呪いをかけられた町1
「よーし、着いたな」
ちょっと長いこと町がなく、しばらく野宿が続いてようやく止まれそうなところに着いた。
ここらの中心的な町なのだろう、それなりの大きさの町である。
「……なんか、変」
「あ、ルフォンもそう思う?
私もなんだか……気味が悪い感じ」
久々の町だしお高めの宿にでも泊まろうかと町中を歩く。
大体高めの宿は街の縁よりも中にありがち。
歩いているとルフォンやラストが何かの違和感を感じてそれを口に出した。
どことなく感じるもので正確にそれが何から感じられるものなのか分からなくて不気味さがある。
リュードもそう言われてみればなんかへんな感じは分かるけれど何が変なのか分からない。
危険を感じるものではないのでとりあえず良さそうな宿を見つけた。
ほとんど喋らない無口な店主から部屋を借りる。
「何がおかしいんだろな?」
何かがおかしいのにそれが分からないのは何となくストレスだ。
女子が4人部屋でリュードが2人部屋を1人で使う。
女子の方の部屋にリュードも集まって少し話し合う。
どうにも気味が悪いので明日さっさと出発しようという話になり、違和感や気味の悪さの正体を突き止めようと話してみるけど誰からも答えは出ない。
窓から町を見下ろしてみる。
町を行き交う人々、なんの変哲もない日常の光景だ。
「うーん……なんかみんな目に覇気がないってのかな?」
「……確かにな」
人は歩いているがみんなどことなく焦点の合わないようなぼんやりとした目をしている。
「あと町中が静かな気がするにゃ」
「静か……」
「そうだね。
人の声とか雑踏の音とか、なんか物静かな感じがするね」
「あー、なるほどね」
何がおかしい。
人がおかしいのだ。
目に正気がなくただただ歩いているだけで走っている人もいなくて会話もしない。
町中を広く見たときにはあまり違和感として感じないが1人1人を見てみるとなんだかおかしいのだ。
まるでロボットやゴーレムのように決められた行動だけをしているような、生きている感じが町の中に感じられない。
だから違和感があって気味が悪く感じられるのだ。
「なんだ……この町……」
気づいたら気づいてしまったで気持ち悪い。
消耗品の補充でもやろうと思っていたけれど出歩くのはやめて早くに出発するために早く寝ることにした。
ーーーーー
「パパ!」
「ギャー!
やっぱりにゃー!」
「う……なんだ?」
妙な全身の気だるさ。
ひどい風邪にでもなったようだ。
リュードはコユキとニャロの声で目を覚ました。
視界がぼんやりとして頭が重い。
軽く目の周りを揉むようにして意識を覚醒させる。
「えっ!?」
どうやらまだ夢の中にいるようだととっさに思った。
「お、お前ら……なんでそんなにでっかいんだよ!」
「……違うにゃ!
リュードがちっちゃくなったんだにゃ!」
「なんだって?」
なぜまだ夢だと思ったのか、それはリュードのことを覗き込むコユキがすごい巨大になっていたからだった。
しかしニャロに逆だと言われて周りを見回す。
大海のようなベッドと布団。
ベッド横にある窓はそこから出るには厳しいぐらいの大きさだったのに、今は極寒のダンジョン入り口の門よりも巨大に見えた。
ニャロもコユキも見上げるほどに大きく、コユキは今ならリュードを使って人形遊びでも出来るだろう。
「ルフォンとラストは」
「ここにいるよー!」
「おーい!
リュード!」
「ん?
……あっ!」
いないと思ったルフォンやラスト。
声が聞こえてよく探してみるとニャロの手の上にいた。
つまり2人も同じく縮んで小さなサイズになっているということだ。
ニャロがそっと2人をベッドに下ろす。
「な、何があったんだよ!?」
いつもは冷静なリュードも同様が隠せない。
小さくなるなんて現象、リュードにも心当たりがなくて原因が分からない。
「分からないよ。
朝起きたらこうなってたんだ」
「なんか気分悪くて……妙にベッドがデカくて……そしたらデッカくなったコユキがいてびっくりしたよ!
