実家より頻繁に行ってるわ
「来ると思ったよ」
「そっくりそのまま言葉を返すよ。
それに俺だって来たくて来てるわけでも来たくて来れるわけでもないだろ」
肉体から抜け出して魂だけになった言いようもない不思議な軽い感覚は何度経験しても慣れない。
悪くはないのだけどふわふわと飛んでいってしまいそうな気分になるのだ。
今回はまた日本家屋風の場所。
ケーフィスは畳敷の部屋で敷布団の上に寝転がっていた。
「質問に答えてもらおうか?」
「もちろん。
君は神物を取り戻してくれた神様の恩人だしね。
僕としてもただお願いねだけじゃ不安だったし」
「それであの子……コユキは何者なんだ」
「コユキか……いい名前だね」
「ケーフィス?」
「はははっ、コユキの正体は君たちが予想した通りさ。
あの子はダンジョンが吸収できなかった神聖力がボスとして再生しようとしたんだけどその前にダンジョンが無くなっちゃって再生しきれずダンジョンから出てくることになったんだ。
そもそも神聖力を持ったダンジョンもイレギュラーだったからね。
こんなことが起こるなんて神様でも分からなかったよ」
「つまりコユキは魔物なのか?」
ウィドウが言っていた予想はほとんど当たりである。
「神にも予想し得ない生命体……だけど君も何となく分かっていると思うけどあの子が魔物になるか、人になるかは君たち次第さ」
「なんだと?」
「君も分かるだろ?
一部の魔人族の起こりってやつが」
スズを見て魔人族には元は魔物が人化したものが何らかの方法で繁殖に成功した可能性があると考えたこともある。
コユキも魔物ではあるがその姿を見ればわかるように強力なボスとして人化までした魔物である。
魔物であるが人になる可能性がある。
これからコユキが人として生きていけるかはリュードたち次第なのである。
「こちらも君が名付けた相手だけどスズと同じようなものでこれからあの子は人になっていくんだ。
イレギュラーな存在だけど僕はそんな存在でも受け入れたいと思っている。
これからどうなるかは誰にも分からない。
でも許されるならこの世界を生きる権利はコユキにもあるんだ。
少なくとも神はそれを許すんだ」
いいこと言ってるけど布団の上に寝てるんだよな。
イマイチ締まらない。
「あとは君たち次第だ。
いや、君次第だ。
仮に君があの子の存在を許さず世界から排除しても僕は怒らないよ。
それも世界のあり方だ」
「……卑怯だな。
もう俺がコユキをどう思っているか知っているくせに」
「そんなことしない人だってのは分かっていたさ。
もしそんなことするって言ったら怒らないけどむっちゃ止めるけどね」
「……いいのか?」
「何が?」
「神様のくせに俺に恩ばかり増えていくぞ?」
もちろんコユキをどうするかなど決まりきっている。
ケーフィスの言う通りリュードかコユキに手を下すことなどない。
人か魔物か、リュード次第であるというなら全力で人にしてやろう。
きっとルフォンもラストもそれで賛成してくれる。
「……それって僕の借りになるのかな?」
「当然だろ?
お前の神物から生まれた子を俺が育てるんだから」
「うっ……まあそうか。
返しきれない借りばかり増えていくね」
「いつか返してくれよ?」
「が、頑張るよ……」
「こっちだって子育て頑張るんだから絶対に返せよ」
「そんなに頑張らなくても聞き分けのいい子だから大丈夫だよ、きっと」
「聞き分けよけりゃいいって問題でもないだろ。
可愛い子だからいいけどさ」
「ほんと、ありがとね」
「ふぅ……もうこんだけ関わったらコユキと離れる方が無理だよ」
「……おいっ!
いつまで俺を空気扱いするつもりだ!」
例によってこの場には実はシュバルリュイードもいた。
見た目で言えばとんでもない存在感があるのに何故かリュードが呼ばれる時は空気扱いされがちである。
「お久しぶりです、ご先祖様」
「取ってつけたような挨拶しおって!」
「それでご先祖様はなんのご用ですか?」
「サラリと話を進めやがって……まあいい。
お前に言いたいことがある!
