呪いの容疑者を調査せよ1
コユキのスパイ大作戦ばりにズバズバと動く。
フードを深くかぶって影から影へと移動する。
なるべく隠れて素早く移動するコユキ。
町中に出ることの不安はあったけれどボッーと前を見つめて歩く人々の目を避けることは意外に容易く、なんなら視界に写っている気がするけど何もしてこない。
だから見てるのかも怪しくはあるけど見えてるとは思う。
追いかけ回されることも想定していたけどコユキが勇気を出して横に出てみても全く反応しなかった。
何もされないことにほっとするけど目立つ白い少女がいても誰も視線を向けないことはやはり異常である。
「さて……どうするか……」
襲われないのはいいが正常な人もいない。
助けを求めるなんてことも当然に出来ない。
呪いの知識がないので呪いの根源をどう探せば良いのかも分からない。
見当も付けられないのでいざ町中に出ても立ち往生。
ニャロを探そうにもニャロの連れて行かれた場所も不明である。
場所が分かったとしてだ、複数の成人男性相手にしてコユキでは敵わない。
ニャロを助け出すのすら難しい問題である。
この際ニャロには悪いが耐え忍んでもらって町を脱出してよそに助けを求めることも考える必要がある。
だがリュードたちが前にいた町から考えるとかなりここから距離がある。
次の町までも地図上では距離があったしコユキの足ではどれだけかかるか。
その上次の町も正常な保証も微塵もないのだ。
どうするにしても情報がなく動くに動けない。
こんなピンチ初めてだとリュードは悩む。
「おーい!」
「ん?」
「おーい、こっちだ!」
どこからか声をかけられた。
どこだろうと周りを見てみるが声の主は見当たらない。
「こっちだ、こっち。
下だ!」
「下?」
キョロキョロしていたリュードたちが一斉に下を見る。
少し先の路地の曲がり角から上半身だけを出して男性が手を振っていた。
そのサイズはリュードたちと同じく小さかった。
その男に近づいて角を曲がってみると同じミニサイズな男たちが数人そこにいた。
「あんたら一体何者だい?
それにその子は……」
「人にそういうこと聞くならまず自分からではありませんか?」
「おお、そうだな。
俺はサンジェルだ。
この町の警備隊の隊長を任されているものだ」
角から顔を出して手を振っていた髭面の男がサンジェル。
リュードたちも地面に下ろしてもらって自己紹介する。
警戒したけど敵ではなさそうだ。
「俺はシューナリュード。
こちらはルフォンとラストです。
旅のものです。
一体この町で何が起きているんですか?」
町の人なら何か分かるだろうとリュードは期待したがサンジェルは首を横に振る。
「何が起きたのか……分かっていない。
こちらが聞きたいぐらいでな。
こんなところで話すのも危険かもしれない。
場所を移動しないか?」
とある家。
しばらく空き家となっている少し大きめな家を囲む塀にの門は鍵がかかっていない。
古くなっているせいか滑りは悪いけどコユキでも開けられた。
裏口は少し開いていてみんなここから出入りしていたらしい。
家に入ってみると意外とたくさんの人がいて驚いた。
ここを中心として小人化された町の人はこの事態について調べているらしい。
リュードたちも意見を求められたのでニャロから言われた呪いの話をしてみた。
「呪い……か。
そのようなことを言う人もいたが呪いなんてことを知っている人もこちらにはいないからな……」
「いつ頃からこんなことになったんですか?」
「事の正確な始まりは分からないんだ。
出来る限りはお話ししよう」
サンジェルはこの町に訪れた異変について説明し始めた。
オルダラシオというこの都市は2つの大きな都市の中間地点にある。
周りにはいくつか小さな村があってそうした村の生産品がこの町に集まって大きな都市の方に行く形となり、そのためにそれなりの規模に大きくなった。
平和で特徴もなく、なんの事件もないようなごく一般的な一都市がオルダラシオである。
そんな都市であったのだがある時に事件が起きた。
失踪事件である。
「今思えばあれが始まりだったのかもしれない……」
サンジェルはため息をついた。
けれど事件としても妙で掴みどころもない事件だった。
不可解なことに数人の町の住人が忽然と消えた。
周りに相談もなくいなかったかのように姿を消したのだが荷物はそのままであり逃げるような事情もない。
しかも消えたのは全く関わりもなく住んでいる場所もバラバラの人たち。
当初は関連性すら疑われなかった。
失踪したという以外に共通点もない人々だった。
おそらく失踪したと見られる日から少し経ってからようやくいなくなったのだと指摘もされていたこともあって操作も進まなかった。
そうしていると失踪していた人はひょっこりと帰ってきた。
ケガもなく何事もなかったかのように戻ってきたのだけどその様子は大きく変わってしまっていた。
どことなく生気がなく話しかけても反応が薄い。
失踪について話を聞いても上の空で返事を繰り返すばかりだった。
その後の行動も不可解。
仕事をしたり日常の生活を過ごしているのだけどそれだけなのだ。
全く同じ時間に全く同じことをする。
決められたことだけをやって生きるようになってしまったのだ。
誰かは言った。
ゴーレムのようだと。
原因も分からないが病院にも行こうとしないので調べようもない。
おかしくなったが生きていて生活はしている以上何も言えない。
おかしさは残るがそれ以上は調べられずに不可解な人々は生活の中に溶け込んで事件は忘れられていった。
奇妙さにも慣れて事件を忘れた頃、また失踪事件が起きた。
今度は前のものより人数が多く、1回目の失踪事件があったために注目もされた。
1回目の失踪事件も洗い直されて偶然のことではないとなって本格的な調査が始まった。
しかし調査をしたのにも関わらず失踪した人の足取りもなんの手かがりも掴めない。
そうしているうちにまた失踪した人が戻ってきた。
けれど戻ってきた人は前の失踪の人と同じくおかしくなってしまっていた。
ただ今回違っていたのが失踪者が戻ってくると同時に新しく失踪した人が出たこと。
失踪する人が出て、帰ってきておかしくなり、また失踪する人が出る。
サンジェルも必死に調べたが何も掴めないままに町に無気力な人が増えていく。
明るさが消え、活気がなくなり、失踪していない正常な人々は気味悪がり始めた。
そうして多くの人が失踪して戻ってきた。
そのうち自分にも起こるのではないかと思っていたサンジェルだったが本当にその時が来た。
朝起きると体の気だるさを感じた。
言いようもない感覚があって自分の体が小さくなっていることに気がついた。
人々の失踪、それがこれなのではないかとサンジェルはピンときた。
すぐに嫌な予感がした。
小さくなったので失踪したのはいい。
でも小さくなった人が見つかったことはない。
小さくなって、いなくなる何かがある。
誰かが家の中に入ってくる音が聞こえたサンジェルはぼんやりとする頭を振って、気だるい体を無理やり動かした。
シーツを伝ってベッドを降りてベッド下に隠れた。
誰が来たのかも確認する余裕はなかったがサンジェルは見つかることもなくやり過ごせた。
運が良く入ってきた者はドアを開けっぱなしで出て行ってくれたからサンジェルも家を出ることができた。
まだ小さくなっていない。
町の警備隊の仲間のところに向かってどうにか事の次第を説明して対策を取ろうとしたのだけど結局はみんな小さくなってしまった。
「……今でも俺たちを探しているのか家の方に時折行くやつがいる。
その時だけ日常と異なった行動をしているみたいだ」
聞けば聞くほど変な事件だとリュードは思う。
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