侵入調査4
「おっ、準備してあるな」
信じてるとは言いながらもウルウルした目で窓からリュードを見るニャロから後ろ髪引かれる思いがありながらも離れる。
みんなを引き連れて塀の方に向かう。
すっかり塀を越えることを忘れていたサンジェル。
サンジェルだって登るのでいっぱいいっぱいだった。
一般人でしかも体力は衰えている。
体力が充実していても厳しいかもしれないのにこのような状態では到底登れないと思った。
しかしそこはリュードが考えていた。
ニャロたちがまず館からの脱出を図っている間にリュードは塀の方に向かっていた。
ツタを登って外で隠れて待機していたルフォンたちに何をするつもりなのか伝えて用意をしてもらっていたのである。
塀に来てみるとそこにリュードたちを乗せていたカバンが落ちている。
肩紐にはロープが繋いであって塀の向こうに伸びている。
ニャロにお願いしたやり方を参考に同じくエレベーター方式でみんなを運ぶつもりだった。
コユキたちは走って一度拠点に帰ってロープを持ってきた。
それをカバンの肩紐に括り付けて塀の向こうにコユキが投げ入れた。
忍び返しという塀の上にある金属製の返しにぶつかって中々入らなかったけど3回目のトライでなんとか中にカバンが入った。
「皆さん乗ってください」
カバンに人々が乗り込む間にリュードはツタを登って塀の上に行く。
何回か登っていると慣れてきて登るスピードも速くなった。
一回じゃ全員は入り切らない。
あまりカバンに人を詰め込みすぎても危険なのでそれなりに入ったところで切り上げる。
リュードは手を振ってコユキに合図を出す。
コユキがゆっくりとロープを引っ張る。
Gがかかりすぎたり引っかかって逆さにならないように注意しながらみんなで補助する。
「ストーップ!
ちょっと待って!」
そうして塀の上までカバンは引き上げられる。
しかしこのまま引っ張っていくとカバンは返しに引っかかるし、無理に引き抜けば塀の外に真っ逆さまに落ちていってしまう。
「そのまま張っておいてくれ!」
引きすぎないぐらいでロープを張った状態を保ってもらう。
今カバンは紐だけが返しの隙間を抜けている状態である。
リュードたちは協力してカバンを引き上げて隣の隙間にカバンを押し込んで通す。
こうすれば返しに紐やロープが引っかかって下まで安全に下ろすことができる。
「よし……よーし!」
第一陣は上手く下ろすことができた。
中からみんながぞろぞろと出てくる。
時間はかかるが確実に安全な方法でみんなを出すことができる。
ロープを放して引き抜いてコユキがカバンを投げ入れる。
もう慣れたもんで1発で塀の返しの上も越えてきた。
そうした作業を繰り返して町の人たちを塀の外に出していく。
どうにか日が落ちて帰宅ラッシュになる前に作業を終えることができた。
町の人たちはサンジェルに任せてリュードたちはまた別のところに向かった。
それはリュードたちが泊まっていた宿である。
受付でボーッと虚空を見つめる宿の主人はコユキが隠れるように中に入ってきてもなんの反応も見せない。
部屋に行ってみるとやはりリュードたちの荷物には手がつけられておらずそのまま残されていた。
全ての荷物をコユキ1人では持っていけない。
心配ではあるけどこのまま残していくしかない。
今回は目的のものがあってここにきた。
マジックボックスの魔法がかけられた袋を二つほど持ってコユキは宿を出て拠点に戻る。
サンジェルたちの方も特に見つかることもなく拠点に戻ってくることが出来ていた。
かなりの人数を助け出すことに成功したがその代わりに大きな問題を抱えることになった。
それは食糧問題である。
ついでに場所問題もある。
これだけの人数が集まると広めの家でも場所が足りない。
拠点も塀で囲まれた家なので庭スペースまで使えば何とかみんなを収容できた。
雨が降るとかなり厳しいが今のところは差し迫った問題ではない。
問題なのは食糧の方である。
これまではなんとか手の届く範囲のもので食い繋いでいたような状態。
食べ物に実は余裕がなく、さらに助け出したみんなも捕らえられてから食べ物を与えられていない。
しかしみんなが満足できるような食糧をどこからか調達してくるのも難しい。
そこでリュードたちは危険を冒して宿まで行ったのである。
持ってきた袋、それはリュードたちの食糧が入った袋であった。
コユキが手を突っ込んでパンを取り出す。
通常サイズのパン。
人が普通サイズだったら袋の中のものを全部出しても到底足りないけれど今はみんな小人化している。
通常サイズのパンでも多くの人の胃袋を満たすことができる。
チーズや干し肉なども取り出して細かく刻んでみんなに渡す。
「良いパンだな。
……何もかも世話になりっぱなし」
「パンなんかまた買えば良いんです。
大事なのは人の命です」
「若いのにできやがる……モテるのも当然だな」
「ありがとうございます」
細かく分けてみんなに渡してみるとパン一個でも意外な人数を養える。
なので今ある分だけでも数日は持ちそうだった。
「しかしあそこにいたのも全員じゃない。
まだ他にも捕らえている場所があるのかもしれないな」
とりあえず助け出した。
こうして落ち着いて確認してみるとここにいるのは町の9割ほどの人だった。
チラホラといない顔もいるらしい。
ほとんど助け出せたとは評価していいが足りない人たちはどこにいるのか。
「それにあそこにいたのがホルドの方だったとはな……」
「ホルドを追跡していた人と入れ違いになってしまいましたからね」
ホルドを追跡していた人たちはホルドが元領主の館にはいるところまで追跡していた。
そこから動きがないことを確認して報告のために拠点に戻ってきていたのだけどちょうどそれで入れ違いになってしまっていた。
「お楽しみ女性も全員小人になっていたしな」
ホルドがお楽しみだった女性は小人化して、囚われていたことを確認した。
助け出してここにいるし、あの部屋にいた等身大の女性たちは偽物だと思われる。
町の人も小人化しているのと街中を歩いているのがいて町中を闊歩している虚ろな目をした人々は全て偽物のようだった。
「ホルドが犯人なのか?
だがカイーダは……」
偽物の人たちをはべらかしていたホルド。
状況を見ると犯人のように見える。
けれどみんなはどうにもこの事件が単独犯ではないような気がしていた。
コーディーやデルの不自然な金のこともある。
カイーダがいたと思われる屋敷にホルドがいた。
全部繋がっているのではないか。
コーディーもデルもカイーダもホルドも繋がっていて主犯はいるにしても、残りは全員共犯なのではないかと思い始めていた。
そうではあるが何も確証めいたことは分かっていない。
「……じゃあ1人倒してみませんか?」
思ったほど人を追いかけ回すだけじゃ成果が上がらない。
話し合いも行き詰まって閉塞感が出てきてしまっている。
思い切った提案だけどこの状況を打開するためにはもう直接聞くしかないのではないかとリュードは思った。
流石に大人相手じゃコユキでも敵わないが小さくても作戦と人数がいれば素人の1人ぐらい倒すことはできるはずだ。
「作戦はこうです……」
リュードが考えていた作戦を口にする。
「どの道俺たちに残された選択肢もない。
調べて何か分かったところでどこかで直接対決をする必要はあっただろう。
俺はシューナリュードの作戦に乗ってみるつもりだ。
みんなはどうする?」
サンジェルはリュードの作戦に勝機を感じた。
やるしかないのならみんなを助け出して士気の高い今のうちだ。
みんなのリーダーであるサンジェルが同意してくれたことで自然とみんなも覚悟を決めていた。
「決行は明日。
俺たちの力を見せてやろう!」
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