祝福あれ!
リュードたちがケーフィランドに帰ってきたらケーフィランドにも雪が積もっていた。
そんなに長いこと離れていたのでもないのに白い町は雪でさらに白く染まっていた。
「よく戻ってくれた!
君たちの功績は語り継がれていくことでしょう!」
ケラフィスについた時点で分かっていた。
ソワソワとした町を守る聖騎士がリュードたちを見て嬉しそうに走り去った。
どこへ行き、何を伝えたのか丸わかりである。
教会となっている城に着くとその前にはずらっと聖職者たちが並んでいた。
熱い歓迎である。
事前に神物を取り戻した一報は入れてあるのでリュードたちと神物がいつ戻ってくるのかと首を長くして待っていたのだ。
ちなみにケーフィス教だけでなく他の聖教の聖職者もお祝いに出てきてくれている。
枢機卿のヒョルドや大司教のオルタンタスももちろんいる。
「まだちゃんと報告はしていませんよ?」
軽く一報を飛ばしただけ。
だから何が起きてちゃんと神物をここまで持って帰ってきたかも分からない。
ウィドウが悪戯っぽく笑う。
もしかしたら何かの理由で神物はまだ……なんてこともあり得る。
そんなみんな集めて大見栄切っていいのか。
「ふふ……ウィドウ、我々にはあなた方の成功が分かります。
なぜだと思いますか、ダリル」
「わ、私ですか?」
「ふふふ……教えて差し上げましょう」
オルタンタスの隣に立っていたフードを被った人が前に出た。
パサリとフードを下ろして真っ直ぐにダリルの方を向く。
「あ……あぁ…………」
ヤバいと思った。
その場にいた人がみな一様に耳を塞いだ。
「テレサ!」
ダリルが叫ぶ。
フードを下ろしたその人はテレサであった。
リュードはコユキの耳を塞ぎ、ケフィズサンのみんなは知らなかったのでモロにダリルの叫びを聞いてしまった。
ダリルがフラフラとテレサに近づく。
テレサは優しく微笑み、同じくゆっくりとダリルの方に向かう。
「ほ、本当にテレサ……なのか」
「本当よ。
ほら、生きているでしょう?」
テレサは震えるダリルの手を取った。
その手は温かく、確かな命を感じさせた。
テレサはそのままダリルの手を引き寄せて甲にキスをする。
全身が冷たくなっていたのに、今は熱いくらいに熱を持っている。
「本当、本物」
「痛いところはないか?
辛いところはないか?
もう動いても大丈夫なのか?
眠くはないのか?」
「そんなにいっぺんに聞かれても困るわ。
でももう大丈夫。
痛くも辛くもない。
夜は眠いけど朝から起きていられるわ」
「よかった……」
「ええ……私はもう大丈夫。
だから分かったの。
あなたが神物を取り戻してくれたって。
私のことを救ってくれたってことを」
「テレサ……テレサ!」
「病み上がりよ、優しくね」
優しく、それでいながら力強くダリルはテレサを抱きしめた。
感情が抑えきれずに頬を喜びの涙が伝う。
「神よ!
感謝いたします!」
子供のように泣きじゃくるダリル。
周りにいたみんなも心温まる感動的な光景に涙を浮かべる。
テレサも目に涙を流しながらダリルの背中をゆっくりとさすってあげていた。
ーーーーー
変化はおそらく神物を取り戻した時から始まっていた。
これまでの睡眠時間の流れからするとまだ起きないはずのテレサはおもむろに目を覚ました。
まだ快方とはいかなかったがスッと起きられた。
起きている時も頭にモヤがかかったようなスッキリしない気分ではなく、気分も良く起きられるようになっていた。
歌って踊りたいほど頭が軽くなっていき、抗いようのない意識の混濁が無くなっていった。
「ダリル……?」
意識がしっかりしている今のうちに食事でもしようと思っていたテレサはふとダリルのことを思い出した。
調子が良くなったことをダリルが聞いたら喜ぶだらうと思ったのだ。
この状況があるのはダリルのおかげではないかと半ば確信めいてそう思った。
今隣にいないダリルはテレサを治す方法を探し、そして神物を見つけ出せばよいことを知った。
神物の場所も見つけて、神物を取り戻しにいった。
急に体の調子が良くなってきたのでダリルが神物を持って帰ってきたのではないかなんて考えた。
気だるげで生気のなかったテレサが元気に部屋から出てきた。
城はちょっとした騒ぎになった。
死者ではないが死者が歩いているみたいな、そんな感じであった。
オルタンタスが飛んできてテレサに話を聞いた。
にわかには信じがたいがテレサの体調が回復の兆しを見せている。
