みんなの道は2

 みんなそれぞれ何をしたいのか軽く語る。

 一致してるのはしばらくあったかいところでのんびりしたいってことだった。


 少なくとも雪はうんざりだった。


「俺は神物を届けたらここにまた戻ってこようと思ってる」


「えっ!?」


「おい、ブレス……マジかよ!」


 みんなサラッとやってみたいことを言う中で言いにくそうにしていたブレス。

 ようやく口を開いたと思ったら予報外の言葉が飛び出してきた。


「まさかこの国でお偉いさんになるのか?」


「ん……いや、俺には嫁どころか恋人もいないからな。


 その、なんだ……パーティーの時は別にケツ揉まれただけじゃないし」


「ケツモミとくっつくのか?」


「そっちじゃねえよ!


 ケツ揉まれてるのを助けてくれた子がいてな。


 ま、なんか、悪くないかな、ってさ……」


 あんまり宴に興味なさそうに参加していたグルーウィンの貴族のご令嬢。

 他の人たちがリュードたちに取り入ろう、または取り入れようとしていた中でもパクパクと料理を摘んでいた。


 その時にブレスがケツを揉まれて困っていることに気がついた。

 国の品格を貶めかねない行為。


 颯爽と現れてブレスを助けてくれたその令嬢にブレスは惚れてしまったのだ。

 ブレスには爵位もない平民なので身分差があって本来難しい恋愛になるがグルーウィンに限ればすぐにでも爵位でも領地でも手に入る。


 そこは心配しなくても大丈夫だ。

 あとはそのご令嬢がどうかという話だけどこれからのことはブレス次第である。


「だからちょっと仕事でももらってさ、うまく行くようならこの国で家庭を持つのも悪かないかな」


「はははっ!


 急で驚いたが良い話じゃないか!」


 ウィドウが笑う。

 ブレスが決めたことだから止めるつもりもない。


 ブレスにとっても良い話であるだけでなくグルーウィンにとってもこれは良い話だ。

 今回の件の英雄が1人でも国に留まってくれることを決めれば面目も立つ。


 進んで残りたいと言ってくれているのだから望むところであろう。


「そうか……お前も結婚するかもしれないのか。


 ならば早く神物を届けねばなるまいな」


「結婚ってのは話が早いけどさ。


 もし結婚するとなったらそん時は歓迎するから来てくれよ?」


「ああ、そうさせてもらうよ」


 気の早い会話だけど向こうにその気があるならそんなに遠い話でもない。


「それで3人……いや、4人かな?


 はどうするんた?」


「俺たちは旅を続けるつもりだ」


「4人、子連れでか?」


「それも悩んだんだけどな、みんなで話し合ってコユキが嫌がらないなら連れて行こうと思っているんだ」


 リュードはコユキに視線を向ける。

 ラストに料理を取ってもらいながらコユキはパクパクと肉を食べている。


 嫌がらないならと言うがもう確認もしている。

 コユキは行きたい!とすぐに返事をした。


 それ以外の返事を言うわけがないと分かっていたけどコユキもそう言うならみんなの意思は一致した。


「この出会いも、俺たちに懐いたのも何かの縁で意味があると思うんだ。


 ここまで来れば情も湧きまくりだし、やるだけやってみるさ」


「ふっ……まだ結婚もしてないのに子持ちとはやるな」


「あはは……そう、ですね」


「どうせ娘ができるなら可愛くてよかったじゃないか。


 押しまくればルフォンちゃんの娘でもいけるだろう」


「今回の1番の謎っていえばコユキちゃんだよな。


 何も分かってねえんだし目ぇ離すんじゃないぞ?」


「もちろんですよ」


「なんか困ったことがあったらいつでも連絡くれよ。


 一応俺も子育て中の親だからな。


 もうコユキの方が立派だがな」


「ありがとうございます。


 コユキに関してなんですが聖職者の方々にお願いがありまして」


「あっ、こっちにゃ?


 私ももちろん力を貸すにゃ!」


「私もできることはいたしましょう」


 なんやかんやコユキに骨抜きにされているのはリュードたちだけじゃない。

 旅の癒しともなっていたコユキはみんなを魅了していた。


「コユキに神聖力の扱いを教えてほしいんです」


 リュードが考えていたコユキの自衛手段、それは神聖力だった。

 神聖力しかコユキにないのだから当然の考え。


 だけど神聖力が扱えれば大きな戦力になれる。

 神聖力のエキスパートが身近にいるのだからちょうどいい。


 コユキの神聖力も強いらしいしこれから神物を返しにいくにも旅路は長いので時間もある。

 聖者を見ていると支援メインで直接戦うのでもないし子供のコユキでも神聖力を扱えればいけそうだ。


「なるほどにゃ……それは良い考えにゃ!」


 神聖力を持つものが神聖力を扱えるようになって悪いことなど何一つない。

 魔力を扱うよりも体に負担がかかりにくく強化支援も出来るので良い考えだと思った。


 ダリルが戦った神物を守る聖騎士のように神聖力だけで接近戦を行う戦闘スタイルもないことはないがそのようにしている聖者は少ない。


「ということでコユキ、私が先生にゃー」


「…………」


「……ゴクリ」


 ママの時は拒否されたニャロ。

 コユキがジッとニャロを見て緊張の時間が流れる。


「先生!」


「にゃー!


 嬉しいにゃー!」


 ママはダメでも先生ならオッケー。

 ニッコリ笑ってニャロ先生を受け入れたコユキ。


 先生と呼んでもらえるだけでニャロは嬉しかった。


「よっしゃー!


 神聖力でも何でも教えてやるにゃ!」


「にゃー!」


「……ふふ、みんなそれぞれ道を行くか」


 まだ別れの時ではないが別れた後もまたどこかで道が交わり会うことがあればあればいいなとウィドウはグラスのお酒を煽った。

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