侵入調査1
「門が閉じているな……」
一晩経ってリュードたちはカイーダの調査のために元領主の館を訪れた。
警備隊の人がカイーダを見かけた時には門は開いていたけれど今は閉ざされている。
格子状の門なら小さいリュードは入ることが出来るが格子状の門ではないので隙間から中に入ることはできない。
リュードもカバンから顔を出して周りの様子を伺う。
元領主の館は高めの塀に囲まれている。
多少古くなって劣化はしているがまだまだ頑丈さはあって壊れそうにはない。
グルリと周りを一周してみるけれど入れそうな穴すらない。
「昨日は女性が来るから開けていたのかな?」
「かもしんないな。
意外と警戒心が高いな」
「ホルドの方もまだ連絡はないしいるにしてもいないにしてもこの館は調査したいところだが……」
いない、あるいは見間違いなどならそれはそれでもいい。
いるにしてもいないにしても調査は必要だ。
そのためには中に入るのが手っ取り早い。
「うーん……とりあえず俺たちだけなら中に入れるかもしれませんよ」
「ほんとうか?
ぜひ聞かせてほしい」
「アレです」
「アレ?」
リュードは塀を指差した。
それが何を意味するのかわからなくてサンジェルは首を傾げた。
ただの塀ではないかと思う。
コユキでは到底登ることは不可能だ。
「よく見てください。
壁にツタが走っています。
しばらく手入れされていないからでしょうね」
元領主が館を手放してからだいぶ時間が経っている。
手入れしているとはいっても塀まで細かく掃除することなんてしない。
時間が経ってそれなりに太めのツタが塀に伸びていた。
「それがどうした?」
全部片付けるには厄介なくらい伸びているツタ。
掃除するのが面倒なくらい太いというだけで引っ張ればそれほど力を入れなくても取れてしまうとサンジェルは思った。
しかしそれは体が大きい普通サイズの時の話だ。
今リュードたちの体は小さい。
「俺たちは今結構小さくありません?」
「……まさか」
ようやくサンジェルも気がついた。
「あのツタを登るんです。
コユキはちょっと無理ですがとりあえず塀の内側にはいけると思います」
その先に問題は山積しているけどとりあえず試すだけ試してみたってバチは当たらない。
コユキ中心に動くことは必要だけどいざという時には自分たちだけでもなんとかせねばならない。
小さくなったリュードたちにとってこのツタは立派な道になりうる。
「チャレンジしてみても良さそうだな」
ということでツタ登りに挑戦することにした。
「ルフォン、ラスト、コユキを頼むぞ」
「うん」
「まっかせなさい!」
そうなるとコユキは連れていけない。
万が一のためにルフォンとラストにコユキをお願いする。
何かがあったら町を出て他に助けを求めてもらうつもりだ。
どこか教会にでも辿り着ければ聖職者たちの協力は得られるはずである。
「パパ、頑張って!」
「おうよ!」
「頑張ってね、パパ」
「無事に帰ってきてね、おとーさん」
「2人まで……まあ、サクッと行ってくるよ」
コユキの手に乗ってある程度の高さからスタートする。
「ほっと」
先陣を切るのはリュード。
ぱっと見は太いツタに目が行きがちだけどよくよくみると太いツタからも伸びるように細かいツタが広がっている。
ツタそのものの表面もザラザラとしていて掴みやすくクライミングするのにとてもやりやすい。
ツタが剥がれないか心配だったけれどリュードが乗ったぐらいではびくともしない。
ひょいひょいと登っていく。
村育ちのリュード。
村の周りは木ばかりだったので木登りなんてこともよくやっていた。
木に登ることに比べればこれぐらい簡単である。
「よいしょっと」
あっという間に上まで登り切ったリュード。
不謹慎ながら良い運動だったと思ってしまった。
チラリと下を確認すると他の人たちも登り始めている。
けれど普通に生きてきてこんな風に登る機会なんてないはずでみんな苦戦している。
手足のかけ方や体重の移動など不慣れで遅い。
「サンジェルさん、足はもうちょい右……そう!
