大きくなりたい1

 あの場でぶっ殺してやればよかったのにという意見の人もいた。

 でも好き勝手に相手を殺すようなマネをしては呪いを広めようとしている連中と程度が変わらなくなってしまう。


 簡単に殺してしまって終わりにするのもそれはそれで味気ない。

 生きて償うことも非常に重いものである。


「どう思う?」


「俺に聞かれても分かるはずがないだろ」


「ルフォンとラストはどうだ?」


「うーん……分かんない」


「ふっふっふっー!


 驚きなさいリュード、この私には分かりましたぁ!」


「おっ、本当か?」


 ルフォンは顎に手を当てて考えるがどうと聞かれても地図から何を汲み取ればいいのか分からない。

 対してラストは誇らしげに胸を張った。


 拠点に帰ってきてゆっくりと地図を眺める。

 地図は町周辺を簡素に描かれたもので町周辺数カ所に赤く丸で印がつけてある。


 その丸印の意味がなんなのかみんなで考えていた。

 前世的な知識に加えてこの世界の魔法の知識を持つリュードにはすぐにピンときていた。


 気づいてみればなんてことはないのだけど簡単に教えてもつまらないとちょっと聞いてみたのだ。


「私は気づいた……この印の配置には法則性があることに。


 森部分に印がつけてあるけどそれをみると一定の間隔が開いてる!


 そしてその法則をみるとこれは森以外にも印がありそう……いや、あるんじゃないかと!」


「ほぅ?」


 期待していなかったけれど期待できそうな答えが出てきそう。


「この森のところのいくつかの印を繋いでみると孤を描いているように見える……」


「なるほど……確かに!」


「だからこう法則に乗っ取って印がありそうなところをイメージしてみると町をグルリと囲んでいる!」


「お、おおっ!」


 ラストが地図の上をなぞって指を動かす。

 森の印を始まり自分の考える法則に則っていくとラストの指は町の外を一周して始まりの印に帰ってくる。


 印は森のある部分にしかつけてないがおそらく何かがあるのは森以外の部分にもあるのだろう。

 そうして怪しいところを繋いでいくと町を囲む大きな円となる。


 ラストの予想にみんなが驚きの声を上げる。


「どーよ、リュード!」


「うん、よく見抜いたな。


 流石ラストだ!」


「でしょ?


