真白な世界を駆け抜けて2
ハルヴァイは茶系に近い赤髪の女性の使徒である。
双剣使いでやや短めの剣を用い、やや小柄な体型を生かして素早い戦闘を行う。
双剣なのでナイフ使いのルフォンがスピード特化ならハルヴァイの方がもうちょっと威力を重視している感じになる。
レッドットベアも油断ならない相手ではあるが連携を確かめる、お手並み拝見とばかりに戦う。
「ふん!」
ダリルが立ち上がったレッドットベアの腹を横殴りする。
ダリルも人としては大柄な体格になるが立ち上がったレッドットベアはそれよりも大きい。
「ムッ!」
クリーンヒットした確かな手応えはあったのにレッドットベアはわずかに押されただけだった。
寒さにも耐え抜く厚い脂肪は打撃系の攻撃に対しても強かった。
レッドットベアの爪がダリルに襲いかかる。
ダリルはそれを盾で受け流すが素早く逆の爪も振り下ろされてくる。
ダリルはメイスを振るい、レッドットベアの前足にぶつける。
爪とメイスがぶつかって互いが弾かれる。
「はっ!」
「行くよ!」
その隙にルフォンとハルヴァイがそれぞれレッドットベアの側面から回り込む。
ルフォンが後ろ、ハルヴァイが前を通るようにしながら切りつける。
皮膚も固い。
打撃よりは良さそうだけど深く切りつけるにはしっかりと剣を振るわねばならない。
足場も悪い中ではレッドットベアの丈夫さはかなり面倒である。
だがこちらもまだ様子見である。
レッドットベアの方が上だけどダリルの力も絶望的なほどの差はないしルフォンやハルヴァイの速さにレッドットベアは対応できていない。
「ではそろそろにゃ!」
ニャロが手を伸ばし、もう1人の聖者アルフォンスが祈るように手を組む。
神聖力による強化。
うっすらとダリルやルフォンらの体が光って能力が強化される。
「効かぬわ!」
ダリルがレッドットベアの前足を盾で受け止める。
しかし強化を受けていても押し返すほどまでには至らない。
押し切られることを悟ったダリルは受け切るのをやめて下がりながら力を受け流す。
「お体は固いようですがここはどうですか?」
ダリルと入れ替わってハルヴァイが前に出る。
ハルヴァイが切りつけたのはレッドットベアの鼻。
白い体の中で真っ黒な顔の先端を狙った。
流石に鼻までは固くない。
そんなところを狙って攻撃されたこともないので痛みに鼻を押さえて怯むレッドットベア。
「肩借りるよ」
ハルヴァイの後ろから跳び上がるルフォン。
雪で足場が悪いのにそんなことを感じさせないほどに軽やかに跳んだルフォンはレッドットベアの肩に着地する。
クマは嫌いだ。
結構強くて厄介だし、なんだか事あるごとに目の前に現れてくる。
両手のナイフに魔力を込めたルフォンはレッドットベアの頭目がけてナイフを振り下ろした。
ルフォンには固い手応えが返ってきた。
けれど魔力をまとったナイフは固い皮膚も骨も突き破りレッドットベアの脳天に刃を届かせた。
グルンとレッドットベアが白目を剥く。
ナイフを抜いて肩を蹴って優雅にルフォンが地に降り立つ。
雪の上に倒れるレッドットベアはスーッと魔力の粒子になっていく。
「いい調子にゃ!」
「ラスト!」
「おーまかせー!」
まだ戦いは終わりではない。
次のレッドットベアを狙うのはリュード。
剣の先から魔法を放つ。
もはやリュードお馴染みの雷属性の魔法だ。
耐性は高くても対抗手段は持たない。
電撃が直撃してレッドットベアはビクビクと体を震わせて止まる。
どんな魔物でも大概持っている弱点というものがある。
鍛えようもなく中々防御も難しく、なのに攻撃されるとまずいことになる。
それは目である。
完全に動きの止まったレッドットベアを射ること自体は難しくないがその中でも特に有効そうな部位である目を狙うラスト。
目一杯に引き絞った弓から放たれた矢はほとんど一瞬でレッドットベアまで到達する。
弾かれたように頭が後ろに持っていかれ、そのまま倒れていく。
深々と目に刺さった矢。
さらに矢に込められた魔力が爆発して無惨にもトドメを刺す。
