愛のため1

 思っていたよりも消耗が激しくて丸一日休むことになった。

 他のみんなにもリュード特性のポーションを渡してのんびりと休んだ。


 飲みやすいリュードのポーションはみんなにも好評で体の回復を助けてくれる。

 魔力が濃いダンジョンの中ということもあっておおよそは回復した。


 緊張感もあるので完全な回復をしようと思ったらもっと時間は必要だけど時間をかけすぎるとボスなどが復活してくる可能性もある。


「では、行こうか」


 ここまで来て退く選択肢はない。

 ウィドウの言葉にみんながうなずく。


 先に進むこと。

 これが満場一致のみんなの意見である。


 扉を開けるのはダリル。

 盾を構えてそのまま押すようにして開けることにした。


「みんな、準備はいいか?」


「ダリルも気をつけて」


「任せておけ」


 ダリルはやや腰を落としてゆっくりと盾を扉に押し付ける。

 少しずつ力を込めていくとさほど込めてもないけど扉が動き始めた。


 巨大な扉を全て開け切る必要はない。ある程度出入りできる幅さえあれば十分。

 特に襲撃もなく扉は開かれた。


「なんだここは?」


「……神殿……ですかね?」


「雰囲気変わりすぎだな」


「とりあえず寒くはないにゃ」


 扉の向こうは別世界だった。

 別世界というかどこか巨大な建物の中のようだった。


 白い石で出来た大きな柱が立ち並び、天井ははるかに高く、正面には一段高くなった台座と黄金の盃。

 そしてその前には鎧の騎士がいた。


「神物にゃ……」


 リュードでも感じる。

 見た目にはシンプルな黄金の盃なのに神々しい気配を感じる。


「じゃあその前にいるのは……」


「神物を守るガーディアンってところだろうな」


 真っ白な鎧の騎士。

 こちらからも神聖な感じがしている。


 威風堂々と神物の前に立つ姿はまさしくガーディアンと言ったところだ。


「なるほどな」


「何がですか?」


「おかしな作りのダンジョンだと思っていた。


 元々あるダンジョンの中に神物を隠したのだと思っていたけれど……こんな風になっているところを見ると神物の影響でダンジョンが出来たのだな」


 神物があるからダンジョンが出来たということはケーフィスに直接説明されたリュードしか知らない。

 神物があるからそこがダンジョンになるなどと普通の人は考えずにダンジョンに神物を置いてきたと考えるのが一般的だった。


 しかし奇妙なほどに難易度が高く、こんな神物専用の場所まである。

 そこに至ってウィドウはダンジョンが先なのではなかったと気付いたのだ。


 ここはある種の防衛施設。

 神物が己を守ろうとして生み出した場所だったのである。


 もしかは神物が人に対する挑戦を叩きつけたのかもしれない。

 自分を奪えるならやってみろと。


 ケーフィスの神物なのだ、それぐらいのこともするかもしれない。


「あれを倒さなきゃならないのかな?」


「神聖な目的を持っていようとも話が通じないなら私たちは略奪者に他なりませんからね」


 いかに正当な目的があり、正しいものであったとしてもガーディアンにそれを思考して判断する能力はない。

 現在リュードたちは神物を奪おうとする略奪者、侵入者である。


 崇高な目的を持つ神聖なる略奪者であるけれどもいくらそれを叫んでもガーディアンが避けてくれることなどないだろう。


「これが最後の戦いになる……準備はいいか?」


 ガーディアンはどうやら近づかなきゃ動き出さないようだ。

 このガーディアンとの戦いが最後であるとみんなが確信めいた予感を持っていた。


「待ってくれ」


「ダリル……?」


「私にやらせてくれないか」


 前に出たダリルから放たれた予想外の言葉。

 真剣な眼差しは冗談ではないことを物語っている。


「……本気なのか?」


「この戦いは俺の、テレサを助けたいというワガママから始まった。


 神は俺をリュードの下に導き、この場所をお示しくださった。


 俺はまだ何もなし得ていない。

 これが俺に与えられた神の試練なのだ」


 ここに来るまでにダリルは目立った活躍はしていない。

