代償と代償とご褒美

 カイーダが逃走してしまったので完全な解決には時間がかかると思われたが案外すぐに解決した。

 なんとカイーダはデルの家で発見された。


 もっと正確にいうと焼け野原になったデルの家があったと思われるところで倒れていた。

 何が起きたのか。


 経緯はこうだ。

 逃げ出したカイーダは助けが欲しくてデルのところに向かった。


 木こりをやっているデルなら逃走したり隠れるのに良い場所を知ってると考えた。

 けれど肝心のデルはリュードたちによって拘束されていた。


 カイーダはデルを助け出したのだけどデルはそれがカイーダだとは分からずカイーダのことを化け物だと罵った。

 一瞬で怒りに飲まれたカイーダはデルの首をへし折ってしまった。


 ちょうどその時ニャロの聖域が展開された。

 カイーダにかかっていた呪いも無理矢理解除されることになるのだけど呪いが解除された瞬間ブヨブヨとした体が爆発して弾け飛んだ。


 周りが消し飛ぶほどの爆発だった。

 デルの死体は爆発で吹き飛ばされて何とか形を保っていたぐらいで、爆発の中心ではカイーダが倒れていたのである。


「ひょもひょも呪いなんてどうひゃって知ったにゃ?」


「ニャロ、食べるか話すかどっちかにしなさい」


 偽物の人の黒い塊や小人化されていた人たちの体調の回復など町の復興には時間を要する。

 ただ町の恩人を空腹にしておけず、町の活動そのものは偽物が継続していたので食料はあった。


 空腹のニャロにも食事が振る舞われたのだけどニャロの様子はどうにもおかしかった。

 普段から割と食べる方ではあるニャロ。


 しかし神聖力を使い果たして眠っていたニャロが目を覚ましてからというもの、とにかく食べるのである。

 自分の持てる神聖力を超えて神聖力を引き出す降臨はそれに代償が伴う。


 神聖力が一定期間使えなくなるなどの代償があるのだけどニャロが背負うことになった代償は飽くなき食欲だった。

 もしかしたら空腹状態で降臨したからなのかもしれないがニャロはとにかくお腹が空いてしょうがない状態になっていた。


 代償の内容を考えるとテレサやダリルの時よりは遥かに軽い。

 けれども女性のニャロにとって食欲が抑えられずずっと食べ続けることになるのは酷なこと。


 このまま食べ続けると太ってしまうと泣く泣く理性と食欲の間で戦っている。

 日中は手足を縛ってもらったりして代償の食欲に抗っていたりもする。


「目を覚ましたカイーダは全部話したよ。


 何とアイツの家は代々呪術士だったようなんだ」


 もっと言えばカイーダの祖父の代までは呪術士だったのである。

 珍しく強力な技術であるが呪いはあまり好まれないもので日陰モノになりがちだった。


 カイーダの父親も呪術士として呪いの技術を継承したけれど呪術士となることを拒んだ。

 そして普通の職業について一般人として暮らしていくことを選んだのである。


 カイーダの父親はカイーダにそのことは伝えず呪いについても自分の代で技術を途絶えさせるつもりだった。

 ただカイーダの父親はどうしてか呪いに関する書物を処分していなかった。


 晩年体が悪くて寝たきりだったので処分する機会を逸してしまっていたのである。

 カイーダには見ないで燃やせといったのだがカイーダは何か売れるものでもないかと燃やせと言われていたものも見てしまった。


 それが呪いに関する本であった。

 魔力も少なく運動もできないカイーダは魔法に関しても知識はなかったが何故か呪いに関しては興味を引かれて本を読んだ。


 簡単なものではなく理解に難しいものだったのだけど呪いの技術の中でカイーダが目をつけたのが設置型の呪いであった。

 呪いの呪陣と呼ばれる魔法陣みたいなものを描いて魔石など魔力を補助するものを使って効果を発動させる呪い。


 知識があまりなくても本に書かれている通りにやれば呪いにかけることができて、自分でも出来そうだと思った。

 実際準備する物の大変さを考えれば出来そうなんて思えないのだけど呪術士を廃業した父親の遺品の中には呪いに使える物が残っていた。


 カイーダが目をつけた呪いは呪いの力によって対象と同じ形の呪いの人形を作り出すものであった。

 設置型として発動させると一定の範囲内でのみしか人形を維持できないが本人の思考をある程度真似たり好きにコントロールできたりする。


 常日頃周りに不満を抱いていたカイーダは思った。

 町中の人をこの呪いの人形に変えてしまえば街を支配できるのではないかと。


