白き姫を取り戻せ2
内側が奮戦している間、外側も奮戦していた。
数的にいえば外側はリュードたちの方が不利になる。
7体のスノーケイブは入れ替わるようにしながら絶え間なく攻撃を繰り出してリュードたちを内側に行かせないようにしていた。
その代わり一撃が軽く防ぐことに苦労はしないが回転が早くて背中を見せられない。
「悪いがこちらも余裕がないのでな」
ウィドウがスノーケイブを押し返して剣に魔力を込める。
雪のように真っ白な剣身に魔力がまとわれ、赤く燃え上がる炎に変わる。
手数は多くとも反撃できないわけじゃない。
逆に一定のパターンが出来上がっていてウィドウはそれを見抜いていた。
ほとんど固定されたような連携は受けるのは確かに厄介であるが反面脆い部分もある。
ウィドウがスノーケイブの攻撃をかわして腕を切り飛ばした。
それだけでいい。
緻密な連携であり、勢いに乗っているほどほんのわずかな狂いが大きなものとなる。
入れ替わりのスノーケイブが腕を切り飛ばされて叫ぶスノーケイブとぶつかる。
避けて後ろに下がるはずだったのに痛みで動けなかったのだ。
「流石です、ね!」
「君もやるな」
こちらだって連携も負けていない。
ウィドウが作った隙をついてリュードはぶつかった方のスノーケイブに素早く距離を詰める。
飛び退いてかわそうとしたがもう遅い。
リュードがスノーケイブの胴をなぎ、真っ二つになりながら飛んでいった。
その間にウィドウはしっかりと腕を失ったスノーケイブを切り倒していた。
「こちらは大丈夫だ!」
スノーケイブの連携を受けている間に内側が終わってリュードたちに強化が入る。
気づけば外側の数的優位もなく、内側も1人も倒せてもいない。
「逃げるぞ!」
判断が早く、スノーケイブは敵わないと考えて背中を向けて逃げ出した。
「逃すか!」
リュードたちはスノーケイブを追いかけ、ラストやブレスが魔法で攻撃する。
「ナイス、ラスト!」
ラストの矢が足に刺さりスノーケイブが転がる。
飛び上がったルフォンがナイフを振り下ろしてスノーケイブの喉を切り裂く。
「フゥン!」
ダリルはメイスを投げつける。
高速で飛んでいくメイスはスノーケイブの後頭部に当たって高くぶっ飛ぶ。
グワんと脳が揺れてまともに走れなくなったところをウィドウが切りつける。
「待ちやがれ!」
ブレスの火の魔法がスノーケイブの2体に当たる。
1体をケフィズサンが、そしてもう1体をリュードが倒す。
「チッ……逃してしまったか」
脇目も振らずスノーケイブは逃げていく。
最後の1体を逃してしまった。
「厄介そうな魔物だが……強くはなかったな」
強さでいけばレッドットベアの方が強かった。
攻撃力も防御力もレッドットベアの方が高かった。
機動力に関してはいい勝負だが開けた場所ではそんなに差があるほどでもない。
知能の一点に関してはスノーケイブの圧勝だろう。
後衛を狙ってくるやり方といい、不利を悟ったら逃げ出す早さといい賢さはある。
ただし今のところはそれだけだ。
連携攻撃も厄介だけど対処できないものでもなく、さらに後衛を狙う可能性があることはもうわかっている。
2度も後衛を奇襲されるほどリュードたちだって甘くはない。
それなりに強いがあくまでもそれなりのレベル。
本当に攻略不可ダンジョンの魔物なのかと疑いたくなる。
やや拍子抜けだ。
スノーケイブのドロップ品は毛皮や牙といったものだった。
レッドットベアのものは分厚く暖かそうだった。
スノーケイブのものも暖かそうだけどレッドットベアのものよりも薄く、加工はしやすそうだ。
フィールド型ダンジョンの厄介なところはボスがどこにいて何なのか分からないことである。
何度も攻略に失敗していると同じ魔物が強くなってしまい、強い個体が存在することもある。
たとえ強い個体でもボスとは一概に言えないこともあるのだ。