でもコユキがデッカくなったんじゃなくて私たちがちっちゃくなったんだね」
「なんでまた……コユキとニャロは無事なんだ?」
リュード、ルフォン、ラストは小さくなったのにコユキとニャロは無事。
このことにヒントがあるはずだとリュードは考えた。
「神聖力にゃ」
「神聖力……なるほど。
何かわかるのか?」
「これはまだ予想の範囲は出ないけど多分呪い、呪術じゃないかと思うにゃ」
「呪いだと?」
「そうにゃ。
私たちが無事でリュードたちがそうなってしまった。
この差は神聖力を持つものと持たないものの差にゃ」
「それで」
「そしてこの不思議な現象にゃ。
私もどんなものかは知らないけれどこういったことを起こせるものの1つとして呪いがあるにゃ。
神聖力を持つものに呪いはほとんど効かないにゃ」
「それらを合わせて考えると……」
「これは呪いのせいにゃ。
この町の異様な雰囲気も呪いが関わっていると考えると説明できなくもないにゃ!」
ニャロの推理を聞いてリュードも納得する。
呪いも魔法の一種であるが魔法というにはちょっと性質が異なる。
相手の体になんらかの不調などの効果を発現させる魔力を流し込む、マイナスの神聖力みたいなものが呪いである。
呪いも種類があるがリュードは呪いなんてものに手を出す気はなかったのであまり深くも知らない。
相手の体を縮ませるなんて呪いがあるかも知らないがないと言えるほどの知識はなく、ないなんて鼻で笑える世界じゃない。
こうした呪いの力は神聖力とすこぶる相性が悪い。
呪いの効果は神聖力を体に宿す人にはほとんど効果がないのである。
だから不思議な現象から2人が無事なことを考えると呪いかもしれない。
「しかし誰が呪いなんて……この町には来たばかりだし」
「それはまだ分からないにゃ。
でもこの町の異様さをみるにもしかしたら私たちを狙ったのではなく町全体が呪われているかもしれないにゃ」
「町全体が……その方がスジは通るけどそんなこと出来るのか?」
「もし本当にそうだとしたらかなり計画的な反抗にゃ」
誰かがリュードたちに呪いをかけたのではなく町にかかっている呪いの中にむざむざ足を突っ込んでしまった。
見て分からなかったのでしょうがないが苛立ちにも似た複雑な思いが湧き起こる。
「呪いを解く方法はないのか?」
「あるにはあるにゃ」
呪いを解く方法。
まず1番最初に思いつくのは術者を止めることである。
呪いをかけている奴を倒すなりして止めれば呪いは解ける。
シンプルな答え。
「ただこれじゃ多分厳しいと思うにゃ。
最終的にはそうする必要もあるかもだけどにゃ」
「どういうことだ?」
「町全体に呪いがかかっているとしたらそんなもの人がずっと呪いをかけ続けてなんていられないにゃ。
おそらく呪いは設置型にゃ」
「設置型ねぇ……」
リュードは呪いに関して知識がないが何となく運用としては魔法と似たものだということは知っているぐらい。
それ以外のことはヴェルデガーも呪いには興味なかったのか関連書籍もほとんどなかったはずだと記憶している。
それに基本的に人を害する手段である呪いはメジャーな技術ではなく伝承者が少なく謎の多い技術。
けれども呪いも直接かけるものや事前に用意して相手を呪う呪いの設置なんてものもある。
町全体が呪われているとしたら複数人の術者がいるか、呪いを設置しているかである。
複数人の術者がいることは現実的に考えにくいのでどこかに呪いが設置してあるのだと考えた。
「なら狙うのは術者よりも設置してある呪いにゃ。
直接設置された呪いを破壊すれば呪いは解けるはずにゃ」
設置型の呪いでは明確に相手は選べないがその代わりに術者の技術が足りなくても材料があれば広い範囲を呪うことができる。
例えば魔石で魔力を供給して発動させた呪いを維持するなんてこともできる。
町のどこかに設置された呪いや魔力の供給源があるはず。
これを破壊すればいいのである。
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