そこに座れ!」
もう座ってますけどと言うとさらに怒り出しそうなので黙って背筋を伸ばしておく。
「お前……俺の布教活動はどうなっている!」
ずいぶんお怒りのご様子のシュバルリュイード。
「お前のこれまでの活動を見ていると布教に成功しているのは全部、雷の、神様ではないかー!」
確かにーと思わざるを得ない。
クラーケンは雷属性で戦ったし雷の神獣と共に活躍して雷の神殿も建てることになった。
誰がどう見ても雷の神様の布教を行う者である。
リュードとしても雷属性には散々助けられていてとても感謝している。
それにシュバルリュイードだって雷属性を使って戦っていたはず。
関係ないこともないだろう。
「別に雷の神様の布教は良いのだけれど!
俺の布教、ゼロじゃない?」
というかむしろ変な扱いをされて他の神様に怒られた。
愛と正義の使者みたいな扱いを一部地域でされているらしくシュバルリュイードとしても不本意なのだ。
そんなこと言われてもとリュードは思う。
「なんでなのだ!?
俺だって頑張って神様やってんだぞ!」
「なんでってそりゃ……」
「なんだよ」
「これまで旅してきて他の竜人族に会ったことないですもん」
口を大きく開けて驚愕の表情を浮かべるシュバルリュイード。
まさかの盲点。
布教する相手がいない。
そもそも竜人族の普段の姿は真人族とそう変わらない。
リュードのようにツノ生やしていれば別かもしれないがたとえ同族でも見た目で同族だと判断するには魔人化してもらねばならない。
他の竜人族から見たってツノが生えてるからリュードが竜人族だとも思わないはずだ。
さらにそもそも竜人族の絶対数は少ない。
いわゆる少数民族であって丸わかりの状態で旅していたって会う確率は低い。
そうなるともう会えないも同然。
あっても分からず、会えるかも分からないのだから布教のしようもない。
竜人族の神様を他の種族に布教したって意味はないしどうしようもないのだ。
リュードの反論のしようもない説明にシュバルリュイードはガックリと項垂れる。
物語では知的でクールに描かれていたけど思いの外茶目っ気たっぷりな神様である。
「そりゃ竜人族に会えたら俺も布教しますよ?
でも竜人族に会えないんですもん……」
少ない可能性としてすれ違っているぐらいの可能性はある。
ただそんなことがあったとしても分からなきゃ意味もない。
「そうだな……俺が悪かった」
リュードに完全論破されたシュバルリュイード。
信者が増え、雷属性を練習する人まで出てきて、神殿まで建った。
雷の神様自らわざわざお礼にまで来たものだから嫉妬に狂ってしまった。
「そうか……ちゃんと考えればそうした問題があったな」
そんな積極的に竜人族ですかと聞いて回ることはないが竜人族に対して常にアンテナは張っている。
「よし!
いないのなら会いに行けば良い!」
「はい?」
突拍子もなく何を言い出すのだ。
「竜人族として俺には竜人族を見守る権能がある。
つまり竜人族がどこにいるのか俺には分かるのだ!」
それに関して感心するというより竜人族公認ストーカーみたいだなとリュードは思った。
「移動する個人の居場所を教えられても困るだろう。
だから移動せずその場に留まる集落のような集団ならどうだ。
身を寄せ合って暮らしているものもいるし、人数も多い。
なんならお前の村に誘っても良かろう」
「なるほど……」
「いくつか教えてやるから頼んだぞ!」
「まあ、やるだけやりますよ。
……ん?」
「あっと、時間みたいだね」
「頼んだぞ、リュードォ!」
この帰る時の世界が遠ざかるような感覚も奇妙で慣れない。
「じゃあコユキ頼むね。
パーパ!」
神様とは言えぶっ飛ばすぞと思ったがそれを口に出すことなくリュードの意識は真っ白な波に飲まれていった。
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