 …………ん」


 ルフォンには負けられない。

 けどラストは戦いにおいてはルフォンに1歩も2歩も劣っている。


 こうしたところでしっかりとアピールをして、ちょっとだけ大胆に行かねばならない。

 頬を赤くしてほんの少し頭をリュードの方に傾ける。


「……よしよし」


 恥ずかしいけどラストの頭を撫でてやる。

 出来る子は褒めてあげる。


 リュードとしてもラストの髪の毛はサラサラしていて触り心地もいい。

 ラストとしては褒められて嬉しい。


 そしてさらにはちゃんと考えられたり自分の意見をしっかりと言えることは褒めに繋がるとコユキに見せることにもなる。


「ただ100点ではないな」


「ええっ!?」


 褒めて撫でてくれたからてっきり満点だと思ったのにとラストが驚く。


「丸く町を囲むように配置してあることは多分予想通りだろう。


 ただそれだけじゃない。


 よく見てみろ、少しおかしくないか?」


「おかしい?」


「そう」


「…………なんだろ?」


「ここ!」


 地図を見つめていたコユキが地図を指した。


「えっと、ここがどうしたの?」


 それは町中だった。

 みんなからするとそれはなんの脈略もないように見えていた。


「正解だ」


「せ、正解?」


「わーい!」


「ちょっと待ってくれ。


 なんでいきなり町中を指差してそれが正解なんだ」


「見てください。


 確かに印を繋いでいくと町を丸く囲んでいますが綺麗に囲んでいるとは言いがたくないですか?」


「むむ……確かに」


 丸く町を囲んでいる印。

 しかしその丸をよく観察してみると町の真ん中を中心としての丸ではない。


 やや町をずれたような丸。

 その中心はコユキが指差した場所だった。


「町の中心と丸の中心は一致しない。


 こういった時は町の中心を丸の中心とするのが普通だけどズレてるんだ。


 コユキ賢いな!」


「ふふん!」


 ラストと同じく胸を張るコユキ。

 こうして大人が雁首揃える中でパッとこのことを気づけたのだから本当に賢い。


「いい子!」


「はいはい、いい子だな」


 撫でを欲しがったコユキがリュードを頭に乗せる。

 どちらかといえば動物にも近いフワフワとしたコユキの頭も気持ちがいい。


 コユキにすればと小さい手で頭を撫でてやる。

 物足りないだろうけどコユキは満足そう。


 2人に出遅れたルフォンが悔しそうな顔をしている。


「さらにさらにだ。


 ここはなんだ?」


「なんだって……あっ!」


「そうだ、ここは元領主の館だ」


 丸の中心にあるものは元領主の館であった。

 全てが繋がっていく。


 デルの口からはカイーダが主犯だとされ、カイーダがいるとされる元領主の館を中心にして怪しい印がつけられた地図がある。

 さらに元領主の館にはたくさんの人が捕らえられていた。


「やっぱりあの館には何かがあるのかもしれないな」


「それじゃまたあそこにいくのか?」


「……いえ、まずは他から攻めていきましょう。


 前に探った感じでは小人だけであそこをうろついても何か見つけるのは難しく、危険が大きすぎます」


「別?


 別って何、リューちゃん?」


「どこだと思う?」


「印!」


「あっ、コユキズルい!」


 ルフォンも何かの正解を出して褒められたかったのだけどコユキの方が頭は回るみたいだ。

 ルフォンが褒められる正解を出せそうにはなかった。


 ーーーーー


 魔法を使う際の技術には単純に魔力を使った魔法の他に方法として魔法陣を使ったものがある。

 一部を除いて今も昔も一般的な方法ではないが真魔大戦の時には強い魔法を安定的に発動させるために用いられていた。


 魔法陣といっても例えば漫画などで見かけるような複雑な模様のものから自然物や魔力を込めたものを配置したもの、複数人で隊列を組んで発動させるものでも魔法陣と言われるものがある。

 リュードはこうして円形に印が配置されているのを見て真っ先に魔法陣を思い出した。


 呪術も大きく分類すると魔法であり、魔法と似通っているところもある。

 設置型の呪いだとしたらそれは魔法陣的な知識も応用できると思った。


 なぜリュードが魔法陣について知識があるかというとリュードも魔法陣に関わっているからだ。

 魔石に魔法を刻む技術は魔法陣の技術を応用して作られたものだ。


 今は魔法陣技術そのものはあまり見られないがこうした他の場所で見られたりするのだ。

 ヴェルデガーは魔石に魔法を刻む技術をより深く知ろうとしたときに魔法陣技術についても知るために書物などを集めていた。


 魔石をに魔法を刻む技術を習うときにヴェルデガーから魔法陣についてもある程度リュードは習っていた。

 体を鍛えるとき以外の時間は本を読み漁っていたリュードは魔法陣に関する本も読んでいた。


 今後使うこともない知識だと思っていたけどこんなところで役立つとは意外なものだ。


「えーと、ここら辺だな」


 魔法陣で扱える魔法には強力なものも多い。

 その対処として考えられるのはまず逃げることだ。


 魔法陣は設置する都合上射程距離に限界があったり魔法陣の移動も難しい。

 けれど逃げられない場合だってある。


 そうしたときには対抗することになるのだけど魔法陣の魔法にそのまま対抗するなんて普通はできない。

 だったらどうするか。


 破壊するのである。


 魔法陣は魔力が少なく、しかも魔法知識のない人でも魔法陣があれば魔法が使えれば便利であるがデメリットもある。

 魔法陣では魔法陣で用意した魔法しか使えない。


 魔法陣を設置するには知識がいる。

 魔法によっては高い素材などが必要になるなど簡単にはいかない。


 中でも厄介な問題としては魔法陣は意外と繊細なのだ。

 緻密なものであればあるほど繊細であってちょっとしたことで不安定になったり破壊されてしまう。


 ほんのちょっと魔法陣の線が消えただけでまほうがいじできなくなることもある。

 リュードは考えた。


 この印が魔法陣を構成している何かを置いている場所であり、それを破壊なり除去すれば魔法陣を破壊できるのではないかと。

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