頭が破裂しないあたり丈夫さに驚く。
「イェーイ!」
リュードとラストが手を打ち合わせる。
雷属性の魔法も痺れさせることはできるので効果がある。
「負けていられませんね!」
ハルヴァイが他の冒険者が戦っているレッドットベアに駆ける。
それに気づいて裏拳のように振られる前足。
「これでどうですか!」
剣をクロスして引くようにしながら前足をスパリと切断した。
ハルヴァイの技量もかなり高い。
続いてダリルが腕を失ったレッドットベアの頭にメイスを振り下ろす。
脳天に当たったメイス。
大きく体を揺らしてふらついたところに冒険者たちがトドメを刺す。
魔力の粒子と消えドロップ品が雪の上に落ちるがそんなの拾うの後でいい。
リュードたちと討伐隊でレッドットベアをしっかりと片付けて群れを一掃した。
「まだ来るぞ……10……いや22体!」
しかし息をつく間も無く次の群れが接近してきていた。
さらに多い数のレッドットベアに討伐隊の冒険者の顔が青くなる。
逃げ道などないので戦うしか選択肢はない。
「ハルヴァイは支援に、ルフォンとラストで組んで無理なく倒してくれ!
ダリルと俺は1人1支援で戦うぞ。
いけるな?」
「任せておけ!」
危険だが相手の数が多い以上一体ずつなんて悠長なことは言ってられない。
あえてハルヴァイを下げてリュード、ダリル、ルフォンとラストに強化を集中させる。
討伐隊は3人1組が8つ、ベテランが2人1組が3つとなってレッドットベアを一体ずつ引きつけることになった。
それでもまだまだレッドットベアの方が多いので迅速に倒さねばどこかで被害が出る。
「いくにゃー!」
リュードの支援はニャロ。
レッドットベアなんて敵じゃないと思えるほどに体が強化によって軽くなる。
悪いが最初から力を出させてもらう。
リュードが剣にまとわせた魔力に雷属性の変化を持たせる。
走り出して一足先にレッドットベアと戦い始めるリュードに振り下ろされる太い前足。
「にゃはは!
スゴイにゃ!」
カウンターでレッドットベアの前足を切り飛ばすリュード。
あそこまで明確に強化の効果が現れるとニャロも嬉しくなる。
レッドットベアの間を走り抜けながら切りつけていき、ダメージを与えつつ痺れをさせて集団をバラけさせながらヘイトを集める。
「やるじゃないか!」
リュードの方に意識が向いていたレッドットベア。
後ろからウィドウが炎をまとった剣で一刀両断に切り捨てた。
ケフィズサンも着実に相手を減らしている。
上手く複数の注意を引きつけながら立ち回り、狙った1体の隙をついて倒している。
派手さはないが素早く確実にレッドットベアの息の根を止めていっている。
「ふおおっ!
なんかすっごいぞ!」
後衛職ということで神聖力で強化される機会がないラスト。
1人につき1人しか強化できないのではないから今はハルヴァイがラストもルフォンも強化していた。
強化ってこんな感じなのかと感動を覚える。
いつもよりも軽く弓を引ける。
魔力を多めに込めてルフォンがかき乱しているレッドットベアに狙いを定める。
「ここ!」
乱戦なので目はちょっと難しい。
でも狙うべきはそこらへんだ。
魔力が込められて貫通力の上がった矢が額のど真ん中に当たる。
頭も貫通して奥にいたレッドットベアに刺さって止まる矢。
神聖力の強化は矢の威力まで向上させてくれていたのだ。
討伐隊はのちに語る。
プラチナランクは凄かったと。
リュードたちは全くプラチナランクでもなんでもないのだけどプラチナランクが仲間に選んだ人たちという認識。
不利にも思われた状況があっという間に逆転していく。
ウィドウも容易く剣を振るっているように見えるがリュードも負けず劣らず固いはずの毛皮を切り裂いていて戦っている。
「俺たちゃ幸運だったな」
彼らなら本当に攻略も成し遂げてしまうと思えるほどの働きで追加のレッドットベアたちも魔力の粒子とされてしまったのであった。
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