あるいは知識の伝授。
逃げ延びた魔物が知識を蓄えていってより狡猾になることもあり得る。
外ならばそうした魔物には名前がつけられたりするものだけどこうしたダンジョンの中では大体どこかで倒されるので名前まではつけられない。
しかしそんな知識の伝授が行われているんじゃないかと思えるようなスノーケイブたちの狡猾さ。
今度は挟み撃ちでスノーケイブが襲いかかってきた。
リュードたちを前後から襲撃して弱いところを攻撃しようと目論んできた。
油断なく警戒していたおかげで素早く体勢を整えてスノーケイブを返り討ちにしたがまだ逃げられてしまった個体がいた。
知恵を使う相手に油断すると一気に総崩れになってしまう。
単にまっすぐ襲ってくるレッドットベアも嫌な感じのする魔物だとみんな思っていた。
「ここら辺は比較的平坦だな。
今日はここで切り上げよう」
薄暗いから時間の変化が分かりにくい。
やや暗くなってきた感じがするし、ずっと緩やかだった上りが平坦になった。
時間の余裕を考えるともう少し進めるが斜めのところで休むよりも平らなところで休んでおいた方がいい。
「なんだか夜じゃないのに暗くなってきたような気がしますね」
「そうだな……少し嫌な予感するな」
リュードに言われてウィドウは空を見上げる。
薄暗くなっている空は微妙な明るさを保っているがなんだかさらに暗くなったような気がした。
ーーーーー
「これまでは運が良かったな」
テントを張っている最中からチラチラと降っていた雪の勢いが強くなってきて本格的に降り出した。
段々と降る雪や風の強さが増していき、空はどんよりと暗くなっていった。
あっという間に天候は吹雪となった。
極寒のダンジョンの中ではこうした天候の変化があることは聞いていた。
こんなに激しく吹雪くものだとまでは想像していなかった。
今までは天候が荒れることはなく運が良かったのだと思った。
雪がテントを叩きつけて吹き荒ぶ風の音がうるさい。
こんな音がしていては落ち着いて寝られない。
なんとか気にしないようにして寝てはみたけれどどれだけ時間が経ってかも分からない。
ルフォンがテントの中で温かいものを作って各テントに配って周りそれぞれ休息をとる。
さっさと休んで早めに移動するつもりだったのだけどこれでは移動は難しい。
悪天候の中でスノーケイブと会うと面倒だしリュードたちはそのまま天候の回復を待つことにした。
「近くない?」
リュードたちのテントはリュードとルフォンとラストの3人で使っている。
着替えやなんかにも使うし大きめで丈夫な高いテントを買ったので3人でも余裕なのだけど今はルフォンとラストがリュードに寄っているので結構スペースがもったいないことになっている。
「風の音が怖いから」
「そんな子供じゃあるまいし……」
「いいじゃん?
どうせ同じテントの中にいるなら離れたってそんなに離れらんないし」
「それにこうした方があったかいし」
リュードお気に入りのインナーの発熱もあって3人身を寄せ合ってポカポカしている。
「まあそれもそうか」
人肌の暖かさも悪くない。
「おい!
敵だ!
囲まれてるぞ!」
そんなささやかな幸せな時間をぶち壊すのはやっぱりスノーケイブだ。
短時間の交代で外の見張りは欠かさない。
リュードたちが外に出てみると外は暴風吹き荒れる横殴りの猛吹雪。
ただ真っ暗ではない。
時間帯的には夜は越えているようだ。
降りしきる雪の間からスノーケイブの血走った目が見える。
見渡してみるとグルリとテントを囲むようにたくさんのスノーケイブがいた。
「やはり逃した影響はあったか……」
仲間を呼んできたに違いない。
スノーケイブの賢さなら罠があるかもしれないと追跡をやめたのが悔やまれる。
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