真白な世界を駆け抜けて1

 ダンジョンと言えば入り口は大体の場合洞窟の入り口のようになっていることが多い。

 中は洞窟とはかけ離れた世界になっていても入り口の見た目上は自然に出来上がったもののような姿をしている。


 神殿風とか建物のような形をとっていることもあるが多くあるダンジョンの中では少数派である。

 まして扉だけポンとそびえているなんてウィドウですら初めて見る光景だった。


 巨大な石の門。

 それだけが雪原の真ん中にある。


 近づくほどに異様な光景でその雰囲気に息を飲む。

 不思議と極寒のダンジョンの門周りには魔物が来ない。


 ダンジョンに入る前に野営して最後に体力を回復しておく。

 その間にリュードは石門の後ろを覗き込んでみたけれど分厚い門があるだけで後ろも雪原が広がっていた。


 一晩休んで次の日、何度も討伐隊に参加しているベテランが先に立って門に手をかけた。

 人の力ではとても動かなさそうな巨大な門なのに押すと軽いもののようにスッと門が開き始めた。


 門の向こうに広がる世界もどこまでも白い雪原。

 しかし門の後ろに見えていたわずかな木々の姿はない。


 そして門の中から出てくる空気は魔力を孕んでいてどこか重たい。

 討伐隊が入っていき、リュードも門の中を覗き込む。


 無かったはずの赤い旗が見える。

 門の横に回って周りを見渡すが赤い旗はなく、それがダンジョンの中にあるものだと理解した。


「ダンジョンの中は広い。


 その上門が端で始まるのではなく、門から四方にダンジョンは広がっている。

 だから無闇に進むと帰り道すら分からなくなる。


 だから旗を立てているんだ」


 見えている赤い旗はこれまで討伐をしてきた知恵の産物であった。

 ダンジョンというのは基本的にダンジョンが生み出したものと生きているもの、生きているものが持っているものを除いて時間が経つと魔力に分解されてしまう。


 亡くなった人や遺品などもダンジョンに放置されているとそのうちに無くなってしまうのだ。

 どれほどの早さで魔力にされてしまうかはダンジョンによるのだけどダンジョンが生み出した魔物が倒されたものが最も早く魔力になる。


 死体なんかも割と早く、物は意外と残っていたりする。

 その点で極寒のダンジョンについては魔力への分解が遅い。


 魔物の死体を分解する速度は変わらないのだけどそれ以外のものに関してはかなり遅い。

 そのような特徴に目をつけて生み出されたのが道標の赤い旗である。


 金属製の支柱に大きくて分厚い赤い布で旗を作った。

 頑丈で大きく作っているのは目立つからというだけでなく分解されるのを遅らせる目的がある。


 旗は1年経ってもダンジョンに分解されないで残っている。


「そして討伐はこの旗を目印にしながら、旗を交換しながら行うんだ」


 2年は流石に旗も持たない。

 だから目印となる旗に沿うように浅いところを移動しながら、来年用あるいは他の人がダンジョンに入った時のために旗を新しく立てておく。


 赤い旗はこの白い世界で出来る限り生存率を高めるためのアイデアであったのだ。

 なんかやたら長いものを運んでいるなとは思っていた。


 まずは門近くの旗から交換する。

 旗を抜いてみると意外と棒が長い。


 下は分厚い雪なのでそこに突き刺すために長く作られているのだ。

 一応抜いたものだと分かりやすくするために旗の部分を切り取って棒は横に置いておく。


 まだ棒が消えるタイミングではないが消える可能性を低くするために行きから旗を変えるのだけど棒を持っていては邪魔なので帰る時に回収していくのだ。

 一度外に持ち出せば消えるまでの期限はリセットされるので棒は再利用する。


 旗の部分は冷たい風にさらされて劣化するので新しくする。


「いたぞ。


 みんな準備しろ!」


 望遠鏡を覗き込む討伐隊の冒険者が離れたところにレッドットベアを見つけた。

 見晴らしが良いので見つけるのにもそんなに苦労はしない。