ダリルが神物を持って帰ってきたのではないかとテレサは言うがまだダリルは帰ってきておらず、神物を取り戻したかどうかの情報もなかった。
しかし偶然の出来事にも思えずオルタンタスも調査した。
すると攻略不可ダンジョンの攻略についての情報を掴み、その後すぐに神物を取り戻した一報も到着した。
「やはり神の導き、みんながやってくれたのか」
そうしている間にもテレサの体調はますます回復していった。
長かった睡眠時間が段々と短くなり、起きている間も精力的に活動できるようになった。
まさか神物を持って帰ってくるまでもなくテレサの回復が始まるとは嬉しい誤算だった。
けれどそのおかげで早くに情報をキャッチして準備することができた。
ほとんど回復したテレサはダリルを迎えるためにサプライズ的に登場したのであった。
神物が戻ってきたことは城の中にある教会の間では公然のことであるが神物を取り戻したことの影響やグルーウィンでのことを考慮して大々的に公表することは避けられた。
そもそも無くなったことは秘密だったのに気分よくなってヒョルドがみんなに神物奪還を話してしまった。
こんな風にお迎えもする予定がなかったのだけどここまできては隠しきれずに城の聖職者だけの話にどうにか留められた。
そのためにケフィズサンが教会関係者として攻略不可ダンジョンを攻略したということで宴を開くことになった。
やや無理矢理な理由だけど祝わないわけにもいかなかったのだ。
「聞いてほしい。
俺たちは結婚しようと思う」
後日、リュードたちやケフィズサンのみんなはダリルに呼び出された。
そこにはテレサもいて、2人は感謝を述べてリュードたちに深く頭を下げた。
一度顔を見合わせて意を決したようにダリルが報告した。
中には結婚などを制限している宗教もある。
けれどケーフィス教はケーフィスが神様の宗教であり、結婚を制限なんてするはずがない。
聖職者同士だろうと職場結婚だろうとむしろ望むところである。
性にだらしなくない限りは恋愛も結婚も自由で同性婚も認められている。
だからダリルがテレサと結婚することも当然に可能なことだ。
ダリルとテレサは互いを思いやりながらもくっつきそうでくっつかない微妙な距離感であった。
互いに遠慮したように一歩が踏み出せないでいたのだが今回の件で完全に吹っ切れた。
ダリルはテレサを大切に思い、テレサはダリルを大切に思っている。
お互いがお互いを大切に思っていることを知ったのだ。
テレサの方もダリルの方も降臨の影響はまだある。
体は無事に回復したけれど神聖力が今のところ扱えなくなってしまった。
これは一時的なことで降臨の代償として過去にあったことなのでしばらくすると戻るらしい。
ただ聖職者として神聖力を使う活動はしばらく出来ないしまだ完全に回復したと誰も断定できないのでゆっくりと経過を観察する必要がある。
大きく時間ができた。
せっかくだから改めて2人の仲を見つめ直して深める良い機会だと思うことにした。
「おめでとうダリル」
この中でもダリルと付き合いが長いのはリュードになる。
ウィドウに視線を向けられてまずはリュードが祝いの言葉を贈る。
そしてみんなもそれぞれダリルを祝福するとダリルは照れ臭そうに笑った。
「ありがとう、みんな。
全てみんなのおかげだ」
そんなダリルをテレサは優しく見つめている。
「小さく式をやるつもりなんだが、みんなも来てくれるか?」
「もちろんだよ!」
「リュード……感謝する。
1番はテレサだが2番はお前だ。
教会も神殿も、あるいは神でさえも、お前の頼みなら俺は他に優先してお前のために力になろう。
いつでも俺を頼ってくれ。
名前が必要なら使ってくれても構わない。
お前は俺の1番を救ってくれた大恩人だ」
「俺だっていろいろ助けてもらったろ」
「そんなことよりも俺が受けた恩の方がデカい」
ダリルが手を差し出した。
リュードはそれに応えて手を取ったのだけどダリルはリュードの手を引き寄せた。
背中に手を回して熱く抱擁する。
「我が友よ!
俺は君のことを決して忘れない!」
「……俺もダリルのことは忘れらんないと思うよ」
それから数日後、小さな結婚式が行われた。
過度に祝われることを嫌って親しいものだけを呼んだ結婚式。
それでもみんながダリルとテレサを祝い、小さくても大きな幸せに包まれた、心温まる結婚式となったのであった。
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