第八章

新たにゃる地に向かい

 魔法という存在は不思議なものだ。

 それは魔力によるもので様々なところに色々な影響を及ぼしている。


 科学的なもので証明できなかったり説明の難しいことがたくさんこの世界には存在している。

 竜人族なんてのも大概不思議なものだけど、どうしてそうなったのか分からない場所が世界にはいくつか存在している。


 海底都市アトラディス、重たい土地グラド、巨大な魔物の楽園クルーオフジャイ……

 その環境がどう発生し、何が原因なのか誰にもわかっていない。


 故にどんな環境、どんな場所があったとしてもおかしくない。

 火の神様ファフラのお願いのことを考えた。


 神物の影響で環境的な変化があるなんて話があったけれどよくよく考えるとおかしな場所も多いこの世界で気温が上昇したぐらいではおかしいとも言い切れない。

 それでもそうした火や熱さに関わった特殊な環境に目星をつけて調べてみようとしていた。


 特殊な環境であるところは意外と観光スポットや良い魔物の狩り場であることも多い。

 冒険者ギルドや世界を飛び回る聖職者に聞いてみたりしながら情報収集もしていた。


 リュードたちはコユキの神聖力授業のためにケーフィランドに留まっていたのだけど修行も一区切りを終えてすることになった。

 ケフィズサンのみんなはブレスをグルーウィンに送り届け結婚なり何なりを見届けるのにだいぶ前にもう離れてしまっていた。


 教えてもらった場所の中にはいくつかめぼしい場所もある。

 その中に闇の訪れぬ森ヒュルヒルと呼ばれている場所があってとりあえずそこに向かうことにした。


 そこに決めたのには理由もあった。


「にゃんにゃんにゃーん」


「にゃんにゃんにゃーん!」


 ケーフィランドを出発したリュードたちには1人同行者がいた。

 獣人族の聖者ニャロである。


 ニャロは本来ケーフィランドからは結構離れた地で活動していた。

 けれど聖者としてたまたまケーフィランドに近いところまで来る用事があった。


 その時に攻略不可ダンジョン攻略のために招集がかけられた。

 仕事も終えたことだしニャロも自分が担当している場所に帰る必要があるのだけどコユキの指導のために残ってくれていた。


 他の聖職者と一緒に移動を繰り返して戻るのが普通なのだけどだいぶ長いこと空けてしまったしすぐに帰りたい。

 そこでリュードたちに白羽の矢が立ったのだ。


 ニャロを送り届けるお仕事をお願いされたので二つ返事で引き受けることにした。

 そのニャロを送り届ける国の先にヒュルヒルがあったのである。


 実際の冒険において神聖力の使い方が上手くいくとは限らない。

 ママはダメでも先生や友達としてニャロはコユキに気に入られていた。


 ニャロもまたコユキのことを気に入っていて、送り届ける道中で実戦的な神聖力の使い方を指導するつもりでもあった。

 ニャロが歌うとコユキもマネをしている。


 ラストはうちの子の話し方に変なクセが!とハラハラしているがにゃを付けて話してても可愛いからいいだろう。

 もっと大きくなって分別ついたらどうするかはコユキが決めることだ。


 それにしても旅のケモ度が一気に高くなった。

 猫人族のニャロと白い狐のようなコユキが加わり、むしろぱっと見で特徴のないラストが浮いてしまっているぐらい。


 全然リュードとしてケモケモしてて大歓迎。

 ミミや尻尾が多くて良い旅である。


「ジー……」


「はっ!


