おべんきょー

 宴も終わり、リュードたちはケーフィランドへ向けて出発した。

 グルーウィンを出るまでは何と国の兵士に護衛いただいだ。


 噂も広まりに広まっているのでどこへ行っても大歓迎を受けながら移動してようやくグルーウィンから離れた。


「なーんかさ、デカくなってない?」


「そうだね、寝る子は育つって言うからかな?」


「いやいやそーじゃねぇだろ」


 コユキ成長中。

 子供は日々成長するなんて言われるけどコユキは実際に成長している。


 何が?

 見た目的に。


 かなり小さかったコユキだけど少し大きくなった。

 幼稚園ぐらいだったけど小学校入学前ぐらいにはなった。


 早くないかとみんな思う。

 ただコユキがどう生まれたかを思えば早く大きくなるのも納得できない話ではない。


 ただ抱っこはちょっと大変になってきた。


「子供の成長は早いものだけどこれじゃ早すぎるにゃ」


 ただほっぺたのプニプニ感は相変わらずだとニャロがコユキの頬をつつく。

 他の子供と比べてもやや小柄な体型なコユキ。


 しっかりと体を鍛えているのでリュードやルフォンでもまだ抱っこは出来るけどこの調子で伸びていかれるとあっという間にそうできなくなる。

 元は魔物だった。


 しかも大人の姿だったコユキ。

 存在自体イレギュラーなのでもしかしたら子供の姿であることも一時的なものかもしれない。


「むぅ……」


「なんかずっこい……」


「お母さん方嫉妬か?」


 コユキは5本の尻尾をゆらゆらと揺らしてリュードに抱っこされている。

 ギュッと抱きつきリュードの肩に頭を乗せるコユキは幸せそうな顔をしていて邪な感情は感じられない。


 羨ましいとルフォンとラストはそんなコユキのことをじーっと見つめていた。

 コユキの神聖力授業はグルーウィンを脱した次の日から始まった。


 ニャロを始めとしてアルフォンスやハルヴァイが先生役として神聖力の扱い方や知識を教える。

 ダリルはそこら辺感覚派であって理論的ではないのであまり口を出さなかった。


 意外であるがこの中で1番神聖力の扱いに長けているのがニャロだった。

 意外というと失礼だけどちゃんと学んで理論も頭に叩き込んでニャロは神聖力を使っている。


 獣人族の優れた感覚も相まって優れた聖者なのだ。

 語彙力的にあまり言葉が上手くないコユキであるが相手が何を言っているのかはしっかり理解しているようだった。


 実は今もただ抱っこはされているのではない。

 リュードのことを神聖力で強化しながら抱っこされているのである。


 強化することでリュードは抱っこしやすくなるし、コユキは練習も兼ねて抱っこしてもらえる。

 なんともウィンウィンな練習法である。


 コユキは賢くて感覚的にも優れていた。

 道中で知識の確認はちょっとできないのだけど飲み込みが早くて実戦的なことで見るととても優秀な生徒だった。


 ニャロなんかは先生が優秀だからだと言っていたけどハルヴァイやアルフォンスはコユキの能力の高さに舌を巻いていた。

 リュードも強化を受けて軽々とコユキを抱っこしながらコユキがすごいのだと若干の親バカになりつつあった。


「魔力と神聖力は別のものですが同じようなことも出来るのです」


 アルフォンスによる神聖力講座。

 早めに野営の準備をして焚き火を囲みながらコユキはリュードの膝の上で話を聞く。


 リュードたちの役に立つことだと説明されたためかマジメに話を聞くいい生徒である。


「魔力による技のことを一般に魔法と言いますが神聖力による技のことは聖技と言います。


 魔法では色々な属性に変化させることも一般的でありますが神聖力は神聖力で属性変化はできません。


 けれど例えば球状にするとか槍のようにするとかそうした形状の変化は魔法と同じようにすることができるのです」


 アルフォンスが手のひらに神聖力の球を作ってみせる。

 ファイヤーボールは魔力に属性を持たせて球状にしたものである。


 単純な魔法で神聖力も同じように球状に出来る。


「ただ同等のエネルギーでも魔力の方が破壊的な力が強いと言われています。


 やはり神聖力の使い道としては強化や治療に使うのが一般的でしょう。


 こうしたエネルギーとしての性質の違いが魔力と神聖力にはありますね」


 そういうとアルフォンスはリュードとコユキを神聖力で強化する。

 体軽くなる感覚、力が湧いてくる。


「魔力にも相手を強化する魔法がありますがこれにも違いがあります。

 魔力による強化は2種類あって魔力そのものを体に充満させたりまとったりしてするものと魔法によるものです。


 対して神聖力での強化は神聖力での強化。

 相手に神聖力を送ることによって強化できるのです。


 とても単純で扱いやすく魔法によるものよりも効果が高い。


 効率もよくて素早く強弱も自在です。


 だからといって魔力による強化に利点がないわけでもありませんよ。

 魔法の強化には一度強化をかけてしまえばしばらく効果が続く持続性があり、神聖力は送り続けなきゃ効果の持続性は弱いという点があります。


 魔法に対する耐性の向上や自己の治癒力強化も魔力による強化にはあります」


 知識派のアルフォンスだが小難しい言葉を使うことなくよく噛み砕いて説明してくれる。

 リュードには扱えないものなのでこれまで興味を持ったこともなかったけれどこうして魔力との比較で聞いてみると面白いものだと思う。


「そして神聖力と言えば治療、相手を癒す力でしょう。


 生きてさえいれば神聖力で相手を癒すことができます。


 例え体の欠損であっても神聖力さえあるなら治すことも可能です。

 時間が経ちすぎるとダメなこともありますが」


「へぇー……」


「しかし大きな弱点として神聖力による治療は自己に一切使えないということがあります。


 なので外で活動する時は聖職者は2人1組で互いがケガをしても大丈夫なように活動しているのです」


「あっ、そうなんだ」


 なぜ聖職者、特に聖者や使徒がペアで活動しているのかちょっとだけ気になっていた。


「あまりメジャーではない話として神聖力には呪いに対する力もあります」


「呪い……」


 呪いは魔力を利用はしているが魔法とは異なった方法で発動するもので一般に忌避される。

 神聖力にはそうした呪いに対する抵抗力を持っていた。


「使徒は強い神聖力を持ちますが同時に魔力も持つので魔力による自己強化で治癒力や魔法に対する抵抗力も高めながら神聖力による強化も行えるので強力な戦士であるのです。


 対して聖者は神聖力しかないので直接の戦闘は苦手なのです」


「なーるほど……」


 コユキのついでに話を聞いていたリュードだけど授業内容が面白くてつい聞き入ってしまった。


「ん?」


 さらに体が軽くなる。

 視線を落とすとコユキがニコッと笑ってリュードを見上げていた。


「人に神聖力を送るということに感覚的な苦労をする人もいますがコユキはその点心配いりませんね」


 実際神聖力の支援を受けてみてその効果の高さを知って冒険者が聖職者を引き入れたがる気持ちがよく分かった。

 そしてこうしてより学んでみると1パーティーに1人は聖職者が必要なのではないかと思えるほどだった。


 もしかしたら神様に押し付けられたイレギュラーはとんでもない贈り物になるかもしれない。

 そんな予感も感じさせていた。

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