呪いの容疑者を調査せよ3

 先ほど名前が挙がったうちの1人であるコーディー。

 祖父の代から肉屋を営んでいる。


 父親の代までは真面目な人だったがコーディーはあまり人となりが良くない。

 家業で長くやっているので食うには困らないが休みはなく贅沢できるほどの稼ぎはない。


 普段から文句も言いながら働いているコーディーは小人化した人々の中にはいなかった。

 それどころか町中を調べた限りコーディーは相変わらず文句を言いながら働いている。


 特に周りのことを疑問にも思わないのか、それとも何か知っているのか。

 どっちにしろ調べてみる。


 今の時間帯なら肉屋の店舗の方で文句を言いながら働いているので別にある家の方は空いている。

 サンジェルのナビで人目避けて人通りのない路地を進んで移動する。


 コユキはちょっと気をつけて歩いてくれたけど揺れぐらいはそんなに変わらず快適とはいかない。


「こ、ここがコーディーの……ウプッ!」


 リュードは何とか大丈夫だったけどサンジェルは揺れに完全に酔っていた。


「つ、ついた……?」


「大丈夫かルフォン?」


 ルフォンも死にかけていた。

 何とか戻すところまでは耐えたけれど口を押さえて顔が青くなっている。


「よしよし〜」


「ラストあんがとう……」


 ラストがルフォンの背中をさする。

 リュードですら若干酔っているのにラストは全く平気だった。


 意外な強さである。


「ふむ……ダメか」


 コユキが表の玄関をガチャガチャしてみるが開かない。

 こんな状況でも鍵はしっかりかけていっている。


「どうしようか……」


 コユキに出来るかは別としてドアを破壊なんてすればバレバレになってしまう。

 古い家なので鍵もそんなにいいものでもなさそうなので多少の技術があればピッキングも出来そうだけどこれもコユキじゃ厳しい。


「窓でも開いてないか見てみましょう。


 コユキ頼むぞ」


「うん」


 コユキは玄関を諦めて家の横に回り込む。

 家そのものが安い作りで窓もガラス窓ではなく木製の格子窓だった。


 コユキが背伸びして手を伸ばして窓を掴んで揺する。

 開かない。


「おっ、当たりだ!」


 家の裏手にある窓を引っ張ってみるとスッと開いた。

 鍵をかけ忘れていたみたいだ。


 コユキが入るには窓の位置はちょっと高い。

 ちょっと周りを見渡してみると庭道具を入れておく箱が置いてあった。


 それを引きずってきて窓の横に置く。

 コユキが箱に乗って窓枠に手をかけて中に入る。


「ほっ!」


「おわっ!」


 上手く着地したコユキ。

 衝撃でカバンの中がまた大きく揺れる。


「ルフォン、休んでろ」


「うぅ……ごめんね」


 限界だったルフォン。

 フラフラとカバンから降りてグッタリと床に寝転ぶ。


「ラスト、頼んだぞ」


「そだね」


 ラストがルフォンに膝枕して面倒を見てくれることになったのでその間にみんなで家の中を探索する。

 散らかっていていかにもな一人暮らしの男の家。


 ただの一人暮らしだけでなく生臭い肉の臭いが家に染み付いている。


「今のコンディションにこれはキツイな……」


 コーディーの寝室。

 中年の男の臭いと肉の臭いがしていて酔っているみんなにとってはかなり辛い。


「あっ、おい!


