小人も力を合わせれば

「チッ……なんでよぅ、こんな時にまでセコセコと木ぃ切らにゃいかんのだ!」


 ドアを荒々しく開けてデルが入ってくる。

 帰りに酒場に寄って飲んできたデルはおぼつかない足取りでフラフラと歩きながら大声で1人文句を言っている。


 赤ら顔で相当酔っている。


「あんにゃろめ……こっちは仕事させてあっちばっかいい思いしやがってよ……」


「今だ!」


「うっ、どわっ!」


 普段だって自宅内でそんなに足元に気をつけはしない。

 酒を飲んでフラフラとしていれば当然足元には全く注意を払わない。


 しかも飲んで帰ってきたので時間は遅く室内は暗い。

 月明かりを頼りにロウソクにでも火をつけようとしていたデルの足元でリュードたちは動いた。


 片方をテーブルの足に縛り付けたロープを隠れていたみんなで全力で引っ張る。

 突然ピンと張られたロープに全く気づかなかったデルはものの見事に足を引っ掛けて転倒する。


「かかれ!」


「いて……な、なんだなんだ!」


 手すらつけずに顔を打ち付けたデルに隠れていた他のみんなも出てきてロープを投げる。

 コユキの協力で作ったシーツを細かく繋いだロープである。


 デルの体の上を通ったロープを拾い、みんなが床にデルを押さえつける。


「一体なんだ……いてぇ!」


 しかしそれでは力負けしてしまうかもしれない。

 さらにデルを押さえる策を取る。


 体を起こそうとしたデルに痛みが走る。


「動くな!」


 声がよく聞こえるようにリュードはデルの耳元に寄る。

 デルの体を縁取るように男たちが並んでいる。


 その手には釘だったり先の尖った木片。

 先を出るの体に押し付けていた。


 動けば体のあちこちに何か細かいものがブッ刺さる。

 服なんか身につけているものは呪いの影響で同時に小さくなっているがその時に持っていなかった剣などは小さくなっていない。


 なので武器となるようなものもなかったので何か痛そうなものをかき集めて武器にした。

 しかし状況もわからず酔っ払っているデルには得体の知れない何かに拘束され、全身が何かの刃物でチクチクと刺すようにして脅されていると感じた。


「な、なんだお前ら!」


「コユキ」


 バシャリとコユキがデルの顔にバケツに汲んでいた水をかける。


「これは警告だ。


 お前は余計なことを話さないでこちらの質問に答えていればいい」


「答えなきゃどうするってんだよ?」


「耳を削ぎ落とす」


「み……耳を」


 予想外に低い声で言われた恐ろしい脅し文句。


「今はあんまりこちらにも余裕がないんだ」


 ちなみにリュードは剣を持っている。

 なぜかというと町の様子が怪しすぎたので剣を持って寝たのだ。


 普通はそんなことしないけど部屋に1人だけだしどうにも町の異様さが気になってしまったからだった。


「本気かどうかは1つ切り落としてみれば分かるか?


 なに、1つ無くなってももう1個ある」


 リュードは手に持った剣を耳に当てて少し引く。

 鋭い痛みが耳に走ってデルは一気に青ざめる。


 未だに小人化した相手がやっていることだと気づいておらず姿の見えない相手に脅されているようで恐怖倍増だった。


「早く答えろ。


 3つ数える間に答えなきゃ片耳はおさらばだ。


 1つ……2つ……みっ……」


「ま、待て待て待て!


 分かった!

 なんでも話す、だから耳を削ぎ落とさないでくれ!」


 あっさりと陥落。

 多少強がってはみせたが所詮は木こり、こうしたことに関しては素人である。


「何が聞きたい?」


「本気で聞いているわけじゃないよな?」


「な、なんのことだ……」


「俺たちが聞きたいのはこの町に起きていることだ。


 町の人の小人化や偽物が入れ替わっていることだよ」


「お、俺もあんまり知らねえ!」


「いいから知ってることを吐くんだ!」


 デルが口を開くたびに酒臭くてリュードも苛立ちを隠せない。

 いつ冷静になって暴れ出すか分からないし早く話を聞き出したい。


「か、カイーダだ!」


 再び耳に剣を当てられる感触にデルは慌てて答える。


「ぜ、全部あの野郎が計画したことだ!


 俺たちは協力して、ちょっとだけ見返りを受け取っただけだよ!


 こんなことになるだなんて知らなかったんだ!」


「俺たち……誰と誰だ。


 それに何をした!」


「コーディーとホルドだ!


 何をしたのかは俺もわかんねえよ!


 ただカイーダはこの町を支配して好きにすることができるってそう言ってやがった!

 現にこんな風にやるだなんて知らなかったんだ!」


「金をもらって協力したのか?」


「金だってあいつから受け取ったんじゃねえよ!


 こんな風になってからもみんなは変わらず働き続けているけど木材を買って行くのに多少高値でも交渉もしないで買っていくようになったんだ。

 だから多少それで儲けたけど……理由はわからねえ。


 きっとカイーダが何かしたんだよ!」


「お前は何をした?」


「お、俺は木こりだ!


 だから木を切った!

 それだけだ!」


「本当にそれだけか?」


「ほ、本当だ!


 ホルドが魔物が出るからと立ち入り禁止にしたところの木を広く切らされた。

 根っこまでひき抜かされて、その後どうしたかなんてのは俺の知ったことじゃない!」


「どこら辺の木を切ったのか覚えているか?」


「も、もちろんだ。


 テーブルの上に地図が置いてある。

 その地図に赤く印が付けられたところだ。


 な、なあ!

 正直に全部話した……だから助けてくれ」


「……そうだな、命までは取らない」


「そ、そうか、じゃあ……」


「コユキ」


「ガ、ガキ……?


 お、おい……それをどうするつもりだ?」


 裁きは別でしっかりと受けるべき。

 だからここで殺すなんてことはしない。


 ただし、自由にするのもそれは違うだろう。

 情報が漏れてしまうことや町から逃げられでもしたら厄介である。


 男がふと見上げるとそこにコユキがいた。

 大きくフライパンを振り上げたその姿。


 子供らしからぬ冷たい目に背筋がゾクっとする。

 どうするつもりなのかは深く考えずとも分かるだろう。


「や、やめ……」


 ゴイン!


「い……」


「コユキもう一回!」


 コユキ、フライパンフルスイング。

 神聖力で自己強化したコユキの力は案外バカにできない。


 ただまあ顔面を広めにフライパンで殴って気絶させるのは難しい。

 1回2回では気絶しなかったデル。


「こ、の……人で……なし」


 都合5回。

 頭がめりこみ床板が割れるほどのフライパンアタックに死んだ方がマシだったのではとちょっとだけ思うが悪行に手を貸した自業自得である。


 さっさと意識手放せば早かったのに。

 殺しはしないが拘束はさせてもらう。


 みんなで協力してデルの体をひっくり返して手足を縛る。

 事件が終わるまでどれほどかかるか知らないけどこのままここで放置させてもらう。


 こちらだって閉じ込められて飯も与えられずに放置されていた人がいるのだからお互い様である。

 数日食わなくても死にゃしない。


 一応顔の側に歪んだフライパンに水を入れておいた。

 水が飲めれば長い時間も大丈夫。


 なんと優しいことだろう。

 そしてテーブルの上の地図を回収してリュードたちは酒臭い家から退却した。


 作戦大成功。

 リュードがひっそりとガリバー作戦などと呼んでいた小人化した人たちの総力と知恵が容易くデルを上回ったのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る