 みんなの力があってここまで来ることができたがテレサのためにと協力してくれるリュードのためにもここで自分が戦わなければいけないと感じていた。


「俺にやらせてくれ。


 これは神でも、教会でもない、たった1人の男のケジメのためだが、やらねばならないのだ」


 ダリルはリュードを見据えていた。

 他の人も言葉は発さず、リュードとダリルを見ている。


 多分リュードがダメと言ったなら周りのみんなもダリルも引いただろう。


「負けたら承知しないぞ」


 ただこれは神の試練。

 ダリルがテレサを、愛する人を救うために課された試練なのである。


 理由は分からない。

 でもダリルが乗り越えねばならないような気がしたのだ。


 リュードが独断で決めた判断だけど反対する人はいない。

 相手は1体。


 全員でかかれば楽だし、なんなら隙を見て神物だって奪えそうな気もするけれどダリルが戦うことが必然のようにみんながそれに納得した。


「行ってこいよ」


「せめて強化はさせてください。


 それぐらいは神もお許しになるでしょう」


「負けるなよ!


 負けそうだったらなんと言われようとも戦いに入るからな」


「がんばるにゃ!」


「みんな……ありがとう」


 神聖力による強化の支援は行う。

 ちょっとスレスレな気もするけどこれぐらいはいいだろう。


「リュード、ここまで俺を導いてくれて……」


 最後にダリルはリュードの方を向いた。

 不思議な竜人族の青年。


 神に愛されている気配はありながらも神に仕えているのではない。

 それでいながらも神しか知り得ないようなことも知っていて戦いにおいても目覚ましい活躍をしている。


「ダリル。


 勝って、神物持ち帰って、テレサさんが無事に回復したらでいい。


 とりあえず勝ってこいよ。

 話はそれからだろ?」


「そうだな」


 リュードがいる。

 それだけで勝てそうな気がした。


 感謝の言葉を述べるのは全てが終わった後でもいい。

 グッと親指を立てて笑うリュードにダリルも微笑み返す。


 まるで長年共にいた戦友のようにリュードのことを感じる。

 聖者2人と使徒1人の神聖力の強化を受けてダリルが淡く輝く。


「ダリル・アステバロン、今、愛と正義のために神の試練に挑もう」


 ダリルが1人前に歩き出す。

 ただ広い神殿の半分ほどまで進んでようやくガーディアンが動き出した。


 腰に差した剣を抜いて盾と共に構える。

 ただすぐに襲いかかってくる様子もない。

 

 ダリルもメイスと盾を構えながら接近し、いつ戦いが始まってもおかしくない距離まで近づいた。

 睨み合う両者。


 円を描くように互いが少しずつ移動する。

 先に動き出したのはガーディアン。


 一瞬で距離を詰めて剣を突き出す。

 ダリルはメイスを振り上げて剣を弾き、そのまま振り下ろして攻撃する。


 ガーディアンは盾でメイスを受け流すとそのままダリルに盾で体当たりをする。

 ダリルも盾で対抗して、盾同士がぶつかる。


 両者が衝撃に耐えきれずに弾き飛ばされる。

 強化をもらっているダリルとガーディアンの力は互角。


「軽い挨拶みたいなものだな」


 再び睨み合う。

 ガーディアンがダリルに切りかかる。


 剣を盾で受けてメイスで殴りつける。

 しかしガーディアンも盾でメイスを受けて、互いに押し合うようになる。


 やはり力は互角でどちらも動かない。


「ふん!」


 ただダリルは生身。

 勝負のつかない押し合いをしていては一方的に体力を消耗してしまう。


 ガーディアンの方が変化してこない以上ダリルが先に動くしかない。

 力を抜いて一歩下がる。


 力のこもった押し合いをしていたガーディアンは急に相手がいなくなりバランスを崩した。

 ダリルはそのまま距離を空けずに盾を構えて体当たりをぶちかました。


 ガシャンと音を立てて転がるガーディアン。

 ダリルは追撃にメイスを振り下ろした。

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