侵入調査2

 そこまでどうやっていくか問題は発生するけれど出入り口となりそうな場所はとりあえずは見つかった。


「どうだった?


 こっちはダメだ」


 反対側を回ってきたメンバーと合流する。

 残念ながら反対側には入れそうな場所は見受けられなかった。


「こないだの嵐だろうな」


 手入れはされているのでもし窓の穴が見つかっていれば何かで塞ぐはず。

 最後の定期的な手入れが入った後の穴だろうとサンジェルは言う。


 他に入れそうな場所がない以上は窓の穴が唯一の侵入ルートになる。


「ただあそこまでどうやって登る?」


 コユキがいればリュードたちを乗せることぐらいは出来るかもしれない高さ。

 リュードたちのみでは到底届きはしない。


「ここは知恵で勝負でしょ」


 人がここまで発展してきたのは知恵を生かしてきたからだ。

 ここで手が届かぬからと諦めずに何か使えるものはないかと庭を見回す。


「うーん……あっ!」


「おっ、何か思いついたのか?」


 考えるのは苦手だとサンジェルは半ば諦めていた。

 腕を組んで考えるリュードに期待してサンジェルも考えるような素振りだけはしていた。


「表の玄関脇にホウキが立てかけてありましたよね」


「んー?


 そういやそんなの……あったかな?」


「それを使いましょう。


 ここまで持ってきて立てかけて、登る道にしましょう」


「なるほどね。


 面白そうだ」


 我ながらナイスアイデアだとリュードは思う。

 上手くいく自信もあるしダメ元で試してみてもいい。


「本当にあった。


 よく覚えてんなぁ」


 玄関の横に大きなホウキが立てかけてある。

 塀の内側の葉っぱなどを掃いて掃除するためのものだろう。


 外に放置されているので多少劣化はしているがリュードたちが乗ったところで壊れはしないだろう。


「そっち倒すぞー!」


 小人にされたリュードたちにとってホウキといえど軽いものじゃない。

 まずはホウキを横倒しにする。


 このサイズだと倒れるホウキの勢いだけでも致命傷になりそうだ。


「いくぞ!