 ルフォンも可愛いぞ?」


 他ケモを見ることに対してルフォンは敏感だ。

 コユキはまだギリギリセーフだけどニャロを見ていると視線が突き刺さる。


 あえて尻尾を前に回して来てあるよとアピールする。


 ルフォンにはルフォンの良さがあり、コユキにはコユキの良さがある。

 そんなに張り合わなくてもいいのに。


 それに人前でルフォンの尻尾をモフモフするなんてハレンチなことできません。

 ただ頭は撫でる。


 頭を撫でると自然とケモミミも撫でることになる。

 ルフォンのミミは分厚くて弾力がある感じで気持ちがいい。


 リュードが撫でるとへにゃっとミミを畳むけど普段はしっかりとしていて音の聞き分けのために意外と忙しなく動いていたりする。

 髪とミミの毛はちょっと感触が違う。


 なので頭を撫でると2つの感触を楽しめる。


「にゃ!」


 リュードがルフォンの頭を撫でているのを見てコユキが慌ててリュードに寄ってくる。

 私も撫でろと頭を差し出す。


「はいはい」


 リュードは笑ってコユキの頭も撫でてやる。

 コユキは髪とミミの毛がほぼ同質でフワフワとした感触。


 ミミもルフォンよりも薄めで柔らかくて、ミミ元を撫でてやると気持ちよさそうに笑顔を浮かべている。


「私もにゃ〜」


「それはダメ」


「きびしーにゃー」


「そんなこと言ってるとコユキに嫌われるよ」


「あっ、ラストズルい!」


「いいじゃん、もう撫でられたんだから〜」


「メッ!」


「わ、分かったにゃ」


 ニャロのミミがどんな手触りなのか気にならないといえばウソになる。

 ニャロもそう言ってるんだしと思わなくもないが気軽に女性の頭に触れてはいけない。


 ラストはサッとルフォンを撫でるリュードの手を取ると自分の頭に乗せた。

 ミミはないがラストの髪もサラサラとして撫でていてずっと触っていたくなるようだ。


「そういえば獣人族にも聖者っているんだな」


 そもそも獣人族の聖職者も見たことがない。

 真人族の国を渡り歩いていて魔人族と会う機会が少なかったせいもあるが魔人族の聖職者を見たことがない。


 ラストのいた魔人族の国ティアローザにはいたのかもしれないけどデュラハンと戦った時にいた聖職者もみな真人族だった。


「魔人族にも聖職者はいるけど数は少ないにゃ」


 もちろん魔人族にも聖職者となる人はいる。

 けれどその数は多くない。


 神を信仰しないわけではないので中にはそういった人もいるにはいる。

 だが魔人族に根強いのが強いものが偉いといった価値観であり、力に対する信仰の方が強いとでも言うべきだろうか。


 何かがあった時に神に祈るのではなく力を付けたり、最後まで諦めずに足掻くことが魔人族の大多数だ。

 だから聖職者になるほど信心深く神様を信仰する人が多くない。


 さらにその中でニャロのように強く神を信仰して神に愛されるまでになるのは貴重な存在である。

 ついでに魔人族は割とその種族の神だったり先祖を崇めていることもあるのでそうした種族の神では聖職者までなれないこともあるのだ。


 シュバルリュイードも神ではあるがあまり力はない。

 1人ぐらいなら自分の聖職者は出せるかもしれないけれど容易いことじゃないのだ。


「今でも何で私が聖職者、そして聖者になれたか分からないにゃ。


 でも私は孤児で教会で育てられたから人1番お祈りはしてきたにゃ!」


 サラッと重たい過去の一端を口にしながら笑顔を浮かべるニャロ。


「……そっか、きっとその明るさを神様も気に入ったんだろうな」


「ん……そうかにゃ?」


「そうさ」


 明るく良く笑うニャロはケーフィスも好きだろう。


 なんか自然とニャロのことを撫でてしまったリュード。

 撫でられるなんて思っていなくてニャロは少し頬を赤らめてハニカム。


 また魅力全開にしている、とルフォンとラストは顔を見合わせてため息をついた。


「にゃ!」


「ふふふ〜、さて神聖力の練習するにゃ!」


 会話も一区切りついて、ルフォンとラストにお仕置きとして脇腹をつつかれるリュードの横でニャロとコユキが神聖力の練習をする。

 ニャロが指先に神聖力の玉を作り出す。


 親指の先ほどの大きさの白く輝く神聖力の玉はニャロの指の周りをクルクルと回る。

 これは昔からある神聖力を操るための練習であり軽い手遊びみたいなものでもある。


 ニャロはさらに神聖力の球を操って腕の周りを回らせたり体に沿うように動かしたりしている。

 玉を2つ3つと増やしてもそれぞれが意思でも持っているかのように動いている。


 コユキもそれに倣って神聖力の玉を作り出す。

 そこまではいいのだけどコユキが動かす神聖力の玉は遅くぎこちない。


 1つ動かすだけでもコユキはいっぱいいっぱい。

 ニャロがやると簡単そうに見えて難しいことなのだ。


 これをやると神聖力の細かなコントロールが身につく。

 複数の玉を動かせるようになれば複数人を同時に強化したり回復したりするのもそれぞれに強弱もつけられる。


 ニャロはそこらへんのコントロールが抜群にうまい聖職者なのである。


「くぬぬ……」


 いつかニャロのように玉を動かしたい。

 そう思うコユキであった。

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