人を呪わば穴二つ2

 両腕で女性を抱きかかえて赤ら顔で満足そうな表情を浮かべているベッドに横たわるホルド。


「な、なんだ!?」


「大人しく投降しろ!」


「くそっ!」


「卑怯者!」


 ホルドはとっさに抱きかかえていた女性を投げ捨てるようにしてベッド脇に置いてある服に向かう。

 サンジェルは転がってくる女性を切りつけることも躊躇ってしまい、巻き込まれて倒れ込む。


「へっ、そんなガキみたいな体でどうすんだよ!」


 小人じゃなかったかという疑問はホルドの頭に浮かんだけれどそんなことを気にしている場合でもない。

 子供サイズには小さいのでひとまず対抗はできそうだと考えていた。


 子供に負けるほど剣の腕は鈍っていない。

 服と迷ったけれど服を着ている暇はないと立てかけていた剣の方を手に取った。


 お楽しみを邪魔してくれたと怒りの表情を浮かべて剣を抜く。

 しかしフルチンで冒険者をやめてから久しく引き締まってもいない体の男が凄んでみても怖くなかった。


「オラあああっ!」


「遅い、弱い、気持ち悪い!」


 股間を揺らしながらホルドが切りかかってくる。

 ゾワゾワとする気持ち悪さを感じながらリュードは剣に魔力をかなり込めてホルドの剣にぶち当てる。


 ホルドの方は剣に魔力がほとんど込められていない。

 剣が折れて真っ二つになった剣先が飛んでいく。


 正確にいえば子供になったのではなく呪いのために小さくなっているだけ。

 不思議と小さくなった分相応に力も衰えてはいるのだけど魔力は変わらなかった。


 その上リュードはニャロの全力支援を受けている。

 たるみきった元冒険者など相手になりもしない。


「大人しくしやがれ!」


「クソッ!