 しかしこの呪いの問題は呪いをかける本人が必要なことであった。

 こっそりと相手に呪いをかけて複製するのではなくて目の前に本人を置いて呪いを発動させねばならないのであった。


「それで小人化に目をつけたのか」


「カイーダの野郎が勝てそうなのはガキぐらいだからな。


 町全体の人を入れ替えるために傷つけないようにしながら自分でも何とか出来るほどに無力化するための方法が小人化だったんだ」


 偽物作りにしろ小人化にしろ用意するのが難しい素材は父親が保有していた。

 けれども用意することはできるだろうけど大量に必要だったり1人じゃどうしても厳しいことはある。


「コーディーやデル、ホルドは飲み屋で時々会う性格の悪い愚痴仲間だったみたいだ」


 用意しなきゃいけないものもたまたまそのメンバーで用意できた。

 魔石や多少の金はホルドが融通した。


 ギルドから横領したのである。

 偽物の人を作るのには大量の肉が必要だった。


 そこは肉屋のコーディーの出番だ。

 偽物の人が呪いが解けて黒い塊になったけれどあれは元々食えなくて捨てられるはずだった肉であったのだ。


 そして呪いを設置するための場所の確保はデルが木を切り倒して作ってくれた。

 最初は少しずつ入れ替えていった。


 カイーダの呪いの実力も未熟で小人化するのも数人が限界だったし偽物の人を作るのにも時間がかかった。

 けれど入れ替えた人たちは普段の日常を繰り返して疑問を持たれながらも生活に溶け込んだ。


 カイーダの呪いは成功してしまったのだ。

 やればやるほど慣れていく。


 段々と小人化して誘拐し、人を入れ替える作業は加速した。

 町中は入れ替えられた偽物がとりあえず日常をこなしている摩訶不思議な空間となった。


 ただし単純に入れ替えて日常生活を送らせたのではない。

 手伝ってくれたコーディーやデルに恩を返さねばならない。


 そこで偽物の思考を少しだけいじってコーディーとデル相手には通常よりも高値で買い物するようにしたのである。

 それで家中に妙なお金があったのである。


「単に支配して好き勝手やるだけじゃ長いこと持たないからな。


 都市の機能の維持して生活できるようにしつつ利益をもたらすにはそんな方法しかなかったようだな」


 破産するような金額で買わせることもお金を差し出させることもできるがそうすると日常生活も送れなくなる。

 そうなると偽物たちに無理がかかって呪いが崩壊してしまう。


 だから日常生活を続けさせるより他に手はなかった。

 1人2人ならいなくなってもいいだろうけどいかに呪いでも全部を気ままにはできない。


 しかしホルドだけは金じゃなくて女を要求した。

 魔石や金だけじゃなく情報の操作なんかも行ってくれていたホルドにカイーダも断りきれずにあのようなただれた生活を送っていたみたいである。


「それでカイーダがほとんど町を掌握したところにシューナリュードたちがやってきたんだ。


 旅の冒険家に手を出したのも町を手に入れたからいけると思ったんだろうな」


「でも手を出した相手が悪かったな」


「調子に乗っちゃったにゃ〜」


 カイーダはリュードたちにも手を出そうとした。

 美人揃いだったし、冒険家の偽物を支配下に置けば護衛にもできる。


 人の数に余裕が出来れば多少女性を抜けさせて遊んでもそこに別から偽物を割り当てるなんてことも出来たのだ。


「コユキやニャロがいたからな」


 成功していた試みだったがコユキやニャロには呪いが通じないほど強い神聖力があった。


「今回はコユキが大活躍だったね!」


「そうだね、コユキが色々と頑張ってくれたから助かったね」


「えっへん」


 誇らしげに胸を張るコユキ。

 今回の事件においてコユキの活躍はとても大きい。


「よくやったぞ、コユキー!」


「パパ、ギュー!」


「よーしよし!」


 パッと手を広げたコユキの要求に応えて抱きしめる。

 5本の尻尾がパタパタと振られてミミもピコピコと動いてコユキは嬉しそうに満面の笑みを浮かべている。


「パパ、チュッ!」


「ん?


 ほら、チュッ」


「んふふぅ!」


「コユキー!」


「ずっこいなぁ」


 コユキのプニプニのほっぺたにキスをする。

 少し頬を赤くしてコユキは尻尾を激しく振る。


 微笑ましい光景。

 ルフォンとラストは羨ましそうにそれを見ていた。

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