん」
プクゥとルフォンは頬を膨らませる。
今のところニャロの意識はコユキに向いているがこんなさりげない優しさなんてちょっとクラッときてしまう良いところじゃないか。
良い男すぎるのも困りものだ。
「ははは、コユキ優先で考えたらしょうがないだろ?」
「まあ……コユキが笑ってくれるならしょうがないね」
「あの笑顔見たらそうなっちゃうよねぇ」
リュードはリュードでいい男で困るけどコユキはコユキで周りのみんなを可愛い魅力で射抜いていく。
これもまた困りものである。
厳しくしようにもコユキは良い子だし甘えられると甘やかしてしまうのだ。
ムチ役を誰もやりたがらない。
ある意味で天使な小悪魔ちゃんなのかもしれない。
「お父さんがあんな風にしてた気持ち、ちょーとだけ分かる気がする」
「うちのお父さんもやたら私の周りに厳しかったけどようやく理解できたよ」
ルフォンとラストがウンウンとうなずく。
ウォーケックも大概娘に甘い父親だったけどコユキという娘みたいな存在ができて初めてウォーケックの心情が理解できた。
「ルフォンのちっちゃい頃は控えめで守りたくなるような感じだったもんな」
「リュ、リューちゃん!?」
「え、ルフォンのちっちゃい頃の話聞きたい!」
「なになに?」
「なににゃに?」
「ルフォンのちっちゃい頃はな〜」
「は、恥ずかしいよー!」
笑い、旅をする。
呪いにも負けずリュードたちの旅はのんびりと続いていく。
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