人を呪わば穴二つ1
話によるとカイーダはただの引きこもりで特に戦いの心得はない男であるようだがホルドは元冒険者のギルド職員だった。
冒険者ギルドで働く人で元冒険者という人は少なくない。
ただホルドはうだつの上がらない冒険者で強くない冒険者だった。
ある程度数字に強くて書類仕事が出来たのでギルドに就職できたような人だった。
子供サイズなのでそれなりに力は出る。
どれぐらいになるのかはちょっと分からないけど子供部門の力比べで優勝して大人部門に出たこともあるリュードはちょっとやそっとの相手じゃ負けない自信はある。
子供サイズなので元領主の館の塀のツタはもう登れない。
襲撃するのだしこの際バレバレの正面突破で行ったって構いやしない。
正面玄関から突撃することにした。
表向きには主人のいない家。
元領主がいた時には門前に見張りの私兵を置いていたけれど今は誰もいない。
ここに至るまでの町中もこれまで通り無気力で同じことを繰り返す偽物がいつものように生活を続けていた。
鉄の門は固く閉ざされ開かない。
けれどそんなもので防げると思うなかれ。
剣に魔力を込めて鉄の門を切り裂くリュード。
鉄の門は倒れて派手に音を立てるけれど中から誰かが出てくる様子もない。
それなら遠慮なく入らせていただく。
「リューちゃん……あの、この声って……」
「アレ……だよね?」
静かな元領主の館の中。
女性の嬌声が聞こえていた。
前回は一階ではあまり聞こえなかったのに今回は割とちゃんと聞こえる。
前の様子を思い出すにほとんどドアが閉まっていたために聞こえなかったのだろうが今回はもしかしたら全開なのかもしれない。
ルフォンやラストも無知な少女でもない。
その声が何なのか分かっていて顔を赤くする。
前は来なかった警備隊の若い奴なんかも顔を赤くしている奴がいた。
「欲望の果ての声……だけど今はこれで都合がいいな」
お楽しみで何にも気づかないなら別にそれで構わない。
そちらの方にも行くけれどまず行くべきところがある。
「今のうちにニャロを助け出そう」
「先生!」
「そうだ。
全く気づかれてなきゃ堂々と助けられるだろ」
それはニャロのところである。
「ニャロ、助けに来たぞ!」
「にゃー! リュード!
待ってたにゃー!」
「ドアから少し離れててくれ」
「分かったにゃ」
前回は小さすぎて助けられなかったけれど今回は違う。
鉄の門だって切り裂くことができたのに木のドアごときないにも等しい。
そんなに魔力を込めなくても大丈夫だと思うけど格子を嵌められていたほどの部屋なのでしっかりと魔力を込めてドアを切り裂く。
「助けに来たぜ」
切って分かったのはただの木のドアでなく中に鉄が入っていて頑丈に補強されていたこと。
しかし切り裂くのには大きな影響はなかった。
ドアが切り裂かれて崩れ落ちてリュードとニャロの目が合う。
ちっさい。
助けに来たからてっきり大きくなっているかと思っていた。
大きくはなっているのだけどまだまだ小さい。
一緒に残ってくれた子からそんな予感はしていたけど元より小さい子供と大人では戻った大きさも差があってニャロもどれほど大きくなったのか見誤っていた。
でも小さくてもリュードはリュードだ。
「リュ、リュードォ!」
「……よく頑張ったな」
ブワッと涙が流れ出してニャロがリュードを持ち上げるようにして抱きつく。
「怖かった……怖かったにゃー!