 俺を守れ!」


「なっ……!」


 武器も失ったし投降を促す。

 しかし後退りながら剣を投げ捨てたホルドの目はまだ諦めていない。


 これまでただ無気力に転がっていた女性たちがいきなり起き上がってリュードたちに襲いかかった。


「なんだ……この力」


 殴りかかってきたのを剣で防いだリュード。

 女性の力はリュードの想定よりも遥かに強く踏ん張りきれない。


 後ろに飛ぶようにして転倒はしなかったが大きく後退させられた。


「逃げようとしてるぞ!」


「逃すな!」


 異様な力で暴れる女性たちに任せてホルドは服を持って逃げようとしていた。


「うわっ!」


「気をつけろ!」


 ホルドの方に行こうにも女性たちは一切の遠慮もなくとんでもない力で拳を振り回したり掴みかかってきたりする。

 どの女性も綺麗どころの人で顔や名前が知られている女性たち。


 偽物だと分かっていてもサンジェルたちは女性たちを切ることを躊躇ってしまう。

 その隙をついてホルドは部屋から抜け出してしまう。


「待て!」


 リュードが女性の首を一太刀に切り落としてホルドを追う。


「きゃああ!」


「コユキ、それ投げて!」


「ぬううううん!」


「ギャアアアアアア!」


 阿鼻叫喚。

 ルフォンの悲鳴が聞こえて続いてホルドの悲鳴が聞こえてきた。


 何事かと足を早めたリュードが駆けつけると嫌悪感丸出しの3人と股間を抱えてうずくまるホルドがいた。


「だ、大丈夫か?」


 掠れた声でうっすらとうめいているホルド。

 何が起きたのかはなんとなく分かるがひとまず逃げる心配はなさそう。


「うん、コユキのおかげで大丈夫……」


「ぬん!」


「そ、そうか……」


 待機していたルフォンたち。

 手持ち無沙汰だったのでコユキは神聖力の球、ホーリーボールの練習をしていた。


 投げるのではなくしっかりと打ち出せるようになるために何度も繰り返し打ち出していた。

 中々打ち出すのが上手くいかなくてふよふよと飛んでいく神聖力の球。


 試しに込める神聖力の多さを変えて大きさを変えたりなんかしていた。

 たまたま大きめに神聖力の球を作った時に目の前に全裸の男が走ってきた。


 生まれたままの姿のホルドである。

 とっさに出されたラストの時々に従ってコユキは神聖力の球を投擲した。


 そこまで狙っていたのではないが投げられた聖なる力で作られた球はたまたま性なるタマタマに当たった。

 なんか良くやったとも言えなかったリュード。


 けれどこうなったのは逃げ出したホルドが悪いのである。


「おーい、大丈夫かー?」


「その言葉そのまま返すよ」


 リュードが切った女性が赤黒い塊となって倒れた。

 それを見てようやく暴れ回る女性を倒す決心がついた。


 何人かで1人の女性を相手取り、ナイフで倒すと謎の塊となってベシャリと倒れていく。

 しかしそれも簡単ではなかった。


 慣れない子供サイズの体でみんなも動きに精彩を欠いていた。

 殴られたり引っ掻かれたりと結構ボロボロになっている人も何人かいるのが見えた。


「おいっ!」


 コーディーやデルよりも関与が明らかなホルド。

 やっていたこともやっていたことであるしみんなの態度もとても冷たい。


 サンジェルが未だに床に丸まっているホルドの腹を蹴る。


「う……うっ」


「よう、ホルド」


「あんたは……サンジェル」


「そうだよ。


 だいぶ小さいけれど分かってくれたようで嬉しいぜ」


 男の股間なんて見ても面白くない。

 サンジェルは投げ捨てるようにホルドの服を股間にかぶせた。


「クク……」


「何がおかしい?」


「いや、なんでもできるって言われて調子に乗って、このザマだ。


 やったことと言えば女の形した人形と遊ぶだけ……


 何やってたんだろうな…………」


 裸で冷たく見下ろされている。

 何でもできるという言葉に惑わされて周りを見返してやると思っていたのにやっていたことを振り返っても何の身にもならないことをしていた。


 何であんなことに傾倒したのか自分でも分からないが冷たい視線を向けられるのにふさわしいクソみたいなことをしていた。

 欲に溺れてぼんやりしていた意識がハッキリしてきた。


 リュードはこれもまた呪いに踊らされた憐れな姿の1つなのかもしれないと思った。

 欲にまみれて欲に溺れた憐れな男は欲から抜け出せなくなった。


 ホルドの意志が弱かったのか、それとも呪いの効果なのか、それは誰にも分からない。


「くだらない言い訳はいい!


 町に何をした!」


「フッ……さあな」


「ふざけるなよ!」


「サンジェルさん、落ち着いてください」


「……ああ、すまない」


 サンジェルは今にもホルドを刺してしまいそうな剣幕だ。

 リュードが止めなきゃ実際にそれぐらいやっていたかもしれない。


「俺がやったのは周りの環境を整えることだけだ。


 場所や魔石を提供して、情報を隠して、金を渡してやったり……」


「魔石の横流しは噂じゃなく本当にお前がやっていたのか」


「そうだよ……計画のために必要だからやったんだ。


 だけど計画を立てて、魔石や金を使って全部をやったのはカイーダさ……」


「ならカイーダの野郎はどこにいる?


 この屋敷にも来ていたんだろ?」


「地下だよ。


 この屋敷には地下室があってそこにいる。


 俺と同じようにお楽しみする以外の時は大体地下の方にこもってやがる。

 何してるかはしらねぇ」


「やけに素直だな」


「こんな状況じゃウソなんてつかねぇよ。


 それに……今更だけどこんなことやるつもりはなかったんだ。

 こんなことになるだなんて思ってなかったし……


 何言っても言い訳にしかならないけどな」


 何であんなことをしでかしたのかホルド自身も分からない。

 街を支配する全能感が以前はあったが今はこの状況が気持ち悪く思えた。


 何にでも従う偽物の人に囲まれていたのもいつしか虚しさを感じ始めて、それを振り払うように淫らな行為に耽っていった。

 止めてもらってむしろ清々としたような気分がある。


「チッ……散々好き勝手しておいて今更改心したって遅いさ」


 直前まであんなだったのにいきなり改心しましたと言われても信じる人などいない。

 ホルドを縛り上げてリュードたちは地下室への階段を探す。

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