腕だけじゃなくてもっと足を使って体を上げて……
あっ、危ない!」
上からアドバイスする。
サンジェルなんかはまだ良いが無理に登ろうとしてツタを掴み損ねて落ちる人までいた。
下で待機するコユキがうまくキャッチしてくれたから良かったものの命綱もないので一歩間違えれば大事故である。
「はぁ……はぁ……シューナリュードはすごいな……」
2番目に登ってきたのはサンジェル。
リュードのアドバイスを聞いて丁寧に登ってきてそれでいながら速度も速かった。
リュードがスルスルと登っていくものだから楽だろうと思っていたがやってみるとあんな風に登ることなんて出来ない。
「おっ?」
「ムンっ!」
「これはコユキちゃんか」
サンジェルの体がふわりと軽くなる。
コユキが下から神聖力を飛ばしてサンジェルの体を癒してくれる。
すぐさま疲労が和らいでいってパンパンだった手足が楽になる。
「こりゃすごい!
聖者のタマゴというのも納得だな」
他の人は登るのにまだ時間がかかりそうだ。
リュードは一度アドバイスをやめて屋敷の方を確認する。
塀の中に人影はない。
見える屋敷にも人のいる様子はない。
「降りられはしそうだな」
ツタはそのまま塀の反対側にも伸びていっていた。
下までしっかり伸びているので帰りも塀を登ってくることはできそうだ。
ひとまず塀の内側に入ることに対しては障害はない。
「こういう訓練も必要かもな……」
何とかみんな登ってきた。
コユキに治療してもらい、息を整えて、今度は降りるのにチャレンジである。
降りるのは太めのツタを伝って滑り降りるようにして下まで向かった。
ちょっとだけ楽しいと思ったのは秘密だ。
「いてて……何とか下まで降りられたな」
ツタを滑り降りる勢いがつきすぎて飛び出して地面を転がったサンジェル。
上手く自分でスピードをコントロール出来ていない。
2組に分かれて屋敷の周りを回って入れそうな場所がないかと探す。
玄関も閉まっていたのでどこか探すしかない。
「しかしよ、シューナリュード」
「なんですか?」
「ありゃ、どっちの子だ?」
「へっ?」
「ミミなんか見りゃルフォンちゃんだけど髪色を見るとラストちゃんだ。
どっちのこともママと呼んでるし……どうであれ実の母は1人だろ?
どっちの子なのかみんな気になってるんだ」
突然ぶち込まれた質問。
もう触れられない話題と思っていたのに普通に聞いてきた。
「あの子は実は俺の子でも2人の子でもないんですよ」
「はぁっ?
それってどういう……」
「あの子には両親がいないんです……」
「あっ……」
少し悲しげな表情を浮かべてみるリュード。
みんなが言葉と様子から事情を押しはかるのはすぐだった。
あまり深く触れちゃいけないことだった。
子連れで旅をしているのにまさか自分の子でもないなどと考えもしなかった。
それになんとなくリュードやルフォンやラストにも似ているような気もしていた。
「すまない……そうとは知らず」
ちょっと悪い気はするが深い事情がありそう風を装っておけば踏み込んでくる人もいない。
あながちウソでもない話だし。
間違いでなくともぼんやりとした情報を与えて悲しげな表情を浮かべておけば人は勝手にストーリーを想像してくれるのだ。
この世界において両親が何かの事情でということは時々あることだ。
リュードやルフォンは見た目獣人族なので両親のいない獣人族の子と関係があってもおかしくない。
サンジェルはもうコユキに同情し始めていた。
「あそこはどうだ?」
「届きゃ入れそうだな」
警備隊の1人が窓が割れていることを見つけた。
何かがぶつかったのか角のところがリュードたちが通れそうなほどの大きさに割れていた。
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