人を呪わば穴二つ4
困惑している間にも塀の中に入ってきた人たちは屋敷の近くまで迫ってきて中に入ろうとしてきていた。
「ダメだったら頼むぞ、ニャロ!」
割れた窓を乗り越えて入ってこようとする男性の腕をリュードが切り落とす。
仮に本物の人であっても綺麗に切り落とした腕ならニャロがいれば繋げられる。
「……大丈夫、偽物だ!」
切り落とされた腕が黒い塊と化す。
予想通りであるけれどこの迫り来る人々は偽物である。
「クソッ……数が多すぎる!」
見るとリュードが壊した門からも次々とゾンビのように偽物たちが入ってくる。
偽物は町の人と同じ数だけいる。
そんな数を全て相手にすることなどとても出来はしない。
「カイーダの野郎……」
「最後の悪あがきってやつか」
「呪いは止まったんじゃないのか?」
「うーん、おそらく小人化する呪いと偽物を作り出す呪いはまた別物なのにゃ。
だから偽物は消えていない……けどカイーダの統制もカイーダ自身が呪いで出来ていないから暴走してしまっているのかもしれないにゃ」
「こんな数どうしろってんだよ」
ホルドを守っていた女性たちですら怪我も恐れずすごい力だったので苦労した。
今視界に映っているだけでも数は多くて対処しきれない。
町の人が全てこちらに来ているとしたら途方もない数を倒さねばならない。
遅かれ早かれこの偽物ゾンビに飲み込まれてしまうことだろう。
流石のリュードにも焦りの表情が浮かぶ。
良い逆転の手段が思いつかないのだ。
「……コユキ、力を貸してほしいにゃ!」
「うん!」
「私に神聖力を全力で注いでほしいにゃ」
「分かったにゃ!」
「ニャロ、どうするつもりだ?」
「ここで全力出さなきゃ聖者が廃るにゃ!」
コユキの神聖力が送られてニャロの体が淡く輝く。
「神よ!
あなたの子に悪しき呪いを打ち破る力をお貸しくださいにゃ!
降臨!」
神聖力で呪いに対抗する。
しかし丸々町1つにかけられた呪いにニャロ1人では神聖力が足りない。
そこでニャロは降臨魔法を使う。
限界を越える神聖力をニャロは引き出す。
「ニャロ……!」
「先生!」
ニャロの体が眩く光る。
心なしか偽物の人たちが引いている。
「神聖なる息吹、不浄を浄化し、安らかなる癒しを与え、我らを守り給え!
ディバインエリア!」
祈るように組んだ手を高く掲げる。
体の治療や強化をしてもらっている時も神聖力というものは感じるのだけどそれよりもさらに温かく優しく心安らぐようなものに包まれる感覚。
ニャロからフワリと神聖力が広がっていく。
屋敷、庭、塀を越えて外、道や家を包み込んでいきながら町中を覆っていく。
体の疲れが癒えていき、ピリピリとしていた神経が穏やかに落ち着いていく。
ケガをしていた警備隊のみんなの傷も治っていく。
「偽物たちが……」
さらに偽物の人たちは奇妙な叫び声をあげて苦しみ出す。
膝をついて頭を抱えて、そして皮膚が黒ずんでいって、やがて全ての偽物の人が黒い塊となってしまった。
「う……くっ!」
「ニャロ!」
段々とニャロの体の光が弱まって街を包み込んでいた優しい雰囲気が消えていく。
体から力が抜けて倒れ込むニャロをリュードが抱き支える。
「大丈夫か?」
「たくさん力使って……体動かないにゃ…………
それに」
「それに?」
「お腹空いたにゃ〜」
監禁状態で何も口にしていなかったニャロ。
怒りがそれを忘れさせていたけれど体の状態は決して万全とは程遠かった。
「もう少ししたら腹一杯食わせてやる。
……とりあえず無事そうでよかったよ」
押し寄せていた偽物の人は黒い塊になってしまった。
「恥ずかしいにゃ……」
ニャロのお腹が盛大に鳴る。
顔が真っ赤になるが手で覆って表情を隠すこともできない。
「でも、役に立てて嬉しいにゃ」
「役に立ったどころじゃないさ。
ニャロは俺たちの命の恩人だ」
「先にリュードが助けてくれたからおあいこにゃ」
「そうか。
今は少し休んでくれ」
「うん……お腹も空いたけどすごく眠たいにゃ……」
どの道偽物の妨害のせいで時間を食ってしまった。
カイーダがどこに逃げたのかも分からない。
カイーダの確保も必要だけど本当の町の人たちが無事かどうか確かめねばならない。
しかしニャロを動かすわけにいかないのでサンジェルがリュードたちに休んでいてくれと言って町に繰り出す。
心配だったけれど戻ってきたサンジェルは複雑そうな顔でみんなの無事をリュードたちにも伝えた。
「町中あの黒い偽物だらけだ……
みんな無事なことを確認して戻ってくる時に、アレはどうしたもんかって思っちゃってな」
柔らかく、わずかに異臭のする黒い塊。
なんなのかは分からないが町中にそのままにはしておけないので片付ける必要もある。
みんなが無事なら次のことを考え始めていたサンジェルは黒い塊をどうしたらいいのかと頭を悩ませ始めていたのであった。
「とりあえずカイーダの捜索隊を組織してどこに行ったか探すとしよう。
シューナリュードもよくやってくれたよ。
カイーダは逃げてしまったがそれはこちらに任せてほしい。
絶対に見つけ出して罪を償わせる」
「頼みましたよ」
「君たちが泊まっていた宿まで送ろう」
こうして呪いはリュードたちによって完全に壊されて小人化した人々は元に戻り、入れ替わっていた偽物の人たちは辺な黒いものとなってしまった。
リュードはニャロをお姫様抱っこで宿まで連れていくとそっとベッドに寝かせたのであった。
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