 レッドットベアの方からもすぐに見つかるなんて弱点はあるけれども。

 リュードたちはお手並み拝見と戦いから一歩下がる。


 討伐隊は5人1組になってレッドットベアに向かった。

 レッドットベアの方も遅れて討伐隊に気づいて駆け出す。


 雪もものともしないで駆けてくるクマの姿は迫力がある。

 特殊技能タイプの魔物ではないなと見ていて思ったけれど全く持ってその通りだった。


 レッドットベアが冒険者を押し潰そうと両手を振り下ろしたり、腕を振り回しているのをみるとパワータイプの魔物のようである。

 素早い攻撃であるが討伐隊も素人ではない。


 慣れた様子攻撃をかわしてレッドットベアと距離を保ち、それぞれがうまくレッドットベアの注意を分散させて安全に戦っている。

 まだレッドットベアに当たる討伐隊だけでなく待機している人たちもいるので安心して見ていられた。


 しっかりとレッドットベアを倒すとすぐさまレッドットベアの死体が魔力の粒子となって消えていく。

 後には幾らかの毛皮と魔石が残って落ちていた。


 毛皮もそれなりの大きさで綺麗なものでここからの加工もやりやすい。

 リュードはどんな仕組みなのか疑問に思うけどこの世界の人にとってはこれがダンジョンであって考えても答えの出ないものだからみんなそう受け入れている。


 こうやって大体等間隔で立てられている旗から旗へと移動しながらレッドットを倒していく。

 レッドットベアは現在のところ同時には最大3体までしか出てきおらず、リュードたちも慣れるのにレッドットベアを倒させてもらったりもした。


「えっとひい……ふう……そろそろかな?」


「何がですか?」


「これまでは浅いところのさらに浅いところだったけどここら辺から浅いところの深いところになる。


 レッドットベアの数もこれまでよりも多い群れに遭遇する可能性がぐんと上がるんだ」


 いわばこれまでのところは腕慣らし。

 本番はこれからである。


 旗の数を見て門からどれだけ離れたかを計算する。

 明確な境があるわけじゃないし確率的な問題なので確実なことは言えないが浅いところもなんとなくレッドットベアの出方が違う浅めの浅いところと深めの浅いところがある。


「ダンジョンブレイク防止のためには群れの1つや2つは片付けないとな」


 何も討伐も1日で行われるのではない。

 何日かかけてレッドットベアを探して倒していく。


 遭遇した数が少ないと不安が残るので長めにダンジョンに潜って探したりする。

 群れに会うのはリスクがあるが数は倒せるのでありがたさはあるのだ。


「いたぞ……12!」


 レッドットベアの群れが見つかった。

 これまでの3を上回る12体の群れ。


 数としては多い方だがこちらが見つけたということはあちらからも見つかってしまう。

 無駄に視界がいい雪原だと見つけるのが早くて接敵するのに余裕が持てるけど奇襲や誘き寄せが出来ないのは痛い。


「打て!」


 魔法使いや弓持ちが遠距離攻撃を放つ。

 火系の魔法がほとんどで一塊に向かってくるレッドットベアの群れに飛んでいく。


 半分ほどはかわされるが半分は当たる。

 魔法の耐性もそれなりにあるレッドットベアに大きなダメージはなく怯んだだけになるがそれで十分。


 12体がひとまとまりだったところ進行速度にバラツキが生まれる。


「リュード君たちはダリルさんたちと一緒に。


 こちらはこちらで戦わせてもらおう」


「分かりました」


 ケフィズサンはそのメンバーだけで連携が取れている。

 6人パーティーで人数的にも十分なので変に他の人が入るよりもそのままの方が強い。


 リュードたちは3人なので聖職者たち4人と組んで戦うことになった。

 リュードが前に出てダリルともう1人の使徒であるハルヴァイも同じく前に出た。

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