感謝の膝枕
大きさ的には極寒のダンジョンの入り口の扉と同じぐらいの大きなもの。
だけどより白っぽく豪奢な扉はダンジョンの入り口とは違っている。
そのデザインには何となくだけど神聖さすら感じさせているような気がした。
まだダンジョンが続く。
もしかしたらここはダンジョンの階層の1つでこの扉は次の階層に続くものなんじゃないかと思った。
そうなるとまた同じような広いフィールドがあるかもしれない。
絶望までいかなくてもショックはある。
少なくとも五尾の白キツネはこの階層におけるボスだったとは予想できる。
周りに魔物の気配もない。
扉から別階層の魔物が飛び出してくることも過去に例がないのでしばらくはこの周辺は安全だとみていい。
「リューちゃん体は大丈夫?」
「ああ、何とかな」
もう立ち上がる力もなくてリュードは扉から視線を外して上を見上げていた。
そんなリュードを上からルフォンが覗き込む。
魔力を完全なコントロールに置くことはとんでもない集中力と体力を要する。
集中が切れて弾けるように魔力が拡散して通常状態に戻ったら体がドッと重たくなった。
ウィドウの提案で休憩するけれどまともに休む準備もみんなできないでいた。
聖職者たちも神聖力をかなり消耗しているのでほいほいとみんなを治すこともできない。
リュードはルフォンから自作のポーションを受け取って飲み干すと地面に体を投げ出した。
「なーんか狙われてたよな、俺」
「そりゃあリューちゃんはイケオスだからね」
ルフォンもリュードの横に寝転がる。
確かに五尾の白キツネはリュードを狙っていたように思える。
最後もジッとリュードを見つめて死んでいった。
何かムカつくけど空を見つめるリュードの横顔を見ていると気持ちも分からなくもない。
スノーケイブキングがラストをさらったことを考えるに五尾の白キツネがリュードに何かの思いを抱いたとしてもおかしくはない。
「お前らそんなところで寝てると風邪をひくぞ?」
「今更風邪なんて気にしないさ」
「テント立ててやるからせめてそこで寝ろ」
比較的動くことの少なかったダリルがテントを張ってくれた。
「ほら、どーぞ」
ルフォンは料理を作るためにテントに入らず、テントの中にはリュードとラストがいることになった。
いつもより顔色の悪いリュードは明らかに疲れている。
ラストはポンポンと自分の太ももを叩く。
それが何を意味しているのかリュードもすぐに察した。
恥ずかしいならやめればいいのにそれでも耳を真っ赤にしながらもその姿勢を崩さないラスト。
女の子に恥をかかすわけにはいかない。
リュードは寝転がってラストの太ももに頭を乗せる。
いわゆる膝枕ってやつだ。
思いの外高さも良くて人肌の温かさが心地よい。
「ん……どう?」
「なかなか悪くないもんだな」
「そ、ならよかった。
あとさ……」
「なんだ?」
下から見上げるとラストの表情は分からない。
首元まで赤くなっているのは分かるけど明後日の方向を見ているのでどんな顔をしてるのか見えないのだ。
「その…………助けてくれて……あんがと。
助けに来てくれて嬉しかった。
ちゃんとお礼も言えてなかったから……」
消え入りそうな声だったけど静かなテントの中では良く聞こえた。
「ラストが無事でよかったよ」
「なんかさ、助けられてばっかりだよね」
「そんなことないさ。
ラストの弓にはこっちも助けられてるよ。
ルフォンと2人きりでも大丈夫だろうと思ってたけど役割を考えた時にラストがいてくれるから安心して戦えるところは大きいよ」
「そ、そう?
それなら嬉しいな……」
ラストの体温がやや上がった気がする。
「こっちこそ変なことに巻き込んじゃって悪いな」
「ううん、だって私も行くことに賛成したもん」
下から見上げているのも悪い気がしてきてリュードは体を横に向ける。
ようやくラストは視線を落としてリュードを見る。
サラリとした髪が垂れて足にかかって少しくすぐったい。
頭を撫でたいな、なんて気持ちにさせられる。
感謝と愛しみがグーっと胸を占める。
「ラスト?」
「ちょっとだけ……」
「……ちょっとだけだぞ」
指1本ぐらいならとリュードの頬に触る。
思っていたよりも柔らかくてフニッと指が沈み込む。
ずっとつついていたい気持ちになる。
リュードの方も膝枕をしていただいている身分なので大人しく受け入れる。
そのまま少し頬をつついていたラストだけど流れでサラリと髪に触れる。
髪を整えるように触っていたのがやがて撫でるようになっていく。
ちょっとだけと言いながらもラストはルフォンに呼ばれるまでリュードの頭を撫でていた。
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