 これ見てみろよ!」


 ベッド横のテーブルの上に大きめの袋が置いてあった。

 何かと開けてみてみたら何とびっくり中身はぎっしりと詰まったお金だった。


 金貨のような高額貨幣はないが日頃から稼ぎが少ないと文句が言っている男が持っているような金額ではない。

 ちょっと前までずっと文句を言っていたのにどこからこんなお金が出てきたのか。


「節約したってこんな金貯めらんないぜ」


「それにあいつよく飲みにも行ってんのにどこでこんなの貯めんだよ?」


「……怪しい金だな」


 毎日飲み屋で愚痴っている安給料の肉屋がこんなお金を貯められるはずが無い。

 節約しているようにも見えないしどう見ても出所不明なお金である。


 だが出所不明ということはそれが悪いお金であることも証明はできない。

 怪しいお金以外に怪しいものはない。


 呪いに使いそうなものや関連書物もない。

 お金しかないというのも変な話だけど探してみても呪いに関わっているような証拠は出てこなかった。


 そんなに広い家じゃない。

 何かが隠されているようなところもない。


「うーん……次は木こりのデルのところに行ってみようか」


 これ以上探しても何も出ないと判断した。

 コーディーの家を出る。


 玄関の鍵を開けて出て行く。

 鍵は閉められないけど金に手をつけなきゃ侵入者がいたというより鍵のかけ忘れを疑うだろう。


「デルも昼間なら仕事でいないはずだ。


 あいつの家もそんなに遠くない」


 ここらは町の外側に近い住宅地。

 そこからさらに外側。


 ほとんど町の外と言えるところに木こりであるデルの家がある。

 デルの家はコーディーの家よりさらにボロくて小さい。


 家というよりも小屋。

 こちらは警戒心も薄いのか玄関の鍵も開いていた。


 簡単には入れたが見渡すほどの広さしかないような家なので探す手間も大きくない。


「この家にも金か……」


 デルの家にも隠すこともなくお金が置いてあった。

 コーディーのところと同じで細かい貨幣が多い。


 金額的にはコーディーより少ないが床に転がる酒瓶を見ると高そうなのもあるのでいくらかは使っていそうだ。


 これ以上探しても何も出てこない。

 一度拠点に帰る。


 家は大きくなくても子供と小さい人では探すのも一苦労。

 自然と時間もかかるし体力も使う。


 戻ってくる可能性もあるので早めに見切りをつけて戻るのだ。


「……やはりコーディーとデルは怪しいな」


 小人にならずそのまま働き続けている2人が出所不明のお金を持っている。

 どう考えても2人から捻出できる金額でもない。


 事件が起きる前の言動も相まって黒に近いグレーには思える。

 けれどもただ小金を持っているだけなので呪いとの関係性はわからない。


 人々が無気力で日常的な行動しかしないのなら泥棒もしやすいからそんな可能性もある。

 呪いではなくても良くないことに手を染めてはいそうだ。


 そもそも町ごと呪いにかけるなんてことは難しい行為。

 単独犯で行うのはハードルが高すぎる。


 そう考えるともしかしたらコーディーやデルは協力者であることもあり得ない話でもない。


「先生……」


「ニャロが心配か?」


 日が落ちてきた。

 その日のうちにニャロを助け出すことが出来なかった。


「ニャロ?


 他にも仲間がいるのか?」


「ああ、もう1人仲間がいるんだ。


 聖者で小さくならなかったんだが他の連中に連れて行かれてしまったんだ」


「なんと……もう1人聖者がいたなんて……


 もし助け出せたら大きな戦力になってくれそうだな」


 リュードとしても悩ましい問題である。

 ニャロが無事なのか、どこに囚われているのかとかそうだしあの話の通じなさそうな偽物の人がニャロに配慮なんてしてくれなさそうだから今だってお腹空かせていないかなとかも思う。


 そうしていると何人かの小人が帰ってくる。

 町の様子を監視するために町に散らばっていた警備隊の人々である。


「カイーダの居場所が分かったぞ!」


「なんだと!


 どこだ!」


 ろくでなしなどと呼ばれていた男のカイーダ。

 元々町中をふらついているような男なので姿が見えなくても不思議ではなく、姿を見かけたことがあるとかないとか朧げな情報しかなかった。


 ただ家には帰っておらず特定の決まった行動を取っているとも確認されていなかったので要注意人物だった。

 そして呪いだと思われる今ではカイーダが呪ってやるなんて言っていたのを聞いたことがある人もいた。


 噂に聞くカイーダは性格が悪く陰湿で定職にもついていなかった。

 両親の遺産を食い潰して生きているらしく、両親が生きている時は問題ばかり起こしている男だった。


 父親が亡くなってからは大人しくなったと思っていた。

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