 せーの!」


 みんなで担いでホウキを持ち上げる。

 力に自信のある警備隊の人が多くてなんとかホウキは持ち上がった。


 ホウキを家の裏側にある破れた窓のところまで持ってきた。

 そしてみんなで協力して今度はホウキを立てる。


「もうちょい左だー!」


「行き過ぎ!」


 上手く窓枠に引っ掛けないとホウキが倒れてきてしまう。

 フラフラと何回か試行してようやくホウキがぐらつくことなく窓に立てかけられた。


「リュード、頼めるか?」


「はい、任せてください」


 1番最初に登るのはリュード。

 言い出しっぺだしツタの時も登るのが1番上手かった。


 リュードがいければ他もいける。

 滑り止めの粉とか欲しいところだけど贅沢も言ってられない。


 リュードはホウキを登り始める。

 ここに来てホウキが劣化していることが追い風となる。


 木製の持ち手の表面が劣化してザラザラしている。

 滑りが悪く登りやすい。


 斜めに倒してかけられたホウキを半分登り、半分駆け上がるようにリュードは上がっていく。


「すっげえなぁ……」


 あっという間に登るリュード。

 ちょっとは休憩できるかと思ったけど自分の番が来るのは早そうだとサンジェルは呆けたように登っていくリュードを見ていた。


「到着!」


 垂直じゃない分ツタよりも楽だった。


「みなさーん、いけますよー!」


 リュードは上からみんなに手を振って無事に着いたことを知らせる。

 それを見てみんなも登り始めるけれどリュードのようにするすると登れる人はいない。


 ツタの時もそうだけどリュードがやっているのを見るとあんなに軽々とやっているのにどうしてとみんな思わざるを得なかった。

 今度はコユキの助けも癒しもない。


 落ちるわけにもいかず必死に登ってきたみんなは命懸けのクライミングにだいぶ体力を消耗していた。


「降りるならアレ使えるんじゃないか?」


「そうですね」


「おい、アレを出せ」


 警備隊の1人が背負っていた布の中からロープを取り出した。

 布を細くちぎって結んだお手製ロープである。


 拠点にしている屋敷にあったシーツをコユキがナイフで細く裂いて作ったものだった。

 リュードたちはそれをホウキに縛り付けて室内に垂らす。


 長さは十分で床にちゃんと届いていた。


「侵入成功!」


 偵察にリュードが降りる。

 窓から見る限り部屋に誰もいないことは確認済みだけど万が一の場合を考えて1番身軽なリュードがいく。


 床にも特に問題もないのでみんな降りる。

 部屋のドアは換気や埃がたまりにくいようにするために開けっぱなしになっていてリュードたちは運が良かった。


 顔を出してみるとどの部屋もドアは開いていて人の気配はない。


「……声が聞こえるな」


「なに?


 どこからだ?」


「えっと……」


 真人族に混じればリュードも聴覚が良い方に入る。

 小さく声が聞こえることに気がついた。


 他の人は聞こえないらしく、しんとする中で声に耳を傾けるリュード。


「…………にゃ」


「にゃ?


 ……これは!」


 ちょうどリュードたちがいるところと屋敷の反対側から声が聞こえる。

 走り出したリュードにみんな不思議そうについていく。


「泣いちゃダメにゃ!


 きっと私の仲間がなんとかしてくれるにゃ!」


 ドアに耳をつけて集中すると中からまた声がした。

 その声、その語尾、ニャロであった。


「みんな、他の人が来ないか見張っててくれないか」


「分かった」


「ニャロ、聞こえるか!」


 強くドアを叩いて声をかける。

 小人だとどうしても声量が小さいので出来る限り大きく声を出す。


 ピクリとミミを反応させたニャロ。

 ニャロも獣人族なので聴覚は優れている。


「リュ、リュード!?


 リュードにゃ!」


「そうだ!


 無事なのか!」


「こっちは大丈夫にゃ!


 リュードの方は大丈夫にゃ?」


「こっちもみんな無事だ。


 町の異変に気づいた小人化した人とも合流して今動いているんだ」


 ドア越しに始まる会話。

 ひとまずニャロが無事そうで安心する。


「このドアは開けられないのか?」


「外から鍵がかかっているみたいで開けられないにゃ」


「そうか……


 じゃあ窓とかはないのか?」


「あるけど格子が嵌められてて出られないにゃ。


 ここにいる小人にされた人たちなら出られるかもしれないにゃ」


「格子……


 それに他に人がいるのか?」


「うん、ここには小人化されて囚われた町の人たちがいるにゃ!」


「なんだって!」


「なんだと!」


「にゃ、誰にゃ?」


「ああ、今言ってた異変に気づいて逃げられた人だよ。


 サンジェルさんって言うんだ」


「すまない……俺はサンジェルというものだ。


 本当にそこに町のみんながいるのか?」


 横で聞いていたサンジェルも思わず会話に入ってしまった。

 行方がわからなくなっていた町のみんながいたというのだから当然だろう。


 これでサンジェルたちだけでない町の人々が入れ替わっている説もいよいよ濃厚である。


「みんなかどうかは分からないけど結構な人数がいるにゃ!」


「みんなは無事か?


 ケガしているものとかはいないのか?」


「体のケガはないけど状況が良くないにゃ。


 あいつら私たちを閉じ込めてから様子も見にこないにゃ。


 だからご飯もなければおトイレだって部屋の中でするしかない……精神的にも肉体的にも限界にゃ」


 ニャロはまだ連れてこられて時間が経っていないから耐えられるが最初の頃の人なんかはもうギリギリだった。

 ニャロが聞いた話では当初はご飯なんかも運ばれていたらしいが今は完全に放置。


 部屋の隅で排泄するのももう耐えかねている。

 それにせめて水ぐらいあればいいのにと思う。


「……格子は小人化した人なら通れるんだな?」


「いけるにゃ」


「窓は壊せそうか?」


「それは問題ないにゃ」


「じゃあ窓からみんなを助け出そう」


 ニャロには悪いが小人化した人なら助け出せるというなら先に助け出してしまおうとリュードは考えた。

 このまま放ってはおけない。

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