お腹もすいたし、部屋の隅でおトイレするの嫌だったにゃーん!」
足もつかないぐらいに持ち上げられたリュードは抵抗もしないで優しくニャロの頭を撫でる。
小人化していた人の中にあって唯一無事であったニャロが不安そうにしては他の人も不安になる。
だからニャロは弱音も吐かずリュードたちが助けてくれると人々を鼓舞して治療していた。
今も側にいてくれる子のためにニャロは内心の恐怖を押し殺しながら笑ってあとちょっと、もうちょっとと耐えていた。
助けられて押し殺してきた不安や恐怖から解放されてどうしても涙が止まらなかった。
リュードが戻ってこないのではないか、いつか殺されるのではないか、このまま空腹で死んでいくのではないか。
そんな重たくて胸を締め付ける考えが全て消えていく。
ニャロの気持ちはみんな分かっている。
だからニャロがリュードを抱きしめて泣いていてもルフォンやラストは許してあげる。
「先生……」
「コユキ……無事でよかったにゃー!」
前に来た時にはコユキはいなかった。
何も言われなかったけどリュードの態度を見れば無事なのは分かっていたので何も言わなかったけれどコユキのことも心配だった。
リュードを下ろしてコユキも抱きしめる。
痛いほどに抱きしめられるけどコユキは優しく微笑んでニャロを抱きしめ返していた。
「グスン……ごめんなさいにゃ」
「いいって。
謝ることはない。
ニャロは良くやったよ」
「ありがとうにゃ。
それにしてもおっきくなったけどちっちゃいにゃ……」
「呪いの一部は破壊できたみたいなんだけど全部じゃないようなんだ」
リュードは何があったのかニャロに説明する。
容疑者だった人を倒して調べた結果呪いの模様を見つけ、それを破壊して回ったらこのサイズになった。
そして呪いの模様はここを中心として丸く囲むように配置されていたので個々が怪しいと思っていることを伝えた。
「なるほど……おそらくリュードの予想は正しいにゃ。
でも……」
ニャロには不安に思うことがあった。
呪いはただの魔法ではない。
魔法とは違う扱いをしなければならない。
「まあ、もうこうなった以上はさっさと探してしまう方が早いにゃ」
ニャロも呪いの専門家ではない。
考えたところでその答えは出ないのだからこのまま突っ走るしかない。
「解放されたばかりで悪いが手伝ってくれるか?」
「もちろんにや!」
人をこんなところに閉じ込めてくれた連中には心底腹が立つ。
その上やはり完全に放置。
他の小人化された人たちを助け出したことがバレなかったのでそれはそれでいいのだけど水すらなくて苦しい思いをした。
あまり怒ることのないニャロも本気で怒っていた。
「しかも誰だか知らないけどずっとただれているにゃーん!」
さらにムカつくことがもう一つ。
獣人族であるニャロは真人族より耳が良い。
奥まった部屋にいてみんな聞こえていないが実は情事の声は未だにしていて、ニャロには聞こえていた。
捕まっている間も昼夜を問わず聞こえてきてストレスマックスだった。
「こっちは恥じらいながら隅でおトイレしてたのにすっごいムカつくにゃー!」
非常にお怒りなニャロを連れて声が漏れ聞こえる部屋に向かう。
ちょっとこれはコユキには見せられないのでルフォンとラスト共に離れて待機してもらう。
流石にルフォンとラストもそんな光景見たくはないのか大人しく従った。
まだそこら辺は子供の部分がある。
リュードだって見たくはないが股間ぶっ潰してやると意気込んでいるニャロを制する人が必要だった。
「行けるか?」
「もちろんだ」
「コロス……にゃ」
聖職者がそんなこと言っていいのかと思うが今回は仕方ない。
ケーフィスも許してくれるはずだ。
相変わらず平坦な嬌声と上から目線の攻め立てるようなところや男の声がする部屋のドアは半開きだった。
「……すっげえ嫌だ」
うっ!と聞こえて男女の声が止む。
サンジェルがこれまで見たことないほど顔をしかめている。
「さっさとやろう……」
「突入!」
「アイツの股間を切り落とすにゃー!」
リュードは自前の剣を、サンジェルたちは剣だと大きいのでナイフを片手に部屋に突入した。
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