愛のため2
「身軽だな……」
重たい全身鎧を着ていないかのような軽やかさでガーディアンは足を振り上げダリルを蹴り飛ばす。
胸を蹴り飛ばされたダリルが後ろに転がるが自分でさらに勢いをつけてもう一度転がって距離を取りながら起き上がる。
力だけではない。
技量としても大きな差は今のところ見受けられない。
今度はダリルから攻める。
ダリルがメイスを繰り出してガーディアンが盾で受ける。
ガーディアンが剣を繰り出してダリルが同じく盾で受ける。
重たい攻撃の応酬。
「はあっ!」
「上手い!」
剣を盾で防いだダリルがそのまま滑らせるようにして盾でガーディアンを殴りつけようとした。
ガーディアンはそれを自分の盾で防ぐが脇腹がガラ空きになっていた。
その隙を見逃さずにダリルは脇腹にメイスを叩き込んだ。
ガーディアンの戦い方は上品でいかにもナイトのような美しく戦っている。
対してダリルはやや荒っぽい。
戦いの中で磨いてきたダリルの戦い方は実戦的で見た目の美しさにはとらわれない。
生きるため、勝つための戦い方なのである。
倒れはしなかったが大きく体が流れたガーディアン。
ダリルは一気に勝負を決めようとメイスを振り上げた。
勝負が決まったかと思われたその時、ガーディアンの剣が強く光った。
振り下ろされるメイスと振り上げられる剣がぶつかって低い金属音が鳴り響いた。
「ダリル!」
再びメイスを振り上げるダリル。
しかしこれはダリルが意図してやったのではない。
ガーディアンの剣に力負けをして弾かれてメイスを振り上げる体勢になってしまったのである。
素早く剣を引き、上半身を回しながらダリルの胴を目がけて剣を振り抜く。
カッと強い光が走って一瞬目がくらむ。
ダリルが飛んでいくが幸いダリルの体は繋がっている。
何とか盾を差し込んで防いだ。
だが威力は殺しきれずに直撃だけを避けた形になった。
柱にぶつかって柱が大きく陥没する。
ニャロやラストは心配そうな顔をしてみんなを見るけど誰も動かない。
まだ動くには早い。
ダリルはまだ諦めていない、倒れていない。
「強いな……
その強さで何を守る」
頭をかすめる諦めの言葉。
よくここまでやった、もういいじゃないか、あとはみんなで倒せばいい。
メイスが重たく感じられ投げ出してしまいそうなほどの気持ちに駆られる。
全身が鈍くズキズキ痛んで休みたくなる。
「俺は守れなかった。
……大切な笑顔を」
でもそんな時でも頭に浮かぶのはテレサの顔だった。
貴族の息子ではあったが貧乏貴族で上に兄がいて半ば捨てられるように教会に預けられたダリル。
そこにいたのがテレサだった。
両親を魔物の襲撃によって失った孤児で親戚もおらずに教会が引き取った子だった。
魔物によって両親を失ったのにめげず、明るい子だった。
日々の祈りを欠かさず、そんな祈りが通じたのかテレサは聖者となった。
ダリルも祈った。
神がいるならテレサを幸せにしてやってほしいと。
彼女には幸せになる権利があるはずだと。
ダリルの思いに神が出した答えはダリルを使徒にすることだった。
神のため、テレサのために戦うようにと神が言っている。
ダリルはそう理解した。
「俺は諦めない。
神物を取り戻しテレサを治して、今度こそ守り抜くのだ。
その神物を渡してもらおうか!」
テレサを幸せにすることが自分の使命なのだとダリルの体が強く光る。
「降臨……!」
テレサが倒れる原因にもなった一時的に限界を超えた神聖力を引き出す降臨をダリルは使った。
この先降臨の反動は待ち受けるだろうが神物があれば降臨の反動は死ぬまでいかずに何とかなる。
ガーディアンは盾を外して投げ捨てる。
剣を両手で持ち、大きく上半身を捻じる。
まばゆいほどの光がガーディアンの剣を包み込む。
リュードが剣に魔力を込めるように、ガーディアンは剣に神聖力を込めた。
足を滑らせ前に出しガーディアンは剣を振った。
剣を振った白い軌跡が神聖力によって斬撃となる。
大きな光り輝く斬撃は真っ直ぐにダリルに向かう。
「テレサ……力を貸してくれ!」
ダリルは足を大きく開いて盾に神聖力を込める。
ほんのわずかな不安すら今はない。
『あなたならきっとできるよ』
ダリルの脳裏にはそう言って微笑むテレサがいた。
貴族の末息子で誰にも必要とされなかったダリルにもテレサは優しかった。
失敗しても上手くいかなくてもテレサは微笑んでそう言って励ましてくれた。
「俺なら出来る」
優しくて、暖かくて、この世界に、そして自分に必要な存在であるテレサを取り戻してみせる。
盾に斬撃がぶつかる。
膨大な神聖力同士がぶつかり強い衝撃がダリルを襲う。
「はああああっ!」
押し切られてしまいそうな強い力。
ダリルはガーディアンの斬撃を盾で弾き飛ばした。
斬撃が柱に当たり、柱が砕ける。
あまりの威力に盾を持っていた肩が抜けるがダリルはそのまま走り出した。
ガーディアンは大きな神聖力を打ち果たして剣を重たそうに持ち上げた。
必死の形相でガーディアンに迫るダリル。
剣とメイスがぶつかり剣が飛んでいく。
「神物は誰かを救うためにあるのだ!」
ダリルのメイスがガーディアンの頭に直撃した。
普通の人だったら頭が飛んでいってしまっていただろう一撃を受けてガーディアンがもんどり打って飛んでいく。
ひしゃげた頭から床に落ちてガーディアンは動かなくなる。
静寂。
ガーディアンが本当に倒れたのかみんなが固唾を飲んで見守る。
長い数秒。
ガーディアンはピクリともしない。
「ダリル!」
スルリとダリルの手からメイスが落ちた。
勝った。
あとは神物を手に取って帰ってテレサを笑顔にする。
そう思った瞬間ダリルは体から力が抜けていくのを感じた。
手すらつかないで床に倒れたダリルにみんなが駆け寄る。
「ダリル、大丈夫か!」
「か、体が動かん……」
ヤバい倒れ方をして死んだのかと思ったけれどダリルはバッチリ意識もあった。
けれど指先一つすら動かせない。
降臨の効果が切れて反動がダリルを襲った。
「あとは時が解決するのを待つしかありませんね」
アルフォンスがダリルを治療するが出来るのは体のダメージの治療だけ。
降臨を使ったことによる反動は神聖力で治すことができない。
「リュード……」
「なんだ?」
「俺の代わりに……神物を」
口ですら動かすのがやっと。
「……俺でいいのか?」
「ああ、お前がいい」
「分かった。
待ってろ」
他でもないダリルの頼み。
リュードが神物に触ることに誰も反対しない。
ちょうど神物の前に倒れるガーディアンを乗り越えてリュードは一段高くなった神物の台座の前に立つ。
「誰がなんだってこんなところに神物を隠したんだろうな」
誰でもいいけどもし会うことがあったらぶん殴ってやる。
リュードはゆっくりと神物に手を伸ばした。
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